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絵画のような人魚ー40ー
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第40話
その日、大学が休みだったので鶯谷へ出掛けた。みゆきと待ち合わせをして、僕らはランチを食べ終えたあと、秘密のアトリエへと向かうのだった。
課題の絵を描きたいという気持ちがあったし、あの夢から気分を変えたかった。絵を描き始めると昨日の刺激があったのか、僕は真っ白いキャンパスへ夢中になって鉛筆を走らせた。
頭の中に浮かぶイメージは悩める少年の姿。僕はラフなスケッチを描きながら、まるで自分の心を線に込めるように描いた。
二人は沈黙のまま、一心不乱にキャンバスに絵を描く。彼女も集中していたし僕も集中していた。アトリエの空間にそれぞれの色が溢れかえっていた。不思議な感覚だった。時間も忘れて思うままに鉛筆をキャンパスにぶつけた……
……時間にして3時間は経過していたのか、部屋の中が薄暗くなったのに気づいて我に返った。
「四季、すごい集中してたね」とみゆきが部屋のスイッチを点けて、部屋に明かりを入れた。
僕は腕時計を見て驚いた。時刻は午後6時を過ぎていた。3時間どころではなかった。5時間以上経っていたのだ。
「初めてかもしれない。こんなにも絵を集中したのは」驚きながら、僕はキャンパスに描かれたスケッチに目を通した。
みゆきがそばに寄り添って、僕にコーヒーを渡した。そして僕のスケッチを見て、何かを感じているようだ。
「どう思う?まだスケッチの段階だけど、イメージ通りの絵が描けそうなんだけど」
「うん。四季の感情が絵に現れてると思う。これに色が塗られたら、どんな素敵な色彩になるのか楽しみだわ」
みゆきに褒められて、僕は素直に嬉しかった。そしてようやく一息ついてコーヒーを一口飲んだ。
「みゆきはどんな絵を描いてるの?」と僕は彼女の絵を覗いた。不思議な感性を持つ彼女が一体、どんな絵を描くのか興味があった。そしてどんな色を持っているのか?
キャンパスに真っ赤な色が全体に塗られていた。所々に白い点が散っている。不揃いな白い球体が中心から広がるように……
想像を超えた絵に、僕の知らない彼女を想像させた。真壁純菜が話した二面性なのか?それとも僕なんかじゃ、到底理解できない向こう側の領域かもしれない。その圧倒的な世界観に心の淵が震えた。彼女の心には無限に広がる色が溢れている。
「驚いた!!みゆきの絵は僕の想像を凌駕しているよ」
彼女の中でどんなイメージで描いたのか?そして絵が完成した時、どんな風景が待っているんだろう。
「そんな大袈裟に言わないでよ。まだまだこれからよ。もっと色を重ねないと、この絵は納得しないわ」
彼女の言い方に、まるで絵が自身の意思を持っているみたいだ。彼女が命ある色を与えて、絵が納得いくまで色を求める。底の見えない穴を覗いている感覚はあった。彼女の芸術性は手を伸ばしても、届かない場合に居る。
「四季の絵はまだ可能性があるわ。色が重なった時、自分でも驚く色が待っているの」とみゆきは呟くように言って、僕の腕に手を添えた。
僕たちはそのあと、二回目のセックスをした。昨日より今日、明日にはもっと愛を重ねるだろう。
僕はその日の夜、夢を見ないまま深い眠りについた。
その日、大学が休みだったので鶯谷へ出掛けた。みゆきと待ち合わせをして、僕らはランチを食べ終えたあと、秘密のアトリエへと向かうのだった。
課題の絵を描きたいという気持ちがあったし、あの夢から気分を変えたかった。絵を描き始めると昨日の刺激があったのか、僕は真っ白いキャンパスへ夢中になって鉛筆を走らせた。
頭の中に浮かぶイメージは悩める少年の姿。僕はラフなスケッチを描きながら、まるで自分の心を線に込めるように描いた。
二人は沈黙のまま、一心不乱にキャンバスに絵を描く。彼女も集中していたし僕も集中していた。アトリエの空間にそれぞれの色が溢れかえっていた。不思議な感覚だった。時間も忘れて思うままに鉛筆をキャンパスにぶつけた……
……時間にして3時間は経過していたのか、部屋の中が薄暗くなったのに気づいて我に返った。
「四季、すごい集中してたね」とみゆきが部屋のスイッチを点けて、部屋に明かりを入れた。
僕は腕時計を見て驚いた。時刻は午後6時を過ぎていた。3時間どころではなかった。5時間以上経っていたのだ。
「初めてかもしれない。こんなにも絵を集中したのは」驚きながら、僕はキャンパスに描かれたスケッチに目を通した。
みゆきがそばに寄り添って、僕にコーヒーを渡した。そして僕のスケッチを見て、何かを感じているようだ。
「どう思う?まだスケッチの段階だけど、イメージ通りの絵が描けそうなんだけど」
「うん。四季の感情が絵に現れてると思う。これに色が塗られたら、どんな素敵な色彩になるのか楽しみだわ」
みゆきに褒められて、僕は素直に嬉しかった。そしてようやく一息ついてコーヒーを一口飲んだ。
「みゆきはどんな絵を描いてるの?」と僕は彼女の絵を覗いた。不思議な感性を持つ彼女が一体、どんな絵を描くのか興味があった。そしてどんな色を持っているのか?
キャンパスに真っ赤な色が全体に塗られていた。所々に白い点が散っている。不揃いな白い球体が中心から広がるように……
想像を超えた絵に、僕の知らない彼女を想像させた。真壁純菜が話した二面性なのか?それとも僕なんかじゃ、到底理解できない向こう側の領域かもしれない。その圧倒的な世界観に心の淵が震えた。彼女の心には無限に広がる色が溢れている。
「驚いた!!みゆきの絵は僕の想像を凌駕しているよ」
彼女の中でどんなイメージで描いたのか?そして絵が完成した時、どんな風景が待っているんだろう。
「そんな大袈裟に言わないでよ。まだまだこれからよ。もっと色を重ねないと、この絵は納得しないわ」
彼女の言い方に、まるで絵が自身の意思を持っているみたいだ。彼女が命ある色を与えて、絵が納得いくまで色を求める。底の見えない穴を覗いている感覚はあった。彼女の芸術性は手を伸ばしても、届かない場合に居る。
「四季の絵はまだ可能性があるわ。色が重なった時、自分でも驚く色が待っているの」とみゆきは呟くように言って、僕の腕に手を添えた。
僕たちはそのあと、二回目のセックスをした。昨日より今日、明日にはもっと愛を重ねるだろう。
僕はその日の夜、夢を見ないまま深い眠りについた。
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