絵画のような人魚

葉桜色人

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絵画のような人魚ー14ー

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第14話


あれだけ晴れていた空に灰色の雲が集まり、あっという間に雨色の線を描いた。定規を使って引いたような綺麗な直線の雨は、大学帰りの僕に容赦無く叩いた。少しだけ遠回して帰っていたので、僕はいっときの雨宿りをしようと、寮の近くにあった神社へ逃げ込んだ。


神社の周りに生い茂る草木を見て、かなり古い神社だと思われる。しばらくやみそうにない空へ、僕は濡れた髪の毛をかきあげてはもうしばらく待ってみることにした。


時刻は午後16時……


食事会の約束は18時過ぎ、時間的には十分余裕があった。この雨も一時間もしないうちにあがるだろう。それにしても、豪雨とまでは言わないが、叩きつけるような雨は地面に無数の穴をあけていた。規則的なリズム音が聞こえる。


『自分の思うままに絵を描いてみれば、君の求める風景が見えてくるわよ』


春巻先生が僕にくれたヒントが、この言葉だった。


僕は雨を見つめながら思い返して、その答えに辿り着くには課題の絵を完成させる。そう思っていた。だけどますます何を描けば良いのか迷ってしまう。でも、鮎川さんと今度、そのことについて一緒に考えようと約束はした。僕は心の中で楽しみになっていた。鮎川さんともっと距離を縮めたい。そんな気持ちと妄想が入り混じるのだった。


それにしても雨はやみそうにない。ますます強く降る雨に、憂鬱な気分になり目に写る雨の線を無心で眺めた。空間を切り裂き、縦に入る直線的な雨は、向こう側に見える風景と僕をわける壁のようだ。


「やまないな……」と小さな声で呟いた時、向こう側の風景から走って来る人影が見えた。


目を見開き、走って来る人影を見つめる。その人影は雨の壁の突き進んで神社へと入って来た。


「鮎川さん!!」


なんと目の前から走って来た人物は鮎川みゆきだったのだ!!


ずぶ濡れになりながら神社の境内に入ると、雨宿りする僕の側へ飛び込んで来た。一瞬、僕の胸に飛び込んで来ると勘違いしてしまい、無意識に手を広げそうになった!!もちろんそんなことはせずに、僕の目の前で息を吐いて呼吸を整える彼女が居るのだった。


「最悪、ずぶ濡れだよ。天気予報では雨なんか降るって言ってなかったのに」と彼女は言って、濡れた身体を手で払いながら僕に向かって言ってきた。


「四季くんも雨宿り中」


息をつく彼女の顔に、雨の雫がポタポタと流れ落ちていた。僕の方を横目で見ながら、彼女は濡れた髪の毛をかきあげた。その仕草に僕の脈拍数があがる。今日だけで三度目の出会いだ。本当に運命だと勘違いしてしまいそうになる。


「僕はそこまで濡れなかったけど、鮎川さんはずぶ濡れだね。そのままじゃ風邪ひくよ」


「ホントだ……」と彼女はそう言って、結んでいた髪の毛のゴムを外した。


ポニーテールの印象しかなかったので、髪を下ろした彼女はずいぶんと雰囲気が変わった。小顔で黒目がちな瞳。そして艶のある長くて綺麗な黒い髪。雨に濡れた姿が妙に色っぽく見えた。水色のワンピースが雨で濡れた身体に張り付いていた。


そんな彼女の姿に、僕の胸のドキドキは激しさを増すのだった。
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