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第3章

40話

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 べへモスの巣にきてから数日後、カラミティはトカゲと同じくらいの大きさになってなんとか1体だけの時がないかと様子を伺っていた。
 だが、残念ながら、そのようなことはなかった。
 どんなに離れたとしても、すぐに駆けつけられるような距離しか離れなかった。
 これだけ粘っても、その機会が訪れないということは、1体だけを狙うという考えは捨てるしかない。
 しかし、どうやってべへモスを倒すか思いつかない。

 一度、いまの大きさならべへモスの口の中から入り込めるのではないかと考えたが、では、どうやって口の中に入るのか、という問題で躊躇ためらっていた。
 べへモスたちが食べている石に紛れて入り込む?
 危険だ。
 べへモスたちは、石を噛み砕いてから飲み込んでいる。
 石と一緒に口の中に入れたとしても、次の瞬間噛まれるのがオチだ。
 多分1回や2回程度噛まれたとしてもしにはしないだろうが、大きなダメージを負うだろう。
 下手をすれば身体のどこかを噛みちぎられるかもしれない。
 噛まれる前に奥へ行けるか考えたが、うまく行くかわからない。
 つまり、この方法は成功する可能性が低く、しかも危険度はかなり高いということだ。
 他に手がなければ仕方がないが、現段階ではする気はなれない。
 何かいい方法はないか。

 しばらくカラミティはべへモスの様子を見ながら考え込む。
 が、そう簡単に思う浮かぶはずがなく、時間が経ち腹が減ったことに気づく。

 そういえば、べへモスたちが食べている石は美味しいのだろうか?

 べへモスたちは魔鉱石をバリボリと美味しそうに食べているの見て、そんな事を思う。
 ならばと、試しに食べてみることにした。
 地面を掘り、魔鉱石を取り出すと、思い切って噛み付く。
 魔鉱石は、かなり硬かったが、噛み砕けないほどではなかった。
 何度か咀嚼してから飲み込んでみると、魔鉱石に蓄えられていた魔力を吸収していることがわかった。
 吸収している魔力の量は、決して多いわけではないが、魔石のように短時間で吸収して終わるのではなく、長い時間吸収している。
 場合によっては、魔石を食べるよりも、魔鉱石を食べたほうが多くの魔力を得られるかもしれない。
 だが、カラミティは魔鉱石を食べ続けようとは思わなかった。
 それどころか、魔鉱石を吐き出してしまった。
 魔鉱石は、魔石と比べかなり重く、飲み込んでいると胃に負担がかかりすぎたのだ。
 短時間ならば問題ないが、長時間飲み込んでいれば、その重さから動きに陰りが見える事になるだろう。
 その事を本能的に悟ったのか、カラミティは魔鉱石を吐き出し、食べるのをやめてしまった。

 だが、この行動である事を閃く。
 それが成功するかしばらく考え、口の中に入り込むことよりもよほど勝算が高いとだろうと判断し、早速行動を開始する。

 数時間後、1体のべへモスが腹を満たすために魔鉱石を探していると、とあるところに魔鉱石の魔力が多くある事に感づく。
 ただ、その魔鉱石のある場所は、地中深く、かなり掘り進めなければならないが、魔鉱石の量を考えればたいした労ではない、と判断し移動を始める。
 魔鉱石の真上までたどり着くと、早速魔鉱石を目指して地面を掘り始める。
 べへモスは懸命に地面を掘り、自分の体が潜ってもさらに奥にある魔鉱石を目指して掘り進める。
 そして、魔鉱石まであと数mと思ったところで、地面が崩壊し落下する。
 こんな経験はなかったべへモスは、何が起きたのか理解できず、魔鉱石の真上に落っこちる。
 本来であれば、わずか数mの高さから落ちたところでたいしたことではなかったが、全く予知もしていない落下によってべへモスは頭から落下し、その衝撃によって数秒程度ではあったがまともに動けなくなってしまった。
 それが、そのべへモスの命取りとなった。

 カラミティは、あの後地中深くまで潜り込み、そこに魔鉱石を大量に集めると数mの空間を作り出した。
 こうすれば、感度のいいやつならば、この大量に集めた魔鉱石を目指してくるだろう、と考えた。
 そして、案の定、大量に集めた魔鉱石につられて、ノコノコとやってきた。
 しかも、掘り広げた空間に気づかず落下する始末だ。
 落下して動きが止まっているべへモスを目の前にして、こんなチャンスをカラミティが逃すはずがない。
 まともに動けていないべへモスに飛びかかり、背中に噛み付く。
 その時になって、ようやくべへモスは、自分が罠にはめられた事に気づく。
 背中に噛み付いたカラミティを振りほどこうと、体を捻ろうとするが、今いる場所はべへモスにとって狭くうまく動くことができない。
 一方の噛み付いたカラミティは、体を自由に変化させ、わずかな空間をうまく使い、自由に行き来していた。

 まともに動くことのできないべへモスでは、体の大きさを変化させ自由に動き回るカラミティに対処することができず、好き放題に噛まれる事になった。
 だが、ドラゴンの鱗の次に硬いと言われているべへモスの体は、カラミティであっても噛み付けたとしても容易には牙が皮膚を貫くことはできなかった。
 その様子は、一進一退の千日手のように見えた。
 だが、数時間も続いたその争いに変化が起きる。
 べへモスが狭い空間を無理に動いていたせいか、天井が崩れ空間を押し潰した。
 そうなると、べへモスは完全に身動きができなくなったが、カラミティは、体を小さくして残ったわずかな空間へと移動した。
 カラミティは、べへモスが動けなくなった事を確認すると、ゆっくりと近づき噛み付いた。
 そうすれば、べへモスはやめさせようと思うが、思うように体を動かすことができず、なすがままとなった。
 時間はかかったもののカラミティは、ようやくべへモスの体を噛みちぎる事に成功し、思うがままべへモスの体の中を食べていった。
 そしてついに、べへモスの心臓——魔石——までたどり着き、口を大きく開いて噛み付く。
 べへモスの魔石は、今まで食べた中で一番大きく、そのことから得られる力は大きいだろうと予測した。
 案の定、べへモスの魔石を食べ終えたカラミティは、体が焼けるような感覚を味わった。
 この感覚は久しくなかったが、それだけ、このべへモスは力を持っていたということだ。
 ならば、ここにいる全てのべへモスを食べ尽くした時どれほどの力を得ることができるのだろう、と思いながらカラミティは眠りについた。
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