優しいキセキ

5

帰れない、帰る場所がないと言って泣いた私を、先生は自分の家に連れて行ってくれた。


『一人暮らしだから気を遣わなくていい』
そう言ってくれた。


先生はまだ新任で若かった。
生徒を自宅に呼んでるなんてバレたら自分だってヤバかったろうに。


私は先生の重荷にならないよう高校へも行かず、働きながら一生懸命家のことをしたよ。

帰ってきて私の作ったご飯を『おいしい！』って言って食べてくれる先生を見ているだけで幸せだった。


私はこのとき自分が作った料理を食べてもらえる幸せを初めて知ったんだ。


体の関係になるまでそんなに時間はかからなかったよ。


でも私は先生のことが本当に好きだったし、先生も同じ気持ちだと思ってたから自然なことだって思ってた。



しばらくは幸せな日々が続いたんだけどさ、ある日私の妊娠が発覚して…。


こんなことになってるんだ。

あとは想像できるだろ？


私はあっさりと捨てられたよ。


私、産みたいって言ったんだ。


そしたら

『ダメに決まってるだろ！自分が何を言ってるかわかってるのか？金なら出すからすぐに堕ろせ』

って。


でも私は引かなかった。

どうしても産みたかった。
愛する人との子供を。


お願いしますって何度も頼んだよ。


そしたら

『本気じゃなかったってお前もわかってただろ？な？お前も遊びだったんだろ？』


耳を疑ったよ。


堕ろせって言ってるのはまだ若いからとか、子供を育てるお金のこととかそういう理由でもなかったんだって。

挙句の果てには

『本当に俺の子かどうかもわからないじゃないか。俺が働いてる間何してたかわかったもんじゃない。どうせ外でいろんな奴とヤッてたんだろ？』

そう言われたよ。


ヒドイ話だろ？

それが仮にも教師の言葉かよって思わない？


私は体よく家政婦がわりと性欲処理機にされてただけだったんだ。

まぁ食べさせてもらってたのは事実なんだけどさ。



そんなこんなで私はまた家を失ったわけだ。


信じていた人に裏切られて、捨てられて…私はボロボロだった。

幸せを知ってしまった分、親に裏切られたときより辛かった。


毎日辛くて辛くて、本当に死にたかった。