絵画のような人魚

葉桜色人

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絵画のような人魚ー63ー

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仕事に追われながらも7時に終わると戸締りをして事務所へ戻った。


「胡桃くん、先に上がりますね」と中川さんがすれ違いざまに言ってきた。「お疲れ様です」と僕は挨拶を交わして事務所へ入った。


すると一番奥の席で広瀬川さんが座っている。僕は軽く会釈をしてから、図書館の鍵をボックスに返すと広瀬川さんの方へ歩み寄った。


「終わったのね。さあ、行きましょうか」ヒロセさんはそう言って、上着を羽織って部屋から出ようとした。


「消すわよ」と部屋のスイッチに手を置いて言う。僕は慌てて自分の荷物を持って、ヒロセさんのあとをついて行くように事務所から出るのだった。


一体、何処で食事をするのだろうか。そしてどんな話をすれば良いんだろうか?不安と緊張を胸に添えながら、僕はヒロセさんの後へついて行った。

その後は驚きの連続だった。まずは図書館の地下駐車場に行くと真っ赤なポルシェが一台。まさかと思ったが、ヒロセさんの愛車だった。そして助手席へ乗り込むと、「一度私のマンションへ寄るわよ」と言うのだ。


首都高に乗って、車は弾丸みたいなスピードで走る。時間にして数分だったろう。六本木のシンボルとも言われている六本木ヒルズに到着した。訳もわからないまま、ヒルズのエレベーターに乗り込むとそのまま最上階へと連れてかれた。


僕みたいな一般市民で学生には高級すぎるマンション。見るもの全てが高級すぎて、唖然としてリアクションもあったものじゃない!!ただ言えるのは図書館で働く女性が、こんな後半な所に住めるのかと疑問が沸くのだった。


広瀬川さんって、一体何者なんだ!!


部屋に通されると、その広さに声が出ない。何LDKなのかもわからないほど想像を超える広さだ。リビングで待つように言われて、しばらく待っているとヒロセさんが背広の上下を持って現れた。


「四季くん、これに着替えて頂戴。サイズは大丈夫だとおもうから」


こんな僕だけど、渡された背広が高級な背広だとわかる。


「ア、アルマーニですよね」と上着に手を通して震える。


「早く着替えて、予約は8時なんだから」とヒロセさんに急かされて、僕は言われるままに高級スーツに着替えたのだった。


「ピッタリだわ。下も会うかしら?」とヒロセさんは腕を組みながら言う。


「あの……一様、下を脱ぐので……」


「早くしないさい。気にしないから」

「あっ、はい!!」まるで女王様みたいな雰囲気で言うので、僕は急いでジーパンを脱いで下も履くのだった。


「よろしい。行きましょうか」と満足気な表情でヒロセさんは微笑むと、僕を連れてマンションを後にした。


正直言って、聞きたい事が山ほど多すぎる。僕とヒロセさんの住む世界は違いすぎるのだ。僕の常識を遥かに超えているように思えた。

高級なスーツを身につけた僕に、これからどんな世界が待っているのだろうか?僕の横を歩くヒロセさんは足を止めて微笑んでから、そっと僕の腕を掴んだ。


そして軽やかにハイヒールの音を鳴らした。


カツーン、カツーン、カツーン…と。


これから僕に新たなる世界が待っていると思った。


つづく……
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