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何者にもなれなかった男。

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 20XX年4月21日。
 夜は更けて、直に日付けは変わるだろう。
 そして僕、鈴木明すずきあきらはバースデイを迎えて16歳となる。

「ステータスを得られる確立は二分の一か。
 もし、ここでもダメだったら・・・。」

 一か八か、丁か半かの大博打。
 僕の心は不安で押し潰されそうだった。
 
「こうなった以上は腹を括るしかない。
 ……取り敢えず落ち着こう。」

 高まる鼓動を抑えつつ、瞳を閉じた。

 闇の深い新月、静まり返った室内には、
 カチカチと刻む秒針の音だけが響いていた。

 そして、昼間の出来事が想起された。

 ………………
 ……………
 ………

『おい、どういうことだ!?
 一万持ってこいて言ったべ、
 何で千円しか持ってきてないんだ!』

 クラスカーストトップのイケメン君は、僕の昼食代千円を雑にポケットに突っ込むと、今度は僕の鳩尾に膝蹴りをお見舞いした。

 衝撃とともに強い痛みを感じ呼吸困難に陥った。 
 僕は無様に膝をついて地面に蹲ることしかできなかった。

 (何で僕ばかりこんな目に・・・。)

 人は生まれながらに平等ではない。
 容姿も、才能も、財産も、育っていく環境も、
 何もかもは違っていて、持つ者強者持たざる者弱者は確実にいる。

『ははっ だっせ。てか、こいつ弱すぎでしょ!?
 何をやらせても役に立たねぇし・・・。
 きっと親がダメだからこいつもダメなんだぜ!』
『子供は親に似るというし、親ガチャ大外れってわけか。』

『『『『はっはっはっはっ』』』』

 イケメン君と取り巻きたちは、肩を組みながら大笑いしてた。

 僕は常に持たざる者弱者持つ者強者よって、搾取され続けてきた。

 どれだけピンチになったとしても少年漫画のように都合よく覚醒することもなければ、未来から猫型ロボットがやってきて助けてくれることもない。

『貴方たち何やってるの!』
『ゲッ 河原だ、逃げるぞ!』

 でも、僕には幼馴染がいた。…伊吹ちゃん。

 校舎裏へ颯爽と現れた川原伊吹かわはらいぶきこと伊吹ちゃんは、逃げ惑う男たちを鞘つきの日本刀に、時代劇さながらの立ち回りで、バッタバッタと薙ぎ倒した。

 嬉しさ、と同時に悔しさもあった。
 何より、何もできなかった無力な自分に腹を立てた。

『親ガチャ大外れ。』と言われ・・言い返すことすらできずに。
 僕がダメなせいで親までバカにされてしまった。

 確かに僕の父親はろくでもない。
 酒に酔っては絡んでくるし、競馬とパチンコの話しかしない。

『親ガチャ大外れ。』・・・確かにそうかもしれない。
 でも、育ててもらった恩はあるし、感謝もしている。
 だから、僕ではない他の誰かに『親ガチャ大外れ。』などとは、
 決して言われたくはなかった。

『大丈夫ですか、明君!」
『……うん、大丈夫だよ。』

 伊吹ちゃんは僕を心から心配して手を差し出してくれる、でも、僕にはその手を掴むことはできなかった。

 (くっ 僕は……。)

 これでも努力してきた、バカにされないように。
 幼馴染に依存している今の環境を変える為に。

 多くのことに挑戦した。
 可能性に期待して秘められた才を追い求めた。

 一つでいい、たった一つでいいんだ。
 例え他はダメだとしてでもその一つを伸ばしていけば・・・
 こんな僕でも何者かになれるかもしれない。

 ………………
 ……………
 ………

 何度も何度も挑戦し、何度も何度も挫折した。
 底なし沼に足を踏み入れたかのように。
 足掻けば足掻くほどに僕の心は、沈んでいった。
 僕の淡い幻想は粉微塵に打ち砕かれてしまった。

 結局のところ、
 現実は残酷でダメな奴は、何をやってもダメなのだ。
 期待するだけムダだ、
 やはり生まれた瞬間に全ては決まっていた、
 親ガチャに失敗した僕は底辺の人生を歩むしかない、

 そう割り切ることができたなら、諦めることができたなら、
 むしろ、楽だったのかもしれない。
 でも、未だに現実を受け入れきれない僕は―――
 未だに、見苦しく足掻き続けていた。

 僕は、ゆっくり目を開いた。










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