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オルガンのための10の小品 "Dix Pieces" 第四曲 トッカータ hmoll
第3話 巣箱と女の子
しおりを挟む中庭は四方から景観を望めるようにガラス張りになっている。正面玄関のある東面と、その向いの西面は足元から天井までのガラス張り。南北面は廊下が伸びているため、腰高のガラス張り窓になっている。
西面にはちょっとしたスペースがとられており、テーブルと椅子が設置されていた。
しかし、こんな特殊なホールのその場所で寛ぐ人は少ない。星音堂に用事がある人間は、大抵が練習室やホールの利用者なのだ。寛ぎのスペースで時間を潰す人がいることに驚いたのだった。
蒼がじっと彼女の視線を向けていると、星野も手を止めた。
「どうした」
「え。あの。そこの女性——」
そこまで言ってからはっとする。先ほどまで女性が座っていたと思ったのだが……。そこには誰もいなかったのだ。
「なんだよ? なんな訳? おれのこと驚かそうとしてんの? この蒼猫」
「違いますよ。別にそんなんじゃ……」
確かだったはずだが、人間の記憶ほど曖昧なものはない。蒼は自信がなくなってしまって口を閉ざした。
星野は一息吐くと、そのまま蒼を見た。
「オイオイ。ナンパとかすんじゃねーぞ。職員の素行を疑われる」
「ち、違いますよ。そんなんじゃ」
「お前、彼女もいねーもんな。まあ、いんじゃねえか。ちゃんと彼女の一人くらい、いないとつまんねーし。っつかさ。彼女いたことあんの? お前に」
失礼な言いぐさだが、半分は事実なので大きな声で抗議もできない。
「い、いましたよ。いました」
「過去形だろう?」
星野はにやにやとする。なんだか悔しい。
「そう言っている星野さんこそ、彼女いないじゃないですか」
「うるせーな。生意気言うんじゃないよ。本当に。おれは独身貴族を楽しんでんだよ」
「また、そんなこと言って。自分のことは棚に上げるんだから……」
「できた!」
どうでもいい会話をしているというのに、星野は手早い。もう鳥小屋を組み立てたらしかった。
「早い。そして、可愛い」
三角の赤い屋根。白い本体には、丸く小さい穴がくりぬかれていた。
「小さくないですか?」
「スズメ用だ。でかいとシジュウカラが入っちまうからな」
「シジュウカラ……。なんだ。星野さんもスズメが好きなんじゃないですか」
「おれは、ちっさいもんが好きなの。別にいいじゃねーか」
——素直じゃないんだから。星野さんって。
口は悪い。態度も横柄。でも、心が優しいってこと、よく理解してきた。星野という男は、ともかくいい人だ。
針金で木に括り付けられた鳥小屋は小さいが、パッとあたりを明るくした。
「いいですね」
「だろう?」
「星野さん、できたんですね」
吉田が感嘆の声を上げながら中庭に出てきた。
「お前さ、終わった頃にくんなよ」
「仕方ないじゃないですか。遅番で今出勤してきたんですよ。——それにしても素敵ですね」
三人で鳥小屋を眺めていると、ふと先ほどの女性が気になって視線を戻す。
——やっぱりいない。
蒼は首を傾げてから鳥小屋に視線を戻した。
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