絵画のような人魚

葉桜色人

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絵画のような人魚ー73ー

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ピリッと緊張の糸が張り巡った教室にモデルの女性が入って来た。

バスローブを羽織った女性を見て、二十代後半の年齢と思われる。ボリュームはないが、バスローブ越しからもスタイルの良さがわかった。

講師の先生はモデルの女性に何かを説明している。ロングヘアーに口元のホクロが印象的な女性は頷きながら、僕らの中心にある椅子まで移動した。

綺麗に整えられた眉毛にクルッとカールした睫毛。そして切れ長の目に力強い眼力を感じた。言うなれば、美人で整った顔立ちだった。ヌードモデルの女性はこんなにも美しい女性なのかと感心した。そして自然な仕草でバスローブを脱ぐと、完璧と言えるほどの裸体を披露した。

その瞬間、明らかに教室の空気が変わり、静けさと張りつめた空気が女性を中心に漂った。決して大きな乳房ではなかったが、その形の良い乳房を見たとき、ヒロセさんが話していた絶対的な美しさを思い出した。


もしかしてこれが絶対的な美しさかもしれない……


モデルの女性は堂々として、まるで自分が裸なのを気にしていない素振りで椅子に腰かけた。その仕草は芸術的で美しさと気品さえ感じた。

先生の合図で開始されると、女性は足を組み、腰に手を添えると時間が止まったように身動きしなくなった。
ただ飾られているマネキン人形とは違い、女性の場合は生命と神秘性があった。瞬きもごく最小限に、顔から顎のラインさえも芸術的な造形をつくっていた。

小さな乳房も左右対称の大きさで、足を組んだ太ももの隙間からは、綺麗に整えられたアンダーヘアーが黒く主張していた。これがプロのモデルで、この世界では当たり前なんだろう。裸という美を追求して、芸術的につくられた裸に感動さえ感じた。


教室に独特な雰囲気が漂って、図書館みたいな静けさがあった。微かに聞こえるのは、キャンパスに描かれる鉛筆の音だけだった。


シャッ、シャッシャッ、シャッシャッシャッ、シャッ……


一人一人が縦横無尽に鉛筆を走らせる。静寂な空間に歪な音ではなくて、命を吹き込むような音が流れ出した。先生から大した説明もなく、各々が感じるままに描くだけ。僕も鉛筆を手に持つと、真っ白いキャンパスに黒い生命線を描き始めた。


僕の瞳に映る女性の顔、目、鼻、唇、顎、髪の毛、首、肩、乳房、腰、腕、足、指……


すべてを目に焼き付けて、鉛筆をキャンパスにぶつけた。描き始めたら、講師の先生が声をかけるまで僕の集中力は切れなかった。


「十分休憩に入りますので、その間にトイレなどは済ませて下さい。十分後にスタートさせます。よろしくお願いします」


そんな先生の言葉に気づかないほど、僕は集中していたようだ。モデルの女性が動いて、バスローブを羽織ったときにようやく休憩に入ったんだと気がついた!!


「あれ?終わり!?」と思わず声に出してしまう。


壁に掛けられた時計を見ると、すでに一時間以上は経過していた。時間が消えたような感覚さえあった。


「四季、俺らトイレに行くけど」と秋人の声が聞こえたので振り返って後ろを見た。


次の瞬間、僕は目に映る光景に身体が凍りついた。


こ、これは……!?!?


つづく……
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