同級生のお兄ちゃん

若草なぎ

文字の大きさ
上 下
8 / 30
桜井リョウスケの場合

side:桜井リョウスケ 文化祭④

しおりを挟む
優秀賞の発表で俺たちのクラスが呼ばれることはなかった。

優秀賞は3年生のクラスで昭和の遊びが楽しめる遊び場の提供だったらしい。

年配の先生方からの受けが良かったようだ。

優秀賞の発表も終わったのでダンス披露の準備が始まっていく。

うっちゃんはクラスのカメラ担当になってしまったため、俺は隣で眺める事にした。

音楽が流れ始め、各クラスのダンサー陣が入場する。

柏木さんと長谷川さんの姿が目に入る。

長谷川さんが柏木さんに話しかけ、俺たちに手を振っているように見えた。

俺は手を振りかえしそうになったが、うっちゃんの側に吉岡さんの姿が見えたのでそっと手を下ろした。

ダンスが始まる。

2人の姿を眺める。

柏木さんの姿を見つめてしまう。

キモいな、俺。

思わず頭を横に振った。

「リョウ」

うっちゃんに呼ばれ、横を見る。

パシャッ

写真を撮られた。

「俺じゃなくて、あっち撮れよ」

「クラスの写真係だぞ。演者じゃない方も必要なのよ」

他のクラスメイトの写真も撮っていく。

「センパイ」

後ろから声がした。

「猪狩さん」

「この後、お時間頂いてもいいですか?」

「ダンスが終わってからでもいい?」

「……。はい。センパイの近くで見ていてもいいですか?」

「どうぞ」

猪狩さんは俺の近くで校庭を見ていた。

俺ももう一度、柏木さん達を見る。

ダンスが終盤に差し掛かり、長谷川さんがターンをキメる。

長谷川さんに王子らしく手を差し伸べる柏木さん。

最後は2人でポーズを決めてフィニッシュ!

ダンサー達に見ていた生徒たちから拍手と声援が送られる。

俺も猪狩さんも拍手をした。

柏木さんがこちらを見た気がするのだが、嬉しそうな顔の後、曇った表情をして目を逸された。

「センパイ……」

「あ、うん。ごめんね、待たせて」

「いえ……」

「うっちゃーん、俺、ちょっと抜けるね」

「はいはーい」

素気ない返事が返ってきた。

猪狩さんに連れられて、校舎の中に入る。

まだ大半の生徒は校庭で後夜祭に参加しているので人は少なかった。

外からの賑やかな音が聞こえて来る。

ちょうど中庭に差し掛かった辺りで、猪狩さんが振り向いた。

「センパイ。ずっと、聞きたかったことがあるんです」

「え、何?」

猪狩さんは息をふう、と整えた。

「センパイは柏木先輩とお付き合いされてるんですか?」

ドキッとした。

「え?どこ情報?」

「どうなんですか?」

猪狩さんが強く聞いてくる。

「付き合ってないよ」

「じゃあ、柏木先輩が一方的に好意を持ってるって事ですか?」

「えっ……?」

そんな情報初耳なんですけど。

「いや、告白されるとかは無いんじゃないかな」

「それなら、私と付き合って下さいッ………」

思わず猪狩さんを見た。

「私、センパイのこと……中学のころから知ってて…好きだなって思ってて……」

中学!?同中??

「きっとこれから受験勉強に入ると思うんですけど…遊びに行ったりとかしなくていいので…私を彼女にしてくれませんか?」

真剣に猪狩さんは話してくれている。

すごく嬉しい。嬉しいけど……

「猪狩さん」

「はい……」

猪狩さんは俯いている。

「こっちを見て」

猪狩さんは泣きそうな顔をしている。

「猪狩さん。告白してくれてありがとう」

猪狩さんは頷く。

「その気持ちはとても嬉しい。でも、俺はその気持ちには応えられない。ごめん」

俺は深く頭を下げた。

「いえ……振られるのはなんとなく…わかってたので…大丈夫です」

猪狩さんの声は震えていた。

「あの……お話きいて頂きありがとうございます…」

猪狩さんは、お辞儀をしてその場を立ち去ろうとした。

「きゃっ」

展示してあった文化祭のポスターが猪狩さんの近くに落ちており、倒れそうになる。

俺は咄嗟に手を伸ばし、猪狩さんの腕を掴んだが体勢が悪く、猪狩さんに覆い被さるような形で転んでしまった。

「イッテェ……猪狩さん、怪我は?」

猪狩さんの顔を見ると涙でぐちゃぐちゃになっていた。

「ごめん………」

俺はさっと猪狩さんの上から降りる。

「一緒に保健室行こうか」

「い、いえ、、、1人で行きますので………センパイは戻って下さい。ついてこないで下さい…」

猪狩さんは起き上がるとゆっくり保健室の方へ歩いて行った。

俺はその場を動けないままでいた。

人の気持ちに応えられないことは、こんなに辛いのか。

中庭から見える空はもう暗くなってきていた。
しおりを挟む

処理中です...