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彼女の姿が見えなくなって少しすると、聞き覚えのある声が聞こえた。


「ぼっちゃん!
よかった、こんなところにいた!!」

振り返ると、そこには吉田さんがいた。

僕がいなくなったと聞いて、捜しにきてくれたらしい。

…子供の誕生日なのに。


「ごめんなさい」

僕は謝り、車に乗り込んだ。

「無事でよかった」

吉田さんの涙に胸が熱くなりながらも、彼女にもう一度最後に会いたかったという思いが消えなかった。


待っていられなくて、ごめんね。
いつか絶対、迎えにいくから。


忘れないで――。






君との出会いはほんの一瞬。


それでも、僕の心を動かすのには充分だった。

暗闇に光が射して、世界は色づく。


少し優しくされただけ。
単純だと言われれば、そうかもしれない。



それでも、この胸にしっかり咲いた『それ』は今も消えることなく咲き続けている。
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