同級生のお兄ちゃん

若草なぎ

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柏木マオの場合

side:柏木マオ 文化祭⑤

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文化祭優秀賞は3年生のクラスだった。

私たちのクラスは何かに選ばれることはなかった。

優秀賞の発表も終わったのでダンス披露の準備が始まっていく。

緊張して来た。

「マオちゃん、マオちゃん!リラックス~」

ボタンちゃんが励ましてくれている。

「ボタンちゃん、ありがとう」

「王子様が緊張してたら姫をエスコートできないでしょ」

「そうだね。練習どおり頑張るね、プリンセス!」

音楽が流れ始め、入場が開始した。

自分達の立ち位置まではもう少し。

「マオちゃん、校舎の方見て。兎川くんと桜井くんが見えるよ。2人とも気づくかな?」

ボタンちゃんに言われ校舎の方を見る。

お兄ちゃん達と近くにモミジさんも見えた。

2人で手を振ってみるとモミジさんだけが手を振りかえしてくれた。

「緊張、ほぐれたかい?」

「うん、ありがと。ってかさ、ボタンちゃんの方が王子様っぽくない?」

「そんなことありませんよ~だ。私はメチャクチャお姫様だよん」

ボタンちゃんは両手でハートを作ってウィンクを決めてくる。

チャラ王子ボタン………www

そんなことを考えさせてくれたおかげで完全に緊張がほぐれた。

立ち位置につくと音楽が止まり、

ダンス用の曲がかかる。

ダンスの構成はもともと決まっているため、オリジナルの振りを盛り込むようなことはできない。

ペアダンスを基本とし、同じクラスの子とペアを交代しながら最終的には決められたペアで

ポーズを決めてダンスは終了する流れである。

練習は放課後にクラスの参加者達と行っていたが、ダンスはあまり得意ではないので不安もあった。

だけど、みんなの前で踊るってことはやってみたかったので立候補した。

何事も経験!っておばあちゃんが言ってたし。

全体ダンスではなくほとんどがペアダンスということはミスがあったって

基本的には知り合いを見たり、写真を撮ったりするはずなので、

仲の良い友人に少ない私を見る人はいないと思っているから目立たないに違いない!

って…思っていたけど、今思うとすごくダサいな。

頑張って練習して来た成果を見てほしいに決まってるもん。

今は、ボタンちゃんと、クラスメイトと一緒に練習してきた成果をみんなに見てほしい。

次で、最後のターンだ。

2人でポーズを決めるんだ。

ボタンちゃんの手を取り、ポーズを決めた。

音楽が止まると見ていてくれた生徒達から拍手が起きた。

「やったね。ボタンちゃん…」

「楽しかったーー!」

2人で顔を見合わせた。

ふと遠くを見るとお兄ちゃん達が見えた。

モミジさんは大きく拍手してくれている。

お兄ちゃんの隣には猪狩さんがいた。

猪狩さんはニコリともせずこちらを見ていた。

思わず目を逸らしてしまった。

猪狩さんが怖かった。

お兄ちゃんとも話せなくなる気がした。

お兄ちゃんと猪狩さんが恋人になってしまったら、もうきっと話はできなくなるだろう。

涙が込み上げてきた。

何故だろう。

こんなにお兄ちゃんと話せなくなるのが辛いと思うのは…。

ボタンちゃんに突っ込まれたらきっと言い返せない。

こんなに心がぐちゃぐちゃで纏まらないことがあるのだろうか。

ジャケットの袖で込み上げてきた涙を拭った。

今は文化祭の終わりを、ダンスが終わったことを、楽しい一日だった事を考えよう。
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