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夢の始まり(前編)

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「いらっしゃいませー!一名様でしょうか?」

 俺に声を掛けたのはメイド服を着込んだ色白の女の子であった。陽の光を想起させるようなプラチナブロンドに、海の如く深い蒼を湛えた瞳が美のコントラストを産み出し、一種の芸術作品のようだった。

(何処だろうここは?)

 耄碌してるのではないか思えてしまうほど鈍い頭で、思考を巡らす。

 ああ分かった……ここは俺の夢の中だ。

 それにしても、ここまで鮮明な夢というのは珍しい。辺りを見渡せば、白い靄に取り囲まれていた。何だこの貧相な想像力は……余りの雑さ加減に目を回す。

 何とも感覚が朧げな足は、自意識とは裏腹にきびきびと動いた。そして、一つのテーブル席に案内されると、女の子に促される儘にのっそりと着席する。

「はい、こちらがメニューです」

 メニュー表を受け取って、案内してくれた女の子を見た。にっこりとした笑顔を浮かべ、此方に視線を向ける。時折、手をぐーぱーする等あざとい仕草もしていた。

「ご主人様はこちらの喫茶店に来られたのははじめてですか?」

「ああ」

 俺の脳内設定に寄れば、ここは喫茶店らしかった。更に女の子の服装からメイド喫茶の類であることは一目瞭然である。

 ただ、不思議なのが俺はこうしたメイド喫茶といった店に足を運んだ経験が皆無であるということだが。

 尚、初めても何も夢の中なのだからどうでも良いことだった。そもそも、この女の子の見た目年齢では、現実世界で働けるはずもないし。

「ここは女の子の体液を飲み物として提供する喫茶店なのです」

「そうなんだ」

 ……甚だしく烏白馬角な夢だな。俺も遂に度を超えた変態の仲間入りをしてしまったらしい。いや、元からだろうか。どうせ夢の中だ。何でもありだろう。

「その……恥ずかしいのですが、わたしのものも、提供してるのですよ」

 女の子は、天井の灯で煌めく白金色プラチナブロンドの髪束を揺らすと、顔を俯かせながら言葉を発した。そして、ちらりと此方の様子を伺うような姿勢を見せると「あの」と一声をかけて上目遣いの体勢になる。

「もしよかったらいかがですか!」

 マリンブルーの瞳をうるうるとさせながら此方に注文を懇願する姿勢は、童貞思春期の俺の心を折るには十分過ぎる攻撃だった。

「えーっと……」

「メニューを開いてみてください」

 まあ、何か頼んでみようか──

 これが夢の中であることを考えると、この子も自分の脳が創出した俺の分身なのだろうな。猛烈に虚しい。

──────────

ひなたの唾液 ❂500
あかりの唾液 ❂500
ひなたの愛液 ❂1000
あかりの愛液 ❂1000
ひなたの……

──────────

 体液って……まあ、そういうことだろうと思っていた。唾液、愛液とかがラインナップされている一番下には、小さな文字で裏メニューも有りますと書かれている。

 ❂……これは何だろうか。この後に数字が並んでいることから、恐らく通貨だろうと推論するが。

「これは?」

「それは、通貨の単位ですよ。ご主人様……もしかして、お金持っていないのですか?」

 うぐっ……お金なんて持っているわけがない。そもそも夢の中のお金って何だよ。夢の世界にまで経済を持ってくるな。

「残念ですけれど……お金持っていないなら……提供できな」

「……いや、待って!」

 ポケットに手を突っ込みながら、ここには大量のお金があると思い込む。すると、即座にじゃらっとした円盤状の硬い物に接触した。

 俺はぎゅっと手に力を込め、コインを一塊取り出すとテーブル上に置く。

「これ……で大丈夫かな?」

 少女は大量のコインを前に、開いた口が塞がらなくなっていた。時折、え?えっ?と声を零して面白いほど慌てふためく。

 あ、俺なんかやっちゃいました……ってこれは俺の夢の中であるから当然である。アホらしい……。

「これは……すごいです!金貨がこんなにたくさん……初めて見ました!」

「足りるってことかな」

 この驚きぶりからして足りない訳が無いが念の為、確認してみる。まあ、憂慮するまでも無かった。

「足りるなんて物ではないですよ!っと……ごめんなさい。えへへ、少しはしゃいじゃいました……ご主人様の前ではしたないです」

 少女はにへらと戯けた様に表情を緩ませると、即座に店員として……ここのプロとしてキリッとした姿勢と面構えに正す。
 
「それでは、何をご注文されますか……?」
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