僕のお姫様は甘えん坊さんですね

萌乃頭巾

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吊り橋(後編)

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お城の中を一通り案内された頃には、ジャックとセシーリアはすっかり仲良くなっていた。
「では次は、お姉様のお部屋へ案内しますわ」
こちらですと、ドアの前へ案内されるとそばに居たメイドが声をかけてきた。
「あら、セシーリア様こちらにいたのですね。ドレスのお色直しの時間ですよ。」
「あ、もうそんな時間なのね。ジャック様、着替えてきますわ」
「わかったよ。じゃあここで待ってるね」
セシーリアはメイドと共に足早に隣の部屋へと入っていった。
と、フローリアの部屋のドアからなにか声が聞こえてきた。
(なんだろう…)
気になったジャックはこっそりドアを開けてみた。
「全く揃いも揃って私の美貌にメロメロで嫌になっちゃうわ」
フローリアは手鏡を片手につまらなそうに鏡に写った自分に言う。
(!!)
「あーでも1人だけ私のバーフェクトな美しさに興味がなさげな方が居たかしらね」
(僕のことだ…)
ジャックはそっとドアを閉めた。
今のは一体何だったんだろうか?
1輪の花のように可憐に微笑み、囲まれていた少女と同じ人物だったのだろうか?
(美少女は美少女なりに色々あるのかな)
なんて考えていると
「お待たせしました」
セシーリアが自室から出てきた。
黄色を基調としたドレスは、さっきのピンクでフリフリのドレスとは違った良さがあった。
「それでは次に案内するところは-」
-お城の案内も終わり、2人は初めて出会った場所に戻ってきた。
「あー楽しかったー。案内してくれてありがとう」
「楽しんで頂けて何よりですわ」
セシーリアは笑顔で答える。
「あ、そうだ。あの吊り橋はどこへ繋がっているの?」
ジャックはお城の一番端にかかっている吊り橋を指差す。
吊り橋の辺りは全体的に霧がかっていた。
吊り橋の先へ行けば行くほど霧が濃くなって、どこに繋がっているかわからない状態だった。
それが尚更気になった。
「え、えっと…」
「ねえ、行ってみようよ」
ジャックは吊り橋へと近づく。
「え、でもそちらへは行ってはいけないと言われているので…」
セシーリアもジャックの跡を着いてきた。
「少しぐらいなら大丈夫だって」
ほら、とジャックはセシーリアに手を差し伸べる。
セシーリアは恐る恐る手を握り、吊り橋へと1歩を踏み出した。
1歩歩く毎にギシッ、ギシッと吊り橋が揺れる。
「ほ、本当に大丈夫でしょうか…」
「結構揺れるね…」
霧がさらに濃くなってきた。
その時ドンと鈍い音が響いた。
「足元に気をつけてくだ…ってジャック様?!」
繋がれた手が離れ、ジャックの姿が見えなくなった。
「…っ、ここだよ…」
下の方から声がするので見てみると、ジャックが居たはずの足場が崩れ、吊り橋から落ちそうになっていた。
幸いにも両手で吊り橋の端を掴んでいるため、直ぐに落ちることはなさそうだが、それでも時間の問題だろう。
「ジャック様!大丈夫ですか?」
セシーリアはジャックの両手を引っ張る。
(綺麗だ…)
そのセシーリアの必死な表情が、今まで見てきたどこの誰よりも綺麗だった。
「誰かー?誰かいませんか?ジャック様がー」
セシーリアは聞いたこともないくらい大きな声で助けを求める。
それからセシーリアの声を聞いたメイドが兵士を呼び、なんとかジャックは助かった。

パーティーももうすぐお開き。
そんな時間だった。
「本当にありがとう、君は命の恩人だよ」
「ご無事でなによりですわ…」
「…また君に会えるといいな」
「私もそう思ってます」

こうして数年後、ジャックとセシーリアの婚約が決まった。
政略結婚ではあったが、そんなことどうでもよかった。
誰よりも綺麗で大好きなセシーリアと一緒になれる。
その事実がなによりもジャックにとっては嬉しかった。
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