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第25話「信頼あるものだけが得る紋章」

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 馬を操作している御者ぎょしゃから「南にある隣国まであと半日以上はかかるので睡眠を取られてください」と言われ俺も休もうとした。けれど、誰が敵になり得るか分からないこの状態、御者も信じられない俺は寝ることができなかった。


 それよりも気になることは一つ。俺は何も考えずに御者がいるところで俺の経緯などを話してしまった。今の話を外部に話されては困る。


「あの、俺が今言ったこと聞こえてましたよね? 黙っててもらえませんか?」


 俺のお願いを聞いた御者は「ハッハッハッ」と笑いを零した。そして俺に「ご安心ください」と念を押した。


「私は馬車にお乗りの方のお話を外部に話すことは禁じられています。その契約の元、仕えさせていただいております。もし私の口から外部に漏らすことがあれば、そのときは違反の代償として命を奪われます」

「…………命を」

「はい。何も私に限らずとも、あなた様がレイ様のお命を狙われた場合殺されることと一緒です。契約は絶対なのです」

「この世界は契約と共に成り立っているんですか?」

「いいえ、そうとも限りませんよ。レイ様はミケのお側で仕えていますが契約を結んでいませんし、レイ様から契約を結ばれた者は「信用」ではなく、「信頼」がある方のみです。その証拠にあなた様の手の甲にもレイ様と交わした契りの紋章が浮き出ておりませんか?」


 ……契り?

 うっすらと青い羽のようなものが俺の手の甲に浮き出ていた。そして、同じ紋章が御者の手の甲にもくっきりとついている。


「これはレイ様と契りを交わした者だけが付きます。まあ、もっとも私は『外部に公言しない』という名目のみ信頼を置いていただけているかと思いますので、あなた様に比べたら私への信頼なんて全然事足りません。紋章の大きさも違いますし」


 御者は嬉しそうにまた「ハハハ」と笑い声を上げた。


「……もしかして、同志ができたって思って笑ってます?」


 レイを起こさないように少し前のめりになり御者に問いかけると、「それもそうですねぇ」と意味ありげな声のトーンで返事を返された。


「ですが、御者である私は馬車に乗られている方から話しかけられることなんてほとんどありません。あなた様は珍しいですね。やはり、ここの世界の者ではないことが影響しているのでしょうか?」


 『ここの世界の者ではない』と言われて、やっぱり全部聞かれていたんだと恥ずかしくなる。だということは、俺がレイに手を出したことも全て聞こえていただろう。


 湯でたこのように顔を赤面させながら、「いや、それはただの人間性の問題かと……」と答えると、御者はまた声高らかにハッハッハと笑った。


 面白い人だ。
 レイが御者を信頼している理由が理解できたような気がする。



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