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第2章
自分の力の真実
しおりを挟む「実力を知りたかった……ですか?」
「そうなの、柚木君の事はニュースで見てたよ? 大人気じゃない」
悪気は無いのだろう、麻帆にニコニコと笑いながらそう言われた。
大人気か……テレビに大きく顔写真が映るのは喜ぶべきだが━━指名手配犯の映り方だから全く嬉しくない。
「それで答えになってませんよ? 僕達は父さんに、如月 晴信に、あなたに会いに行けと言われたんですが」
「うんうん要するに、はるっちは私の力を借りに行け、そして柚木君のお母さん、ゆずちゃんの話を聞きに行けって事でしょ?」
「まあ、はい」
はるっち、ゆずちゃん、まだ良いあだ名た。
それに全てお見通しか。
力を借りに行けとは言われてないが、おそらくそういう理由で探しに行けと言ったのだろう。
それに母さんの事も。
「母さんは……如月 柚はどんな人なんですか? 息子だったんですが、僕と柚葉が小さい頃に亡くなってしまって、それなのに色々な人が母さんの事を知っていて」
「そうだな……ゆずちゃんは、全てを背負った者、かな?」
「━━全てを背負った者?」
「すみません、それはどういう」
「そのままの意味だよ━━ねえ柚木君。君は精霊の同時召喚をしてるよね?」
やっぱりわかる人にはわかるのか。
不意の言葉に動揺しないで、僕はゆっくり頷く。
驚いていたのはシノとシルフィー、それに小人達と雫、いまさら感が半端ないが、柚葉だった。
そして、シノが血相を変え、
「精霊の同時召喚って……普通はできないんじゃ?」
「それは……アグニルが僕に」
「柚木君……本当にそう思ってるの? ━━ねえ精霊ちゃん達、柚木君がどうしてできないと言われている同時召喚ができるの?」
麻帆の問い掛けに、三人は答えない。
反日本政府の神宮寺、それにコスタルカ、雅、色々な人にこの言葉を言われた。
だけど、僕ははっきりと三人に問いただす事はしなかった。
なんで? それは彼女達の口から説明を受けたかったからだ、他の誰かではなく、僕の精霊から聞きたかった事だ。
少しの沈黙の中、アグニルが小さな声を発した。
「それは主様のお母さんが、莫大な量の霊力の持ち主……だからです」
「えっ?」
そんな話はこれまで一言も聞いてなかった。
霊力の保有数は一定で、少ないか多いか、それにはかなりの差がある。
だけど多いか普通か、それは等しく同じだ。
それに━━
「ちょっと待って、母さんは精霊召喚士じゃなかったはずだよ?」
「そう、ゆずちゃんは精霊召喚士じゃない━━柚木君、【霊力移植試験】ってのを誰かから聞いた事ある?」
「いえ聞いた事ないです……それは?」
「霊力移植試験っていうのは、人の保有する霊力を、第三者に渡す実験さ」
「第三者に、渡す実験?」
麻帆は頷き、静かに説明を続けた。
「その試験は二十年くらい前、品川さんっていう私達の先生が考えた試験なんだよ、そして、その助手にゆずちゃんとはるっち、柚木君のお母さんとお父さんもいたの」
「……母さんと父さんが?」
「この試験は━━ううん、まず霊力は体内にあって、この霊力が無くなると、召喚士には酷い気だるさの症状がおきるよね、そして霊力が全て無くなったらどうなると思う?」
「えっ、はい、霊力切れになったら精霊をその場に留める事ができなくなって、精霊術は使えなくなるって聞きました」
「そう、だけど霊力切れには皆なってないんだよ━━本当のね」
そう言って、麻帆はおもむろに立ち上がり、戸棚から一枚の写真を手に取った。
「これは私達のチームだよ」
「……これって!」
「そう、左から私、ゆずちゃん、品川さん、そしてはるっちだよ」
写真にはどっかの実験室なのか、明るい部屋に、四人の後ろには薬剤や試験道具等が置いてある。
そして四人が仲良さそうにピースをしている。かなり若いな。
「これは私達がまだ十八……くらいだったかな? その時に撮った写真だよ。移植されたのがゆずちゃん━━そして移植したのは品川さん」
麻帆は写真を持ち懐かしむような表情は一切見せず、ただ悲しそうな表情をしている。
「この実験は、品川さんの体内にある霊力を全て、ゆずちゃんの体内に移動させるって実験なんだけど━━その前に十人の精霊召喚士の霊力を半分程、ゆずちゃんの体内に移植したんだ」
「十人!? それで……結果は?」
「大成功だったよ、霊力の無いゆずちゃんに霊力が検出されたんだ、凄い発明だと思ったよ。それで、本来の目的である、品川さんの体内の霊力を全て、ゆずちゃんの体内に移植する実験をしたんだ」
ここまで聞いて、なんとなく凄い実験だと思った。
十人の霊力を半分ずつ、要するに母さんは五人分の霊力を保持している事になるのか。
そして、麻帆は重たい口を開いた。
「その試験も結果的には成功だった、ちゃんとゆずちゃんに品川さんの霊力は移植された、全ての霊力を、ね━━だけど、そこで初めて知ったんだ」
「……何を、ですか?」
「体内にある霊力を全て失うと、精霊召喚士は死ぬって事を」
その瞬間、時が止まったように、視界が真っ白になった。
死ぬ? 急にこの人は何を言ってるんだ?
そして、麻帆の目からは涙が流れ、話は続いた。
「一瞬だった……精霊が理想郷《シャングリラ》に還るように、品川さんの体も粉々になって消えたんだ。
一瞬、何がおきたのかわからなかった、私を含めて三人ともその日を境に苦痛の日々だったよ、この実験を発明したのは品川さんだったけど、品川さんの奥さんになんて報告すればいいのかわからなくなって、それにこの情報はすぐに日本各地の情報機関に漏れたんだ、私はここでこの四人と、そしてゆずちゃんとはるっちはまだ生まれたばかりの柚木君と日本第三支部に行った━━それから少しして、妹の柚葉ちゃんが生まれたんだ」
それで、僕は向こうで生きていた記憶しかないんだ。
そして、話はそこで終わりかと思った、だけど、麻帆はもっと苦しそうな表情になり、声を荒げる。
「それまでは別に良かった! 私が二人を誘ったから、品川さんの奥さんには私が謝りに行ったよ、だけど、この実験に興味を持った者が、私の前に現れたの」
━━興味を持った者。
「そいつは私に言った『この実験で霊力を移植された人は誰だ』と、それで私は思った」
━━嫌な予感しかしない話。
「こいつらは、ゆずちゃんを狙ってるって、だから私は答えなかった、だけど、あいつらは色々な情報機関に聞いて━━そして、ゆずちゃんの正体に気付いた」
━━もしかして。
「それに気付いた時、すぐにゆずちゃんに伝えようと連絡した、危ないから隠れてって、だけど……」
━━いやだ、聞きたくない。
「ゆずちゃんはその時にはもう、半分死んだ状態だった、何もかも遅かったの」
━━ああ、だから父さんはどうして死んだのか教えてくれなかったのか。
「それで、はるっちはゆずちゃんの亡骸を抱えて私の所に来た、それで、ある実験を頼まれたの」
━━その実験、言わなくてもいい、わかってるから。
「ゆずちゃんの霊力を全て、柚木君に移植してって」
━━ああ、だから僕は人よりも多くの霊力を持っているのか。
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私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
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