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乾杯の歌
第2話 親父たちの杞憂
しおりを挟む目の前に並んでいる中華料理をつつきながら宴の時間は過ぎていく。
「関口がコンクールに出るらしいじゃない」
「やっと重い腰を上げたのか」
「まったく冷や冷やしますね」
豆苗炒めをつつきながら水野谷は関口のことを思い出す。
「もう落第するのは楽だなのかと思ったのによぉ」
「そのところどころに親父ギャグ挟まないでくださいよ」
氏家が親父ギャグを発する度に意味を理解しようと、ぶつぶつと呟いている野原が不憫になってきたので、水野谷は彼を少したしなめる。
「え~。面白いのにい」
ぶうぶうと頬を膨らませる氏家は、うがいをするみたいにぶくぶくと頬を鳴らした。今日は、いつもと違うゲストの登場でテンションが上がりまくっているらしい。
「いやいや、でもさ。蒼も友達ができてよかったんじゃないか? あいつ。本当に友達いないみたいだもんな」
「いやいや。氏家さん。あんまりお友達が楽しくなっちゃうと結婚遅れますから。わかるでしょう? うちの職場。既婚は僕、氏家さん、高田さん、尾形。もうとっくに適齢期過ぎている星野も吉田もまだです。いい加減に所帯もったほうが男として仕事に夢中になれると思うんですけど」
水野谷の肩を氏家はバシバシと叩いた。
「やだな~。課長は。それは昔の考えでしょう?」
「そっかな?」
「そうそう。我が家なんて、お母ちゃんのほうがおれより給料取ってくるんだから。おれの肩身狭いんですよ。独身のほうがマシだよ~」
高田は泣き真似をした。
「そういえば、高田さんの奥さんって」
「保健センターで係長してますよ」
高田の妻は同じ市役所職員である。しかも専門技師。確か保健師だったと思われる。水野谷も一度見かけたが、少しふくよかで肝っ玉母ちゃんみたいな人だった記憶があった。
「確かに。あれは怖いよ」
「怖い? 怖い係長……? 肩身が狭いのか。独身の方がマシ……」
隣で自分には一切関係のない話に巻き込まれている野原だが、真面目な性格が祟っているのだろう。
この二人の話題は無視してもいいレベルだが、いちいちこうして反応を見せる。
なんだか微笑ましい気持ちになる水野谷をよそに、自分の妻を「怖い」呼ばわりされた高田は、「そうでしょう、そうでしょう」と妙に自慢げに深く頷いて見せた。
「まあ、支えてもらっていますからね。文句は言えないけどさ」
「氏家さんのところなんて孫いるもんね」
今度は氏家がにこにこする番だ。
「先月六歳になったんですよ~。もう生意気でね」
彼は嬉しそうに楽々スマートフォンを取り出して画面を見せてきた。そこには坊主頭のやんちゃそうな男の子がいた。水野谷は羨ましい。
「いいな~。うちの娘、まったく結婚する気がないですもんね」
「だから。今時なんですよ。そういうの。水野谷課長の娘さんは図書館で忙しいじゃないですか。みんな仕事が忙しいの。星野や吉田が結婚しなくたっていいじゃないですか」
「まあ、そうですけどねえ。おや。そういえば野原も独身だったね」
「はい」
「結婚しないの?」
「しませんね」
即答された水野谷は返答に窮した。それを見ていた高田は「ほらみろ」という顔をする。
「ほらほら。こう潔いほうがいいもんですよ。ね? 野原課長」
「わかりません」
「ど、どっち!? どっちなの!?」
高田は野原に突っ込みを入れるが、日本酒を飲んでいる野原は無表情で頭を下げた。
「高田さんの日本語の意味がわかりません。申し訳ありません」
「そんな~。もう。冷たいよぉ」
泣き真似をする高田を見て、氏家は「えへへ、しくしく36」といつものギャグを言いながら笑っていた。
困惑するしかない野原は困って水野谷を見た。それを受けて水野谷は話題を変えることにした。
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