絵画のような人魚

絵画のような人魚ー16ー

第16話


帰っておいで……とは？


「鮎川さん、さっきの……」


僕が話しかけた瞬間、突然の雷鳴と稲光が鼓膜を突き破った！！


「キャアァァァー！！」


彼女が悲鳴と共に僕の胸元へ飛び込んで来た！！不意の出来事に体勢を崩して、僕と彼女はそのまま床へ倒れ込んだ。背中に痛みを感じながらも、彼女をしっかりと受け止める。雨の音と雷鳴の余韻がまだ遠くの空で鳴り響いていた。


まさかのアクシデントは僕と彼女を急接近させた。僕が彼女の両肩を掴んで、彼女は両手を僕の胸の上に置いていた。小柄な彼女を全身で感じながら、彼女の吐息を感じるほどの距離に顔があった。まるでマンガみたいな展開だ。


そして無言で見つめ合う二人……


彼女は黒目がちな瞳で見つめたまま逸らさない。濡れた髪の毛の先端が頬に触れて冷たく感じた。だけど彼女を抱く肩からは、冷たい温度とは正反対に温もりがあった。そして僕の下半身が熱く脈を打っていた。自然と肩を持つ手に力が入る！！キスがしたい、彼女の唇を求めようとする自分がいた。


ゆっくりと倒れた身体を起こすように動かした瞬間……


「ごめんね、四季くん。びっくりした！！」彼女はそう言って、ハニカミながら身体を起こした。


変な気持ちになっていたのは僕だけで、彼女は違う。


「あっ……」と思わず小さな声だけが聞こえた。


僕の妄想は一瞬でこの世から消えていき、勝手な妄想を膨らませた自分が恥ずかしかった。こんなシチュエーションは二度とないだろう。そして僕の妄想をさらに打ち崩すみたいに、雨はゆっくりと弱くなって行った。


そのあと、二人して雨の上がった寮への帰り道を歩いた。聞きたかったことも聞けないまま、僕たちはそれぞれの寮へと戻った。


「四季くん、あとで会いましょう」と彼女が素敵な笑顔を振りまきながら歩いて行く。そんな彼女の後ろ姿を見つめながら、僕は心の中で思った。


僕は彼女のことが好きになっていた