絵画のような人魚

葉桜色人

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絵画のような人魚ー50ー

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チャイムを鳴らすとドアが勢いよく開いた。風子と目が合った時、もしかしたら秋人が居ると思ったが姿は無かったのでホッとする。おそらく話しがあると言っていたので、その辺のところは気を使っていたのだろう。


「四季、あんた今日の授業サボったでしょう!!昼間、緑郎くんが心配してたわよ」


「そう、何か言ってた?」


「えっ、なんで?特に何も言ってなかったけど」そう言って、風子は僕の前にコーヒーを差し出した。


「インスタントだけどね。何かあったの?四季が授業をサボるなんて珍しくない」


「バイト探しに行ってたんだよ。そろそろキツくなってきたからね」


「あっ、そっか……そうだよね。美月さんも生活費切り詰めて仕送りしてるもんね」


家の事情を知っていたので、風子は神妙な表情になった。因みに美月というのは僕の姉だ。社会人の姉は大学費や生活面において、かなり協力してもらっていた。両親の居ない僕たちにとって、どうしてもお金の問題はあった。だから今回、バイトが採用されたのは助かったのだ。


「それで決まったのバイト?」


「決まったよ。明日から行く。図書館で働くんだ。土日と平日は出るつもりだよ」


風子は喜んでくれて、何か困ったことがあれば助けると言ってくれた。おそらく大学に誘ったのは、風子だから心配していたのだろう。


「それで話って何?もしかしてみゆきちゃんと喧嘩した」


呑気な顔して言う風子に、僕は喧嘩どころじゃ済まないと心の中で思う。そん風子に少しイラっとして、僕は少しだけ声を強めて話した。何故、真壁純奈に僕の過去を話してしまってのか。もちろん、彼女と過ちを起こそうとした事は伏せて……


「ホントにごめんなさい。純奈は悪くないの。私から話したの……だから純奈は責めないで」


「そんな事はわかってる。今更過ぎたことだし、真壁さんは関係ない。でも勝手に話すのは反則だろ。違うか!!」


「言い訳じゃないけど、純奈なら四季の心を癒してくれると思ったの」と風子は顔伏せて言う。


「随分と勝手だな!!おれの気持ちも考えずにか?」冷静に話すつもりが、だんだんと腹が立ってきた!!


「勝手なのはわかってる。でも、彼女の気持ちを聞いたら、もしかしたらって思ったのよ」


「彼女の気持ち!?」と僕は聞き返す。


「純奈、四季のことが好きなんだよ。それに四季に対して、彼女はすごく優しい気持ちを持っているわ。だから、四季がみゆきちゃんと付き合ってると聞いた時、私も後悔したの。あんな事話すんじゃなかったって」風子の言い方に何となく予想がついた。


「もしかして、おれがお前にみゆきと付き合ってることを話した時、すでに真壁さんに話してたんだな」


「うん……」と風子は呟いて、顔を伏せた。


すべてタイミングが悪かったんだ。だからあの時、風子は変な反応をしたんだ。おれと真壁さんはお似合いだと勝手な想像をしてしまっていたのだろう。


「事情はわかった。でも、これだけは言っとく。今後、誰にもおれの過去は話さないでくれ。お前が心配してくれる気持ちはわかってる。でも、おれにも整理する時間が必要なんだ」


「……うん。ごめんね四季」


「それと、おれがみゆきと付き合ってる事はしばらく内緒にして欲しい」


「えっ、なんで!?もしかして純奈と何かあったの?」と風子が不安そうに聞いた。


確かにそんな事を言えば、不安に思うのは仕方がない。何故、みゆきと付き合うことを黙っているのか意味がわからないからだ。でも、僕がメンバーに話せば、真壁純奈はフラれることになる。それだけで済めば問題はないのだけど、僕は彼女と過ちを起こそうとしていた。


「ねぇ、どうして……」と風子が疑問の表情で言う。


そんな風子に対して、僕は何も言えなかった。言ってしまえば、最低な奴だと非難されるだろう。これは僕自身の問題なんだ。


「何もないよ。とにかく今はそっとしておいて欲しいんだ」僕はそれだけ伝えると、コーヒーを飲み干して立ち上がった。


「四季、私のせいなの?そうなら言って!!」立ち上がる僕の腕を掴んで、風子が聞いてきた。


僕は首を横に振って、風子の腕を振りほどいた。


「お前は悪くない。今は時間が欲しいだけだよ。気にするなって、じゃあ行くわ」と僕は風子に言って、部屋を出るまで一度も振り返りはしなかった。


そして静かに部屋の扉を閉めて、マンションをあとにした。


つづく……
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