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第2章
最悪
しおりを挟む麻帆は泣き、他の四人はそれを支えている。
そして、シノとシルフィー、それに雫は動揺しているのか、俯いたままだ。
そして柚葉は━━僕と一緒で、この事を初めて聞かされた、珍しく無表情、何を考えているのかはわからないけど、辛い事だけはわかる。
そして、僕の精霊達は━━
「三人は……この事を知っていたの?」
「……ごめん、なさい。でも私達は━━」
僕の顔を見て言葉を止めるアグニル。
エンリヒートもカノンも、僕と一瞬目を合わせたけど、すぐに視線を下げた。
そんなに怖い顔をしてる? 僕が怒っているように見える?
もし三人が僕に隠していて、僕がその事に怒っていると思っているのなら、それは大きな勘違いだ、だって、
「ありがとう……僕の事を心配して秘密にしていてくれたんだよね」
「主様……私達は」
三人は泣きながら飛び込んできた、重いよ、三人とも。
雅と戦っている時、仲神が言っていた言葉、
『信頼するのと全てを包み隠さず話す事は別だ』
『あいつらはお前の事を心配して話さなかった』
今ならこの意味がわかる、もし、あの頃にこの話を聞いていたなら、僕はどんな行動をしたかわからない。
殺した者を恨んで復讐に行く?
そうするかわからないけど、あの頃と今は違う。
今はこの力の重みを知っている、それにアグニルやエンリヒート、それにカノンの力になりたいと思っている。
その為にはこの力が必要だ、三人を最大限の力で維持できる霊力、そしていつか新しい精霊と契約するこの━━
「……母さんが僕にくれた力なんだね? 才能なんかじゃない。本当の母さんの力」
この力を使って━━
僕は涙を流している麻帆に向き直り、
「母さんを殺した人は……反日本政府なんですよね?」
僕の言葉に、麻帆は涙を拭い、四人に「大丈夫」と笑みを贈り、
「そう……ゆずちゃんを殺したのは反日本政府。ゆずちゃんの……霊力を奪う為に」
麻帆に見つめられた、涙で化粧が乱れて、あられもない姿だ。
そうか、その事を聞けて良かった。
正直、他の奴だったらどうしようかと思った、これ以上敵を増やしたくはなかったから。
━━新しい敵が増えなくてよかった。
「これで、あいつらに集中できます」
日本全国を襲い、シノの両親を殺し、僕の母さんを殺した。
皆の目的は一緒……だけど、
「雫……君はいいのかい? 一応、君の父さんなんだろ? 反日本政府の代表は」
「えっ、あ、はい自分は……」
僕の言葉に動揺している雫、いきなり声をかけたからか?
だけど「お父さん?」と、おっとりとした表情の心咲が口を開いた。
「その方は神宮寺の息子なんですか?」
「えっ? そうだって言ってますけど」
「神宮寺 司には━━息子も娘もいませんけど」
「━━えっ?」
その瞬間、アグニルとエンリヒートとカノン、そしてシルフィーは動いた。
三人は僕を守るように、シルフィーはシノを守る。
その姿を見て、雫は立ち上がり、慌てながら皆を止める。
「ちょ、ちょっと待ってくださいよ!」
「心咲さん……本当に神宮寺には息子はいないんですか?」
「ええ、一度調べた事があって、それで子供も、それに結婚歴も無かったけど」
「雫……疑いたくはないけど、説明はしてくれるかな?」
「……それは」
雫は僕の言葉を聞いて何を思ったのか、急に黙りこんだ、これでは━━
「黙るって事は……嘘だった、そういう事ですよね?」
カノンの言葉が雫の胸をえぐる。
視線を落とし、誰とも目を合わせない彼、今何を思っていて、何を考えているのか、それは雫の表情を見てもわからない。
だが、不意にビービーという騒がしい警報音が部屋中に鳴り響く。
一番先に動いたのは麻帆だった。
「これは━━早く閉じて!」
何を?
そう思って麻帆を見る、他の四人は急いで後ろに置かれていたパソコンを操作する。
そして繁信は唸り声のようなものを発してから、
「━━駄目です! 侵入されます」
「そんな……どうしてここが」
「麻帆さん! 何があったんですか!?」
「……何者かがパソコンに侵入したみたい、この警報は━━」
その瞬間、パソコンの画面が一斉に明るくなり、その画面には人の姿。
椅子に座る男性を、僕は知っていた、こいつは、
「……神宮寺」
「やあやあ、お久しぶりだね如月 柚木君……それに他の仲間達も」
ああ、本当に久しぶりに感じる━━見たくもないその顔。
色々聞きたい事はある、あの後どうなったのか、父さんは、仲神と恵斗は今どこに居るのか。
だけど、神宮寺の視線は僕から動き、
「いやいや、本当に良くやってくれたよ、雫。私は嬉しいよ!」
「━━ッ! なんでここがわかった!?」
高笑いする神宮寺と、怒りを露にする雫。
この話を聞くかぎり、やはり親子なんだ、そう思った。
「お前にGPSを付けといて正解だった……本当に予想通りお前は如月君の所に向かってくれた。お前には感謝してるよ」
「なっ! GPSだって……」
雫は慌てて身の回りを探す、上着、ズボン、靴。
そして靴を脱いだ時、靴の裏に小型の機械が付いてるのを雫は見つけた。
雫の顔が真っ白になり、その機械を踏みつけ、
「こんな……くそっ!」
「お前は機械に詳しいのに、自分の事には気づかないなんてな」
「なんで私が如月さんの所に向かうと思った! 私はそんな話、一度もしなかったぞ!」
「言わなくてもわかるぞ……お前の主だからな」
少しだが、この二人の会話に違和感を感じた。
主━━普段、三人が僕を呼ぶ時の名称だ、親子でこんな呼び方をするのか? まあ、変わった親子なら考えられるが。
そんな事はいい、それよりも、
「それで……話はなんだ? まさか親子の再会を見せる為だけにこんな事をしたわけじゃないよな?」
「当たり前じゃないか、私はこれから日本第一支部に攻める事にした。当然、他の住民もね」
言い切った。
だがこいつならやりかねない、有言実行、その言葉が似合う、嫌な意味でだが。
そうする理由は━━
「お前が狙ってるのは僕だけだろ? それなら」
「いやいや、私は君が出てきてくれないからこうしているだけだよ? ━━その為なら住民がどうなっても構わないよ」
「腐ってるなお前は……本当に」
「まあそう怒らないでくれよ、別に、君が私のところに来てくれれば他の者には危害を加えたりはしないよ?」
これ以上の話は不要だな。
「僕達がお前に屈する事は無い、当然、お前自身もここ、日本第一支部に来るんだよな?」
「もちろんさ、私は代表だからね━━私も新しい精霊と契約して一緒に向かうよ」
足を組み直し、堂々と答える神宮寺。
精霊か、あいつの精霊は初めて見るな……前は見れなかったから。
だが、そこ言葉を聞いて雫が嬉しそうにしながら、
「そうか、やっと新しい精霊と契約する気になったか! ━━じゃあ早く解除してくれ!」
「ああ、そうだったな━━契約解除」
パソコンに映る神宮寺の手から鎖が現れ、雫の胸元まで伸びていた。
その瞬間、鎖は粉々になって消えた。
「お前はもういらないよ━━器《うつわ》の精霊、シズク」
「━━クズ召喚士が」
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私が死ぬまでには完結させます。
追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。
追記2:ひとまず完結しました!
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