同級生のお兄ちゃん

若草なぎ

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柏木マオの場合

side:柏木マオ 文化祭④

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女子更衣室でダンスの衣装に着替えているとボタンちゃんが到着した。

「急いで用意するね~」と声をかけてくれた。

着替えとメイクを終え、2人で女子更衣室を出る。

「ボタンちゃん、衣装似合ってる」

「ありがとう。マオちゃんも王子様似合ってる!素敵な王子様と踊れるから楽しみだよ♪」

「ありがとうございます!プリンセスボタン!なんてね」

笑い合いながら廊下を歩いていると遠くにお兄ちゃんと兎川くんが見えた。

ボタンちゃんがお兄ちゃんに気付いて「いたいたー!“お兄ちゃん”」と大きな声を出す。

お兄ちゃん達と合流し、ボタンちゃんが「どう?」とポーズを決める。

「似合ってる、似合ってる」

「桜井くん、棒読み過ぎ」

お兄ちゃんは心のこもっていない返事をしていたが、

普段、絶対に人を褒めるような事はなさそうなのでチャンスとばかり私も対抗する事にした。

「お兄ちゃん、私も!」とくるりとまわってポーズを決めてみた。

「似合ってる、似合ってる」

「へへへー、褒められた~」

「棒読み変わってないけどいいの!?マオちゃんは“お兄ちゃん”に甘すぎw」

いやいや、普段褒めない人が褒め言葉を口にするという超レアイベントなので

何を言われても喜びますよ!

「校庭に移動しとこうか」とボタンちゃん。

「あれ?そういえば吉岡さんは?」と兎川くん。

「モミジさん?年上の彼氏が来てるからって一緒に回ってるって」

「いいよなあ、彼氏彼女がいるやつは。青春してるって感じでさ」

兎川くんがお兄ちゃんの顔をニヤつきながら見ている。

お兄ちゃん、やっぱモテ男なのか!?

兎川くんとお兄ちゃんの会話からするとお兄ちゃんに彼女はいないとか言っているようだった。

兎川くんが校庭方向に歩いていく。

ボタンちゃんは兎川くんの方に走っていき、何やら話をしている。

ちょうどいいタイミングなのでお兄ちゃんに少し聞いてみよう……

「お兄ちゃん、お兄ちゃん」

小さめの声で話しかける。

「お兄ちゃん、彼女いないの?」

「ん。悪い?」

「いや、そうじゃなくて…モテるよって聞いたから、真偽を…」

今日の時点で2名は確定でお兄ちゃんが好きって事だもん。

自覚してるのかな………

「真偽は、偽です」

自覚なしだああああ!!

「そうなの?私は素敵な人だと思うけど」

だって2人もお兄ちゃんに想いを寄せてる人がいるんだよ!?

「こんな素敵なお兄ちゃんがいてくれて私、幸せ」

こういう時は自分がどれだけ魅力があるかを気づかせてあげる事が大事だよね!!

私もお兄ちゃんは素敵な人だと思ってるし、

なんならめちゃくちゃモテる兄を持って幸せすぎるでしょうよ!!

お兄ちゃんの顔を見ると柔らかい表情をしていた。

気持ちが伝わったに違いない。

「そういえばさ、お兄ちゃんの誕生日って聞いてもいい?」

「12月5日」

「えっ」

「柏木さんは?」

「5月12日」

「えっ」

2人で顔を見合わせる。

そして爆笑。

偶然にも数字を入れ替えただけという、なんと奇跡的。

「待って……そんなことある!?私にとっては最高に覚えやすい…」

「ってかさ…俺、お兄ちゃんじゃなくね?むしろ、弟」

「いや、もう!そこは同学年だからギリギリセーフ!」

「アウトでしょw」

「いいんです!気持ちは妹ですー!」

「ハイハイ」

2人で並んで歩く。

「柏木さん」

「はい?」

「…………ダンス、頑張って」

「ありがとうございます!頑張ります!」

お兄ちゃんの笑顔が眩しく感じた。

頑張るね、お兄ちゃん。
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