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夢の始まり(中編)

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 重ねてメニュー表に目を落とすと、恐らく女の子の名前と……それに対して唾液やら愛液といったものが列挙されているのが読み取れた。

 私のも提供していると言っていたことから判断して、この少女の名前も載っているはずなのだが、肝心の名前を知らなかった。

「ごめん、名前を聞いてもいいかな」

 名前を聞いた途端に少女は平身低頭の姿勢となり慌て始める。もしかして、今更名前を教えていないことに気づいたのだろうか。

「あわわわ、ごめんなさいぃぃい!私はひなたです……」

 ひなた……か。そういえば、この子の身長はいったい幾つくらいなのか。

 案内されていた時を思い出して自分の身体と比較してみると、どうやらこの子は俺の臍下さいか程度までしか身長が無いようだった。

 メニュー表に視線を戻す。ひなた……うん、一番上に載ってたな。

「ひなたちゃんの唾液…‥頼んでみてもいい?」

「は、はい!ご注文ありがとうございます……!」

 オーダーすると、あっという間にひなたの姿は白い靄の中へと消えていった。

 自分で言うのもアレだが『ひなたちゃんの唾液を頼む』という文章は、犯罪者そのものでしかないな。

 待ち時間は無いに等しかった。小さな女の子の影はあっという間に大きくなる。白い靄から現れると、ゆったりとした足取りで、此方にやって来た。

 手を注視すると、黒色のコップが握られているのが確認できた。

「あの……ご主人様、ひなたの唾液……お持ちしました」

 慣れた手つきでテーブル上にコップを置く。コップの中身に目を向ければ、透明な液体に白い沢山の泡が乗っているのが瞳に映った。コップが黒色なのもあり、白い泡がより強調されている。

「あの……もしよかったら、なのですが」

 中々取っ手に手を伸ばさない俺に疑念を抱いたのだろうか。ひなたが息を呑む様な気迫でこちらに声を掛ける。

 夢の中であるにも関わらず、こういった経験に不慣れな俺はコップに口をつけるのを躊躇ってしまっていた。

「ここで、私の……ひなたの唾液、追加でお入れしましょうか?」

 どうやら勘違いらしかったが、断るのも忍びないと感じた俺はこの夢の流れに合わせて快諾する。

「……別に良いけど」

「はい!分かりました。特別サービスですよ」

 すると、ひなたはコップを手に持って、容器の縁にふにっとした艶かしい唇をくっつける。口の中に唾液を溜めるためか、くちゅくちゅと口内から卑猥な音が聴こえてくる。

 これを金髪碧眼の幼女がしていると考えると興奮してくると同時に背徳感が湧き上がってきた。

「あっ、れも、あまり……じろじろ見らいでくらさいね」

 ひなたはそう言ったが、透明な唾液が、ひなたの小さな桜色の唇から糸を引いてコップに並々と注がれていく様子をまじまじと目視してしまう。

 ……最初にも言った気がするが、夢にしては鮮明だな。俺の想像力に感謝するとしよう。

 あとこの光景は起きた後もぜっったいに忘れないように脳内メモリーに永久保存しておく。

「あっ!最後に……こうしてー」

 悪そうな笑みを浮かべると、ひなたは唾液でてらてらとしたベロを出してコップの縁を塗りたくるように舐めていく。

 最後とばかりにコップの中に小さな舌を入れ、スプーンの様に掻き回すと、ぷっ!と細かな唾を飛ばす。そして、ようやく納得したのかこちらにコップを差し出した。

「はい、どうぞです。飲んでみてください」

 手渡されたコップを手に取る。……口をつけた途端にそれはこの、ひなたちゃんとの間接キスになるだろう。

 男の本能としては、早く飲んでひなたちゃんを体の中に取り込みたいという純粋な性欲があった。

 しかし、それと同時に罪悪感と、他人の口内から吐き出された物を飲むいうことへの嫌悪感があった。

 匂いを嗅いでみようか。匂いさえ、何も感じなければきっとそれは水だ。匂いもなければきっと味もほぼ無味に感じられるはず。

 コップの中の液体に小指をちょこんと触れて、すぐに離す。すると、淫靡な糸を引いて垂れ下がっていく。

 ゴクリと喉を鳴らして思い切って鼻へと持っていく。

「あっ……」

 これヤバいやつだ。てか、これ夢だよね。夢なのに……何でこんなにすごく……女の子っぽい甘い匂いがするのか。

 というか、チョコレートっぽい匂いがするような。いや……そんなことはどうでも良い!

「あ、あの……」

 先程からの行動を今度こそ不審に思ったのだろうか、胡乱げな者を見つめる様子で声をかけてきた。
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