8 / 56
第1幕
第4話 歓待による困惑1-1
しおりを挟む
ローレンス様が手を当てると、淡い緑色の光が全身を包み込む。体が温かく、足の痛みが和らいだ。
(もう痛くないなんて……。治癒魔法のレベルが違い過ぎる)
「足首と、背骨、肋骨に少々ヒビが見られます。その他複数に打ち身がありますね。打ち身と肋骨は今日中に癒しますが、足に関しては負荷が強いので少しずつ治していく形でもよろしいですか」
「あ、あの……一気に治せないのは、私に何か問題があるのでしょうか?」
「率直に申し上げて人族の身体は貧弱ですので、魔力量の高い魔法を行うと肉体が持たないと思います」
「……貧弱ですみません」
なんだか本当に悲しくなった。
よく考えれば、竜魔人や、獣人族、エルフ族のみな、寿命も長いし、肉体の強度も異なる。
「そもそもオリビア様は栄養失調と寝不足ですからね、まずはそちらの改善が必要かと。陛下の大切な御方ですから、私たちも出来る限りのことをさせて頂きます」
(陛下の大切な人……)
胸に軋むような痛みが走った。
本当に生贄ではない──?
それとも弱っていては生贄として役に立たないからだろうか。人の好意が怖い。
この待遇はセドリック様の恩恵ありきで成立している。クリストファ殿下の時も、最初は私を安心させるためか紳士的だった。
ローレンス様が親切なのも「セドリック様にとっての大切な客人」だからだ。それがずっと続く保証など、どこにもない。何らかの不興を買ってここを追い出される──それよりは完治したのち、生贄として殺される可能性の方が信憑性は高い。
そう考えたからこそ、私は尋ねずにはいられなかった。
「あ、あのローレンス様……一つ聞いても」
「なにか心配事でも?」
「その……治療代の総額はいかほどになりますでしょうか? 手持ちがなにもありませんので、後払いになって申し訳ないのですが教えていただけると助かります」
「!」
その場にいた全員が硬直し──次の瞬間、ローレンス様は眉根を下げて微笑んだ。エルフの侍女長は目に涙を溜めて泣きつつある。憐れむような、困った顔をするのだろう。
こんな素晴らしい部屋で、治療もしてもらったのだ。後々金銭を請求される可能性がある。少なくともこの三年、「あの時、助けた時に承諾しただろう」とか「恩を仇で返すのか」と治癒師や、手当をしてくれた屋敷の使用人からネチネチ言われ続けた。
後出しで対価を請求されるぐらいなら、最初から聞いてしまった方がマシだ。錬金術と付与魔法なら使えるので、天文学的な数字でなければ支払いも可能だろう──なんて考えていたのだが、ローレンス様は穏やか目で私を見つめ返す。
「そのようなこと、どうかお気になさらずに。貴女様から金銭など取ったら、私が陛下に殺されてしまいます」
「え?」
「冗談です。移動のために車椅子と杖を後でお持ちしますね」
「あの、でもこんな好待遇をしていただく資格など──」
「オリビア様」
「は、はい」
侍女長が一歩前に出たので、金髪の綺麗な髪が揺らいだ。青空のような美しい瞳に艶々の肌、外見は私と同じくらいだというのに健康的で胸の発育もよく、黒のメイド服もとてもよく似合っている。
エルフ族だろうか。とても美人で「この人がセドリック様の王妃だ」と言っても不思議はなかった。グラシェ国は美男美女が圧倒的に多すぎる。
「本日より王妃様の身の回りのお手伝いをさせて頂きます侍女長のサーシャと、傍付きとして彼女の名前はヘレンと申します」
「傍付きに任命されましたヘレンと申します。以後よろしくお願いします!」
二人が私に向ける眼差しは侮蔑でも、嘲笑混じったものでもない。純粋に私の世話係になったことを喜んでいる──ように見えた。
そのことに驚いたが、それよりももっと驚いたのは──。
「おうひ……?」
「オリビア様のことでございます」
伴侶。番。そして王妃。
本当にそれらのイコールは生贄なのか。素直に聞いてもはぐらかされる可能性はある。けれども我慢できずに、口をついて言葉が溢れた。
「あの、どうして私は──歓迎されているのでしょう。王妃というのも……この国では生贄のことをそう呼ぶのでしょうか?」
「え?」
困惑する私に何か察したのか、サーシャさんが目を光らせた。
「失礼ですがオリビア様。エレジア国で三年間ほど静養していたと伺っていますが、どのように話を聞いていたのですか?」
「静養? ええっと……三年前にエレジア国の王家に保護を求めたとか。王家は、子爵家としての生活面に関しては援助などしてもらった──と叔父夫婦から聞きました」
