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僕にしか見えない小悪魔リア。

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「一つ質問しても良いデビか?」

 腰を抜かして動けない僕に怪しげな存在は聞いていた。

 空飛ぶボンテージ美少女、非現実的な光景だ。…でも、可愛い。

「先にその格好について説明してほしいんだけど……。」
「体に異変はないデビ?」

 …スルーかい。

 僕は自分の体をペタペタ触りながら確認した。

「……ん、そういえば何かポカポカする。
 力も漲ってくるし……まさか、僕に何かしたのか!?」

 僕が焦ったように尋ねると、怪しげな存在は首を左右に振った。

「それは違うデビ。主様がスキルの条件を満たしたことで、
 能力値があがったデビよ。さあ、確認デビ!」

 怪しげな存在に急かされて、僕はステータスを開いた。

 ―――――――――――――――――――――――――――――
 【鈴木明】
 種族:人間  Lⅴ:0
 信仰:なし 
 経験値:1/5
 魔力:1/1
 攻撃力:5(+1)
 防御力:4(+1)
 速度:6(+1)
 感性:7(+1)
 知力:5(+1)
 魔法:無属性魔法
 スキル:血肉晩餐
 称号:邪神の加護
 装備品:ナイフ 
 ――――――――――――――――――――――――――――― 

「確かに。すべての能力値が一つずつあがっている。」
「ちょうど、レベルが一つあがる分の上昇値デビな。」

 …上昇値は皆変わらないと聞くしね。

「うん。まあ、相変わらずレベルはあがっていないけど。」
「フッ それにしても基本能力がひどすぎるデビ。」
「ほっとけ!」

 鼻で笑われた。男子の平均値は十前後だと聞くし、僕の基本能力は下手したら女子より低い。…まあ、知ってたけどね!

 怪しげな存在はスキル血肉晩餐についての説明を始めた。
 
 ・夕飯時に魔物を食べるとパワーアップ。
 ・レベル1つ上昇分のステータスがあがる。
 ・同じ魔物を何度も食べてもレベルはあがらない。(1度きり)

「このスキルって強いの?」
「もちろん強いデビ! 主様は魔物を“たった一体”倒すだけでレベルアップの恩恵を受けられるデビよ。」
「そうか………。バンバンダンジョンを回って魔物肉を食べれば、他の人より早く強くなれるね。」
「そうデビ。それにレベルが上がるにつれて取得しなければいけない経験値は増えて、レベルが上がりにくくなるデビ。でも主様にはそんな縛りはないデビよ。」

 …へー。

「まあ。悪くない効果だね。」

 僕がアイスを食べて当たり棒を引き当てたときのような、そこそこの反応をしていると、怪しげな存在はない胸を張って言った。

「そして、邪神様の加護を得た主様には―――なんと、この可愛い悪魔リアと契約を結ぶことができる権利が与えられるデビ!」

 …意味のわからないこと言いだしたな。
 こんな怪しげな存在と契約? 馬鹿げてる。
 
「主様の成長とともにリアも成長し、様々なサポートを……。」
「断る。」
「ちょっと、何処行くデビ!?」
「疲れたから、風呂入って寝るの。」

 僕は後片付けをして、リビングを通って台所へ向かった。

 どういうわけか、リアという小悪魔はブツブツ言いながらついてくる。

 食器類を洗っていると、髪を濡らした風呂上りの澪がやってきた。

「お兄ちゃん、食器なら私が洗ったのに。お風呂入ってきたら?」

 …そういや、澪にはこの小悪魔は見えてないのか?

「うん。ねえ、澪。僕の頭のうえを飛び回ってるこれ、見える?」
「え? 何も飛んでないけど………。お兄ちゃん大丈夫?」

 …そんな目で見ないでくれ!

「無駄デビ! リアの存在は主様以外は認識できないデビよ。」

 …先に言ってよ。

「お兄ちゃん…………?」
「ああ、大丈夫だよ。お兄ちゃん、ちょっと疲れてるだけだから……。」
「無理はしないでね。」

 僕は風呂に入った後、倒れ込むようにベッドに横になった。

 ベッドと一体化する感覚と心地いい疲労感で、まぶたは重かった。

 …はぁ 酷い誕生日だったな。
 明日はスーパーのタイムセールに行かないと……。

「今夜がやまだー。」
「うるさい!」

 でも、小悪魔のウィスパーボイスで中々眠りにつけなかった。
















 翌日。

 茜ちゃんと通学路を歩いて橋で別れた後、

「何で僕についてくるのさ。」
「行くとこなんかないデビ。責任を取ってリアを養うデビ!」
「責任を取るようなことをした覚えはない!」

 …人聞き悪いな。まあ、小悪魔の声は誰にも聞こえてないけど……。

「リアは邪神様の加護を得た主様より、生まれた存在デビよ。」
「ん、どういうこと?」
「スキルの副産物みたいなものデビ?」
「いや、疑問系で聞かれてもね……。」
「まあ、宇宙ひも理論デビよ。凡人が考えても理解できないデビ。」
「あっそ。」

 僕はいつものように土手沿いの道を歩いていく。

 濁りきった川を眺めていると、仲良く駄弁ってる不良たちの姿が見えた。

 もうじき朝のチャイムが鳴るというのに川原に座り込んではゆったりしてる。

 …はばたけ高校は一味違うな。…僕もサボるか?

「いや、伊吹ちゃんに心配かけるわけにはいかない。」
「何言ってるデビ?」
「こっちの話だよ。というか学校では話かけてこないでね。」
「何でデビ!?」

 …何でちょっとキレてるの?

「何でって他の人に見えない君と話していたら、僕が変人扱いされるよ。」
「酷いデビ………。学校とリアとどっちが大事デビ!?」
「学校。そんな当たり前のこと言わせないでよ。」

 僕は「うっ……」と下手な嘘泣きを始めた小悪魔をスルーして歩いていく。

 校門を通って昇降口へと向かい、靴から上履きに履き替えようとした時――

「あれ、これってまさか………。」

 下駄箱にはピンクの便箋びんせんが入れられていた。

 …間違えないラブレターだ!

 伊吹ちゃんや茜ちゃんと手紙のやり取りをしたことはあった。

 でも、本格的なモノをもらったのは初めてだ。

 この時の僕は人生初のラブレターをもらって完全に浮かれていた。

 良いことがあれば決まって悪いことがある、僕自身の運の悪さを自覚することもなく。




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