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絵画のような人魚ー52ー
しおりを挟む小雨が降る中、一時間後に西條さんが私服に着替えてやって来た。図書館の制服姿しか見てなかったので、私服姿の西條さんはギャップがあってドキドキさせる。
ベージュのスカートに花柄のブラウスという清潔感あるスタイル。笑うとえくぼができる表情は、正直言って年上の女性と思えない。どちらかと言えば同い年に見えてもおかしくなかった。
傘が一つしかなかったので、僕と西條さんは一つの傘を一緒に入って、公園の並木道を並んで歩いた。変に意識する僕に対して、西條さんは終始リラックスして会話をしていた。
「私の家の近くに居酒屋があるんだけど、そこで良いかな?」
「構いませんよ。でも、あんまりお酒強くないので。西條さんはどこにお住まいなんですか?」
「渋谷から少し歩いた所よ。去年、ようやく一人暮らしを始めたの。親がなかなか許してくれなくてね。四季くんは?」
西條さんの質問に、僕は学生寮と説明をした。すると西條さんから門限とかあるんじゃないかと訊ねて来た。
「ありますけど、特に問題はありません」
「そっか、じゃあ大丈夫かな」と西條さんは小さな声で言った。そして僕に笑顔を見せると、少しだけ僕の方へ身体を寄せた。
「明日は私も休みだから、ゆっくり歓迎会ができるね」
西條さんの発言にどんな意味があるのかわからないけど、どこかで僕は妙なドキドキがあった。いや考えすぎかもしれないけど、二人っきりで歓迎会をするというシチュエーションがそんな風に思わせるのだろう。僕は無意識に顔を逸らして、小雨の降る空を眺めるのだった。
渋谷駅に着いた頃、雨は強さを増してちょっとした集中豪雨みたいになっていた。僕と西條さんは一つの傘をさしながら、降りしきる雨の中を早足で歩いた。僕は少しでも濡れないように、傘を西條さんの方へ寄せてあげた。
「四季くん、着いたよ」
渋谷駅のセンター街から脇道へ入った所に目的の居酒屋があった。入り口が格子で囲まれていて、看板などは無く店内の様子はコンクリートの壁で全く見えなかった。
「隠れ家的な居酒屋なんだよ。創作料理がとっても美味しいの。今夜は四季くんの歓迎会なんだから遠慮しないでね」西條さんはそう言って、僕の背中を押して店内へと進ませた。
「やっぱり四季くんは優しいね」と僕の背後で、西條さんが小さな声で言った。
何のことを言ったのかわからなかったけど、数時間後、僕は西條さんに思いがけない言葉を打ち明けられるのだった。
そして二人っきりの歓迎会が、雨の音を響かせながら始まろうとしていた。
つづく……
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