有希子さんと浩紀君のお話

紀之介

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期待してるから♡

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「で、今年の誕生日プレゼントだけど…」

 デートの帰り道で尋ねる浩紀君。

「─ 何が希望?」

 隣を歩いていた有希子さんが、立ち止まります。

「サプライズ。」

「…は?」

「期待してるから♡」

----------

「…?」

 名倉家の居間。

 ドアを開けた希穂さんは、腕を組んで 居間のソファに沈み込んでいる、兄の浩紀君に気が付きます。

「─ 何してるの」

「困ってる」

 天井を睨んだままで浩紀君は答えました。

「…ユッコさんの誕生日プレゼントにね」

 部屋に入った希穂さんが、後ろ手にドアを閉めます。

「今年は、何が欲しいか…訊かなかったの?」

「サプライズが、ご所望なんだって。」

 希穂さんは、ソファの浩紀君の隣に、乱暴に身を投げました。

「まだユッコさんに、私がコウ兄の妹だってバレてないからこそ出来るサプライズがあるんだけど…教えて欲しい?」

「実現可能なアイデアなら<カフェ敦賀>のケーキセットを奢るのも…吝かではない」

「話が早くて嬉しいわ。あ・に・う・え♡ 」

----------

「絶対に来てる筈なんだけど。。。」

 扉を開けてた希穂さんは、ぬいぐるみ専門店<水の中の月>に足を踏み入れます。

 あらゆる種類のぬいぐるみで埋め尽くされた店内。

 お目当ての人物を見付けて、静かに背後から近づき 背中を指で突きます。

「ユ・ッ・コ さん」

「あ、希穂ちゃん。久しぶり♡」

----------

「この子が<ムラサキうさぎ>さんですか」

 有希子さんが差し出したぬいぐるみに、希穂さんは顔を近づけました。

「そう。今一番気になってる子♡」

「何で…お家に、連れて帰ってあげないんです?」

「今月は、お金が…」

 表情を曇らせた有希子さんに、希穗さんが耳打ちします。

「この子…私に譲って下さい!」

「え?」

「ある ぬいさんラブの人への、プレゼントにしたいんです。」

「…」

「ユッコさんのお眼鏡に叶うぬいさんなら、それに相応しと思いますし」

 手にしたぬいぐるみを見つめながら、有希子さんは思いを巡らせました。

「この子をここに残したままにしておくと…知らない誰かに連れて行かれかねないよね。だったら、希穂ちゃんの手に委ねた方が…」

 覚悟を決めた目が、希穗さんに向けられます。

「その人は…この子を幸せしてくれる?」

「─ 保証します!」

「だったら、この子の事は…希穂ちゃん任せる。」

----------

「お待たせー」

 誕生日デートの当日。

 玄関の扉を開けた有希子さんは、迎えに来た浩紀君に駆け寄りました。

「どう? 今日のコーデ」

「…良いと思う」

「ほ・め・て。」

「物凄く可愛い!」

「宜しい」

 浩紀君は、満面の笑み浮かべた有希子さんに、ラッピングされた大きな包みを差し出しました。

「誕生日おめでと」

「ありがとー」

 受け取ろうと、腕を伸ばした動作が、途中で止まります。

「え!? <水の中の月>のラッピング?」

 有希子さんは興奮して、包装紙を解き始めました。

「な、何でこの子が ここに?!」

 出て来たのは、希穗さんに譲った<ムラサキうさぎ>のぬいぐるみ。

 様子を見ていた浩紀君の口が、満足げに緩みます。

「ユッコさんが それを譲った相手って…僕の妹だったんだよね」

「コーキが、希穂ちゃんのお兄さん…」

「そう」

「希穂ちゃんは…コーキの依頼で、私からこの子を、譲り受けたって事?」

「正解」

「で、それを今、私はプレゼントされた訳!?」

「どう? このサプライズ」

「─ 凄い。」

「でしょ?」

「この子と私の絆!」

「は?!」

「あなたは…私の所に来る運命だったんだね♡」

 嬉しそうに、ぬいぐるみに頬ずりをする有希子さん。

 サプライズが、自分が意図したものと違ってしまった浩紀君は、内心で呟きます。

「この敗北感は、何だろう。。。」
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