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お互いの立場
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『契約結婚』
私達はお互いの利益のために結婚した。
私は単にお金が欲しかった。
貧しい家に育った私は、いつからかお金のある暮らしに憧れるようになった。
お金があれば楽ができる。
人の良かった父は、友人の連帯保証人になり、借金を背負った。
父も母も朝から晩までよく働いたが、暮らしは楽にはならなかった。
父の人柄は尊敬していた。
でもそんな生活をずっと見ていた私は、真面目に生きてバカを見るような、そんな風にはなりたくないと子供心に思った。
一方、吉哉さんは会社での立場的に。
結婚をしていないと世間体が悪いらしい。
一流企業のトップに立つ者には家庭があるというのもステータスになるのだ。
しかも吉哉さんはなんとその会社の社長の一人息子。
当然後を継ぐことになる。
しかし、親子仲は良くないらしく、親の決めたお見合い相手だけはイヤだったらしい。
半ば強引に私との結婚を決め、吉哉さんは何不自由なく育ったであろう家を出て、私と暮らすための新居に引っ越した。
結婚の際、一度だけ吉哉さんの父親と会ったことがある。
冷たい雰囲気で、話題は終始会社のこと。
その瞳から愛情を感じることはなかった。
母親は吉哉さんを産んでまもなく亡くなったらしい。
父親は仕事しか頭になく、小さい頃から勉強ばかりさせられ可哀相だったと、そこで働いていたお手伝いさんから聞いたことがある。
偶然出会った私達は、お互いの利害が一致し結婚した。
なので挨拶もないこの生活は私達の中では普通なのだ。
お互い不満があっても決して口に出すこともない。
与えられた『役割』さえこなしていれば―…。
吉哉さんは新聞に一通り目を通した後、出来上がった朝食を食べ始める。
おいしいとも、おいしくないとも言わない。
なので、食べられていればそれはオッケー。
残されているものはキライなものなのだと勝手に判断するようになった。
黙々と朝食を食べる。
私も箸をとり、食べ始めた。
私達の間にあるのは小さなテーブルだけで、顔を上げなくても視界に入るくらい近くにいるのに。
それでも一切の会話もない。
異様な光景。
でもいつしかそれが普通に思えるようになった。
…慣れって怖い。
でも、私だって最初からこんなだったワケじゃない。
始めにこの話をもらったとき、私の頭の中には暖かい家庭が浮かんでいた。
最初はこんな始まりだったかもしれない。
でも、これから愛を育んでいくんだと。
そう思っていたんだよ…。
目を閉じると、そのときの思いがまだ鮮明に蘇る。
まだ何も知らず、夢を見ていた自分のことを――…。
私達はお互いの利益のために結婚した。
私は単にお金が欲しかった。
貧しい家に育った私は、いつからかお金のある暮らしに憧れるようになった。
お金があれば楽ができる。
人の良かった父は、友人の連帯保証人になり、借金を背負った。
父も母も朝から晩までよく働いたが、暮らしは楽にはならなかった。
父の人柄は尊敬していた。
でもそんな生活をずっと見ていた私は、真面目に生きてバカを見るような、そんな風にはなりたくないと子供心に思った。
一方、吉哉さんは会社での立場的に。
結婚をしていないと世間体が悪いらしい。
一流企業のトップに立つ者には家庭があるというのもステータスになるのだ。
しかも吉哉さんはなんとその会社の社長の一人息子。
当然後を継ぐことになる。
しかし、親子仲は良くないらしく、親の決めたお見合い相手だけはイヤだったらしい。
半ば強引に私との結婚を決め、吉哉さんは何不自由なく育ったであろう家を出て、私と暮らすための新居に引っ越した。
結婚の際、一度だけ吉哉さんの父親と会ったことがある。
冷たい雰囲気で、話題は終始会社のこと。
その瞳から愛情を感じることはなかった。
母親は吉哉さんを産んでまもなく亡くなったらしい。
父親は仕事しか頭になく、小さい頃から勉強ばかりさせられ可哀相だったと、そこで働いていたお手伝いさんから聞いたことがある。
偶然出会った私達は、お互いの利害が一致し結婚した。
なので挨拶もないこの生活は私達の中では普通なのだ。
お互い不満があっても決して口に出すこともない。
与えられた『役割』さえこなしていれば―…。
吉哉さんは新聞に一通り目を通した後、出来上がった朝食を食べ始める。
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なので、食べられていればそれはオッケー。
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黙々と朝食を食べる。
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