琴音さんと宏和君のお話

紀之介

文字の大きさ
1 / 3

頑張ったんだよ!?

しおりを挟む
 いつもの公園のいつもの時計塔の横。

 待ち合わせ相手は、当然の様にそこに立っていました。

 スマホの電源を入れ忘れ、1時間以上遅刻。

 後ろめたい私は、後ろから回り込みます。

「お、お待たせぇ…」

 覚悟を決めた一言に、宏和は反応しました。

「岡田琴音さん」

 フルネームで呼ばれ、私の頭に中で アラームが鳴り響きます。

 宏和は かなり怒っている様です。

 何とか誤魔化せないかと、私は茶化します。

「ヒ、ヒロの怒った顔が見たかったから、遅れて来ちゃった♡」

「…満足した?」

 笑ってない目で、口を緩める宏和。

 茶化せないと悟った私は、本当の理由を白状します。

「ふ、服に悩んでたら…家を出るのが遅れちゃってぇ」

「…何で、前の日に準備しておかないの?」

「昨日の夜に、き、決めてはいたんだよ。」

 私に突然、スイッチが入りました。

「でも、実際に着て、鏡で確認したら…何か違って!」

 状況も忘れて、何故か始める自己主張。

「デートで、ヒロに可愛い私を見てもらおうと、頑張ったんだよ!?」

 熱くなった私の目を、宏和が覗き込みます。

「琴ちゃん…」

「何!?」

「真っ先に…僕に言わないといけない事が、あると思うんだけど」

 一気にクールダウンする私。

 唇を噛み締めながら、声を絞り出します。

「─ ち、遅刻して…ごめんなさい」

「はい、良く言えました。」

----------

「ほ・め・て!」

 ほとぼりが冷めたと判断した私は、頑張ったコーデを見せびらかしました。

 ボソッと、宏和が呟きます。

「…烏、みたい」

「え、ゴスロリの何処が?!」

「色が濡羽色?」

「それって…髪の毛を褒める時に使うんじゃないの!?」

 食って掛かろうとして、私は動作を止めました。

「しきりに頬を掻いているって事は…何か気になる事があるんだよね?」

 指摘されて初めて、宏和は自分の癖の発動に気が付いた様です。

「ヒロ?」

「スカート…」

「え?」

「─ ちょっと短すぎないかな」

 殊更 不機嫌そうに呟いた宏和に、私は余裕の笑みを返します。

「これは…ヒロと一緒の時しか着ないから、安心して♡」

----------

「そろそろ、公園を出ようか」

 ベンチから腰を上げた宏和に、隣に座っていた私は、腕を伸ばしました。

 宏和が、笑いを噛み殺します。

「繋ぐ?」

 唇を尖らせた私の手を、宏和はしっかりと握ってくれました。

 私は満足して、ベンチから立ち上がります。

「手を繋がないデートなんか、ありえないんだからね♡」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

夫から「用済み」と言われ追い出されましたけれども

神々廻
恋愛
2人でいつも通り朝食をとっていたら、「お前はもう用済みだ。門の前に最低限の荷物をまとめさせた。朝食をとったら出ていけ」 と言われてしまいました。夫とは恋愛結婚だと思っていたのですが違ったようです。 大人しく出ていきますが、後悔しないで下さいね。 文字数が少ないのでサクッと読めます。お気に入り登録、コメントください!

後宮の胡蝶 ~皇帝陛下の秘密の妃~

菱沼あゆ
キャラ文芸
 突然の譲位により、若き皇帝となった苑楊は封印されているはずの宮殿で女官らしき娘、洋蘭と出会う。  洋蘭はこの宮殿の牢に住む老人の世話をしているのだと言う。  天女のごとき外見と豊富な知識を持つ洋蘭に心惹かれはじめる苑楊だったが。  洋蘭はまったく思い通りにならないうえに、なにかが怪しい女だった――。  中華後宮ラブコメディ。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

処理中です...