精霊召喚したら、幼女の精霊を召喚してしまいました

アロマサキ

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第2章

門の精霊 アスモデウス

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 画面が消え、沈黙だけが流れる。
 どうして雫に鎖が現れたのか、それに、



「……器の精霊って、なに?」

「……それは」



 雫に問い掛けても、何も返ってこなかった。
 返ってきたのは沈黙と、合わせない視線だけ。
 代わりに、カノンが答えてくれた。



「……雫さん、あなた、精霊だったんですね」



 その言葉を聞いて、僕は黙っている彼を見る。
 皆の視線を受け、ただただ下を見つめる雫。
 何も答えないとは、そういう事なのか。



「……どうして、早く言ってくれなかったんだ?」

「それは……すみません。自分があいつの精霊だって言ったら、皆さんは自分の事を仲間には入れてくれないと思ったので」

「それはそうかもしれないけど」



 間違いなく、僕の精霊達は彼を、今よりも疑っただろう。
 だけど、僕はそんな事で仲間にしない、なんて言ったりしない━━嫌なのは、



「嘘をついた、僕はその事が嫌だな」

「━━すみません!」



 慌てて僕を見る雫。
 雫の表情は隠していた事を必死に謝っている、そんな表情をしている。
 そんな中、エンリヒートがため息混じりに言葉を発する。



「はあ……それで、お前はこれからどうするんだ? 目的はあいつとの契約解除だろ? じゃあ目的は果たしたわけだ、だったらこのまま理想郷《シャングリラ》に還るまでの七日間、じっと待つのか?」

「それは! ……まあ、そうなりますね」



 何かを言おうとしたが、すぐに下を向いて言葉を止める雫。
 何を言おうとしたのか、それはなんとなくだがわかった。



「あいつに……神宮寺を止めたい、そう思っているのか?」

「……はい」



 やはりそうなのか。
 この返答に、今度はカノンが質問した。



「でも、どうして彼を選んだんですか? 別にあなたは彼じゃなくても良かったと思いますが?」



 精霊が召喚士を選ぶ、これは前に聞いた。
 なら、どうして雫はあんな人間と契約したのか、それが皆の疑問だろう。
 だけど、雫は一回だけ頷き、




「はい……あいつは、神宮寺 司は最初からあんな人間ではなかったんです。少し野心家でしたが、根っこの部分は優しくて━━でも、去年くらいから急に人が変わったように、冷酷になって、目的の為なら手段を選ばなくなって」

「去年から急に変わった?」



 この言葉に、パソコンを操作していた麻帆が聞いた。
 そして麻帆は、他の四人と顔を見合せ、



「神宮寺は……昔からあんな人間だと思ったけど?」

「いえ、自分が契約した頃の彼は違いました!」

「でも……色々な悪事を始めたのは去年よりも前だし、それにゆずっちの事を狙ったのもあいつだって聞いたけど?」

「それは……。だから不思議なんです、自分の知っている彼ならそんな事はしないと思っていたので」



 お互いの意見が全然違う。
 だけど、僕にはお互いが本当の事を言っているように見える。
 そんな中、エンリヒートが二人を制止するよつにして、二人の間に入る。



「まあまあ、とにかくだ、これからどうするかを決めないか? ここで過去がどうだったか、なんて話をしていても進まないからな」

「まあ、そうね。私たちもあいつらが攻めてくるなら、それの対応しないといけないし」

「……対応?」



 麻帆の言葉に疑問混じりに問い掛けると、麻帆はコクリと頷き、黒い画面のパソコンを全て起動させる。



「この日本第一支部には、三つの防壁拠点があるの、この地図を見て」



 麻帆はそう言うと、日本第一支部を上空から映した画面を見せてくれた。
 昔は離れた島━━旧北海道と呼ばれた場所だ。
 そして、麻帆は左下の部分を指差し、



「いま私達のいる場所はここ、旧函館地点ね、っで、こことは別に━━旧札幌、旧釧路、これがこの日本第一支部の三つの防壁ラインなの」

「防壁ライン……この防壁ラインには何があるんですか?」

「ここには多くの精霊召喚士がいて、この前の反日本政府と侵略者《アンドロット》が攻めてきた時も、この旧函館地点には接近戦が得意な精霊、旧札幌地点には遠距離が得意な精霊、そして旧釧路地点には戦闘向きじゃない精霊、いわゆる援護が得意な精霊を配置しているの」



 麻帆はそう言って、三つの地点を指差した。
 旧函館のあった場所は左下で、日本第三支部から北の方角に進むと、最初に到着する場所だ。
 そこから少し北に向かった場所に旧札幌地点、そのさらに北へ上がっていった場所に旧釧路地点がある。

 カノンは画面を見ながら指差す、



「ですが……ここ、旧釧路地点には戦闘向きじゃない精霊を集めてるって言いましたが、もしここに侵略者を呼ぶ門が発生したらどうするんですか?」

「ああ、その事なら大丈夫よ。侵略者を呼んでいるのは精霊召喚士だから」



 麻帆は言った。
 だが、この言葉を聞いて慌てて聞き返す。



「えっ! 麻帆さんもコスタルカの事を知っているんですか!?」

「コスタルカ━━ああ、そんな名前だったわね……もしかして、柚木君も知ってるの?」

「知ってるというか……」



 僕はアグニルを見た。
 アグニルは驚いていた、そして、青みがかった白髪を揺らしながら、麻帆の近くに歩く。



「どうして……あなたがあいつの事を知ってるんですか?」

「私は元科学者━━科学者内でも彼は有名なのよ……えーっと、あったあった、この人よね?」



 麻帆は本棚から一枚の写真を取りだし、僕達に見せてくれた。
 そこには僕の知っているコスタルカが映っている、凄い笑顔の写真だ。



「これはだいたい百年前かな、彼が科学者として初めての受賞した時の写真。それで本名はリーン・エン・コスタルカ」

「あの……二人はどういう関係で?」



 麻帆は昔の事を思い出したのか、少し表情を緩めた。
 その姿を見てアグニル、それにエンリヒートとカノンも、慌てて臨戦態勢になる。

 またか……彼女達は一点を見ると周りを見ない事が多い。
 僕は三人の頭に手のひらを乗せ、



「……三人とも、少しは話を聞いてから行動してよ。それで、リーンさんはどんな方なんですか?」

「えっ、ああ、私も話した事は無いんだけどね、リーンさんはフランス人の科学者さんで、科学者を志す人なら誰でも知ってるのよ」



 僕の手を掴み暴れている三人。
 そんなに力は入れていないのだが、おそらく撫でられて嬉しいのか、手をすりすりしている。
 そんな彼女達をほっとき、麻帆は話を続ける。



「最初は普通の科学者だったらしいんだけど……天才の脳ミソは私みたいな凡人にはわからないわね、普通の科学に飽きたらしくて、科学者達の間ではやってはいけない禁忌に手を付けちゃったのよ」

「……禁忌、ですか?」

「ええ、強力な別次元の門を開く精霊と契約する事のできる禁忌。だけど、この禁忌を使った者は絶対に死なないし死ねない、そして、体の全てをこの門を開く精霊━━アスモデウスに捧げるっていう術なの」
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