琴音さんと宏和君のお話

紀之介

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駄目でしょ!

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「どうして?」

 いつもの公園の いつもの時計塔の横。

 17時の待ち合わせに、当然の様に15分遅刻した琴ちゃんは、謝るどころか 僕を詰問し始めました。

「何で、そんなものしてる訳!?」

 どうも、手袋の事を言っている様です。

「寒いからだけど」

「ヒロは今から…、私と何をするつもりなの?」

「─ デート」

「じゃあ、そんなものしてたら 駄目でしょ!」

 顔を顰める僕に、琴ちゃんは 食って掛かりました。

「手を繋がないデートなんか、ありえないんだからね!!」

「大丈夫。してても、手は繋げるから」

「デートで手を繋ぐ時には、手袋なんかしてたらNGなの!!!」

 腕を伸ばした僕は、琴ちゃんの手首を取ります。

「これは、何でしょう」

「…私の手」

「自分だって してるじゃない。手袋」

「つ、繋ぐ前に 外すし…」

「じゃあ、僕も同じで 良いよね?」

「うー」

----------

「はぁーやぁーくぅー」

 急かす琴ちゃんに、僕はお伺いを立てました。

「手袋を外すのは、繋ぐ方の手のだけで良い?」

「─ 仕方ないわねぇ」

 自分は、繋がない方の左手には しっかり手袋をしたままで、唇を尖らせる琴ちゃん。

 僕は苦笑しながら、出された右手を握りました。
 
「冷た!」

「どうだ、まいったか。」

「何でこんなに、冷たいの」

「冷え性だから♪」

 琴ちゃんの指に、殊更 力が入ります。

「何故か 手袋してても、手が全然 暖まらないんだよねぇ」

「もしかして…僕で 暖を取ろうとしてる?」

「だって、ヒロの手 温かいし♫」

「・・・」

「うふ♡」

----------

「ここにも、イルミネーショ通りが 出来ちゃったんだねぇ」

 白や青や黄のLEDで飾られた 通りの街路樹や建物に、歓声をあげる琴ちゃん。

 上機嫌で歩いていた足が、突然 止まります。

 僕は、繋いでいた手を引っ張られる形で、軽くつんのめりました。

「─ 琴ちゃん!?」

「駄目なの! まだ、お店に着いたら。」

「どうして?」

「右手は 暖まったんだけど、左手は まだなんだよ?」

「は?!」

「だから、今度は左手を繋いで 歩かないとなの!」

 軽く唇を噛んだ 上目使いの琴ちゃんが、繋いだままの手を左右に動かして、僕の腕を振り始めます。

「ヒーローーォ」

「…仕方ないなぁ」

「うふ♡」
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