【改訂版】ダンジョンと株式会社 ~目指せビリオネイヤー(1千億円長者)私たちはこの会社で世界を取る~

早坂明

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18.ダンジョンブーム

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●7月 本社 水沢健司

 テレビ出演以降、流れは急加速することになる。
 ネットテレビで放送された内容は、大手ニュースサイトに転載された。
 次に、ニュースサイトの記事は、大手新聞社や地上波テレビでも報道された。
 それと同時に、通信社を通じて、若返りが可能となるというニュースは全世界に報道されることとなる。
 最初は、半信半疑であった世界も、各国の研究機関によって追実験が行なわれ、水沢の発表が事実であることが確認されると、大変な熱狂に包まれることになった。
 水沢たちのもとには、世界中のマスコミが押し寄せ、その対応に追われることとなる。

 この日も午前の取材を終えて、少し遅い昼食を3人で取りながら雑談をしていた。
「はい、今日の昼食は角ウサギの他人丼よ」
「もう突っ込むのも面倒じゃが、やはりモンスターの肉か」
 他人丼は、半熟卵でとじられた玉ねぎと肉に三つ葉が添えられている。
 肉は豚肉ほどではないが、鶏肉よりは歯ごたえがあって、かむと肉汁が染み出してくる。
 それが、甘辛いつゆの味と合わさりごはんとの相性が最高である。
「特盛で頼む」
「はいはい、分かっているわよ。しかし、2人ともすごい食欲ね。若返って元気になった証拠ね」
「お前さんだって、人のことは言えんじゃろう」
「そうなのよね。しかも、いくら食べても太る様子もないし。若い体って最高ね」

「しかし、こうも毎日記者がやってくると落ち着かんな」
 食後の茶を飲みながらつぶやいた伊吹の言葉に、清美がからかう様に声をかける。
「落ち着かないも何も、伊吹さんはインタビューから逃げてばかりじゃないですか」
「わしは、英語を聞くと 蕁麻疹じんましんがでるんじゃ」
「また、そんなことばかり言って。それなら、国内の新聞社の対応をやらせるわよ」
「あいたた、腹の調子が……」
「まあ、人には向き不向きがありますから、取材は私と清美さんで対応しましょう。それに伊吹さんには全国の支店の面倒を見てもらっています。出張続きで一番大変な仕事を押し付けてしまって申し訳ないと常々考えています」
「何、わしは現場のほうが気が楽じゃ。それに、お前さんだって取材の合間に現場回りはやっとるんじゃろうが」


「それにしても、二人とも有名人になったもんじゃな。水沢は、海外の雑誌の表紙にもなったし、清美に至ってはなぜかファンクラブができとる」
「ファンクラブは半分冗談で作られたものよ。会員もうちの顧客が大半だし」
「冗談でも大したもんじゃ」
「そうですね。清美さんには、本物の10代では持てない気品があります。それが本来の美貌との相乗効果で、不可思議な魅力を醸し出していますから人気になるのも分かります」
 その大げさな誉め言葉に、一瞬きょとんとなった清美は、次の瞬間にはころころと笑い出した。
「嫌ですよ、健司さんたら。こんなお婆ちゃんを口説いても何も出ませんよ」
 水沢も自分の口に出した言葉に焦ったのか、少し顔を赤くしながらわざとらしく咳ばらいをして話をつなげる。
「まあ、会社の顔としては有名になるのはありがたいことです。おかげで色々な交渉が随分と楽になりました」

「そういえば、追実験の詳細ってどうなってるの? なぜ、ステータスをアップすると若返るかの理由とかは分かったのかしら」
「大学との共同研究でも調査中ですが、その辺りは現状では全く不明のようですね。分かったのは、ステータスをアップすると若返るだけでなく一部の病気も治ることぐらいです。私のCOPDもおかげさまで全快しました」
「それは良かったわね」


 水沢たちと、ダンジョンの若返り効果が有名になる一方で、事業も拡大期を迎えることとなる。

 その日も、ある銀行の支店長からの面会の予約が入っていた。
 オーダーメードのスーツをきっちりと着こなした恰幅の良い男が、応接室に入ってくる。
「初めまして、UHF銀行の大島と申します。最近、高名な水沢様にお会いできて光栄です」
「いえいえ、私は運がよかっただけで、大したことはしていませんよ」
 水沢は、露骨な追従を苦笑しながら受け流す。

 もっとも、男の方も水沢のそんな反応は予測済みとばかりに、話を切り返す。
「ご謙遜を。若返り事業の方も予約が殺到しており、好調だとお聞きしていますよ」
 さすがに、相手は大手銀行の支店長である。水沢たちの会社の経営状態などお見通しのようであった。

「だた、そうは言っても、事業を拡大するためには、資金がいくらあっても多すぎるということはないでしょう」
「その通りですね。新しいダンジョンを自社出店するにしろ、フランチャイズで出店するにしろ、資金がどんどん出て行ってきりがありません」

「そこでですね。当行から融資を受けてみませんか。なに、御社の業績ならば担保など不要です。まずは、1億からでいかがでしょう。もちろん、それ以上の金額が必要となれば、いつでもご用意させていただきます」
「御社が、別の銀行からも融資を受けていることも聞き及んでおります。しかし、リスクヘッジのためにも融資元を増やすのは、悪いことではありません。どうか当行とも取引をお願いいたします」
 言葉こそお願いであるが、さすがに大手銀行で支店長になった男である。
 このチャンスを逃してなるものかとの並々ならぬ決意をこめた、力のある目をしている。

 しかし、既にこのような相手には何度も会っており、水沢も対応は慣れている。
「分かりました。いいお話だと思うので、取締役会に図ってみたいと思います。本日はありがとうございました」
「それでは、融資を受ける件よろしくお願いします」

「それで、どうするつもりなの?」
 融資の件について、清美が尋ねる。
「融資を受けようと思います。資金がいくらあっても良いのも、融資元を増やした方がいいのも事実ですからね」
「しかし、テレビに出てから随分と状況が変わったな。金の方から次々とやってくるとは思わなんだわい。これでは、わしが昔、警備会社でやっていた経営とは何だったのか……」
「まあ、ダンジョンは成長産業ですからね。誰だって乗り遅れたくないと考えるものです」


 まさに、時代はダンジョンブームと言って良かった。
 老人たちは、競うようにしてダンジョンの中に入り、若返りサービスを受けるようになった。

 一部には、美容目的での比較的若い層を対象としたサービスを試みるダンジョンもあったが、少なくともこの時点では、圧倒的に老人の方が需要が大きかったのである。

 大小さまざまなダンジョン若返りサービスが乱立した。
 金融機関や投資家は、こぞってこの新規事業に資金を投入した。
 ただし、独立系サービスの大半は、運よく自宅に発生したダンジョン1つだけを利用した、小規模な会社がほとんどであった。

 一方、第一番に若返りサービスを開始し、同時に、社会貢献活動から成長戦略まで提示して見せた、水沢たちの知名度は群を抜いていた。
 そのため、水沢たちのもとには、さまざまなものが集中した。
 直営あるいは、フランチャイズを希望するダンジョンの情報。
 ダンジョン経営に参加したいと考える人材。
 金融機関や投資家からの資金。

 それらは、水沢たちの会社を他に一歩抜きん出て発展させる原動力となった。
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