クリストファ殿下や聖女エレノアの話した内容ではなく、あくまで叔父夫婦から聞いていた内容を彼らに伝えた。
「保護、ですか。その割に肌や指先は荒れていますね。しかも侍女見習いがするような──」
「そうですね。……お恥ずかしい話、部屋の掃除や食事は自分でしてきました」
「使用人や侍女は屋敷に居なかったのですか?」
叔父夫婦が雇った使用人や侍女を数えれば、二桁はいただろう。けれど──。
「使用人たちは私のことをよく思っていなかったようです。叔父夫婦に怒鳴られる日々が続き、使用人たちも私をぞんざいに扱うようになっていきました。結果、自分の身を護るため、掃除や洗濯、食事など身の回りの事は自分でしてきました」
(もう痛くないなんて……。治癒魔法のレベルが違い過ぎる)
「足首と、背骨、肋骨に少々ヒビが見られます。その他複数に打ち身がありますね。打ち身と肋骨は今日中に癒しますが、足に関しては負荷が強いので少しずつ治していく形でもよろしいですか」
「あ、あの……一気に治せないのは、私に何か問題があるのでしょうか?」
「率直に申し上げて人族の身体は貧弱ですので、魔力量の高い魔法を行うと肉体が持たないと思います」
「……貧弱ですみません」
なんだか本当に悲しくなった。
よく考えれば、竜魔人や、獣人族、エルフ族のみな、寿命も長いし、肉体の強度も異なる。
「そもそもオリビア様は栄養失調と寝不足ですからね、まずはそちらの改善が必要かと。陛下の大切な御方ですから、私たちも出来る限りのことをさせて頂きます」
(陛下の大切な人……)
胸に軋むような痛みが走った。
本当に生贄ではない──?
それとも弱っていては生贄として役に立たないからだろうか。人の好意が怖い。
この待遇はセドリック様の恩恵ありきで成立している。クリストファ殿下の時も、最初は私を安心させるためか紳士的だった。
ローレンス様が親切なのも「セドリック様にとっての大切な客人」だからだ。それがずっと続く保証など、どこにもない。何らかの不興を買ってここを追い出される──それよりは完治したのち、生贄として殺される可能性の方が信憑性は高い。
そう考えたからこそ、私は尋ねずにはいられなかった。
「あ、あのローレンス様……一つ聞いても」
「なにか心配事でも?」
「その……治療代の総額はいかほどになりますでしょうか? 手持ちがなにもありませんので、後払いになって申し訳ないのですが教えていただけると助かります」
「!」
その場にいた全員が硬直し──次の瞬間、ローレンス様は眉根を下げて微笑んだ。エルフの侍女長は目に涙を溜めて泣きつつある。憐れむような、困った顔をするのだろう。
こんな素晴らしい部屋で、治療もしてもらったのだ。後々金銭を請求される可能性がある。少なくともこの三年、「あの時、助けた時に承諾しただろう」とか「恩を仇で返すのか」と治癒師や、手当をしてくれた屋敷の使用人からネチネチ言われ続けた。
後出しで対価を請求されるぐらいなら、最初から聞いてしまった方がマシだ。錬金術と付与魔法なら使えるので、天文学的な数字でなければ支払いも可能だろう──なんて考えていたのだが、ローレンス様は穏やか目で私を見つめ返す。
「そのようなこと、どうかお気になさらずに。貴女様から金銭など取ったら、私が陛下に殺されてしまいます」
「え?」
「冗談です。移動のために車椅子と杖を後でお持ちしますね」
「あの、でもこんな好待遇をしていただく資格など──」
「オリビア様」
「は、はい」
侍女長が一歩前に出たので、金髪の綺麗な髪が揺らいだ。青空のような美しい瞳に艶々の肌、外見は私と同じくらいだというのに健康的で胸の発育もよく、黒のメイド服もとてもよく似合っている。
エルフ族だろうか。とても美人で「この人がセドリック様の王妃だ」と言っても不思議はなかった。グラシェ国は美男美女が圧倒的に多すぎる。
「本日より王妃様の身の回りのお手伝いをさせて頂きます侍女長のサーシャと、傍付きとして彼女の名前はヘレンと申します」
「傍付きに任命されましたヘレンと申します。以後よろしくお願いします!」
二人が私に向ける眼差しは侮蔑でも、嘲笑混じったものでもない。純粋に私の世話係になったことを喜んでいる──ように見えた。
そのことに驚いたが、それよりももっと驚いたのは──。
「おうひ……?」
「オリビア様のことでございます」
伴侶。番。そして王妃。
本当にそれらのイコールは生贄なのか。素直に聞いてもはぐらかされる可能性はある。けれども我慢できずに、口をついて言葉が溢れた。
「あの、どうして私は──歓迎されているのでしょう。王妃というのも……この国では生贄のことをそう呼ぶのでしょうか?」
「え?」
困惑する私に何か察したのか、サーシャさんが目を光らせた。
「失礼ですがオリビア様。エレジア国で三年間ほど静養していたと伺っていますが、どのように話を聞いていたのですか?」
「静養? ええっと……三年前にエレジア国の王家に保護を求めたとか。王家は、子爵家としての生活面に関しては援助などしてもらった──と叔父夫婦から聞きました」
クリストファ殿下や聖女エレノアの話した内容ではなく、あくまで叔父夫婦から聞いていた内容を彼らに伝えた。
「保護、ですか。その割に肌や指先は荒れていますね。しかも侍女見習いがするような──」
「そうですね。……お恥ずかしい話、部屋の掃除や食事は自分でしてきました」
「使用人や侍女は屋敷に居なかったのですか?」
叔父夫婦が雇った使用人や侍女を数えれば、二桁はいただろう。けれど──。
「使用人たちは私のことをよく思っていなかったようです。叔父夫婦に怒鳴られる日々が続き、使用人たちも私をぞんざいに扱うようになっていきました。結果、自分の身を護るため、掃除や洗濯、食事など身の回りの事は自分でしてきました」
77
あなたにおすすめの小説
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
え?わたくしは通りすがりの元病弱令嬢ですので修羅場に巻き込まないでくたさい。
ネコフク
恋愛
わたくしリィナ=ユグノアは小さな頃から病弱でしたが今は健康になり学園に通えるほどになりました。しかし殆ど屋敷で過ごしていたわたくしには学園は迷路のような場所。入学して半年、未だに迷子になってしまいます。今日も侍従のハルにニヤニヤされながら遠回り(迷子)して出た場所では何やら不穏な集団が・・・
強制的に修羅場に巻き込まれたリィナがちょっとだけざまぁするお話です。そして修羅場とは関係ないトコで婚約者に溺愛されています。
目の前で始まった断罪イベントが理不尽すぎたので口出ししたら巻き込まれた結果、何故か王子から求婚されました
歌龍吟伶
恋愛
私、ティーリャ。王都学校の二年生。
卒業生を送る会が終わった瞬間に先輩が婚約破棄の断罪イベントを始めた。
理不尽すぎてイライラしたから口を挟んだら、お前も同罪だ!って謎のトバッチリ…マジないわー。
…と思ったら何故か王子様に気に入られちゃってプロポーズされたお話。
全二話で完結します、予約投稿済み
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
婚約破棄のあと、あなたのことだけ思い出せない
柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢セシリアは、王宮の舞踏会で王太子レイヴンから公開の場で婚約破棄を言い渡され、その場で倒れた。
目覚めた彼女は、礼儀も常識も覚えているのに――ただ一つ、レイヴンだけを思い出せない。
「あなたは、どなたですか?」
その一言に、彼の瞳は壊れた。
けれどレイヴンは何も語らず、セシリアを遠ざける。彼女を守るために、あの日婚約を捨てたのだと告げられないまま。
セシリアは過去を断ち切り、王宮の侍女として新しい生活を始める。
優しく手を差し伸べる護衛騎士アデルと心を通わせていくほど、レイヴンの胸は嫉妬と後悔で焼けていった。
――守るために捨てたはずなのに。忘れられたまま、他の男に笑う彼女を見ていられない。
一方、王宮では“偽聖女”の陰謀と、セシリアの血に眠る秘密が動き出す。
記憶を取り戻せば、彼女は狙われる。取り戻さなければ、二人は永遠に届かない。
これは、忘れてしまった令嬢と、忘れられてなお愛を捨てられない王太子が、もう一度“選び直す”恋の物語。
報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を
さくたろう
恋愛
その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。
少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。
20話です。小説家になろう様でも公開中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる