13 / 56
第1幕
第6話 王城での生活1-2
しおりを挟む空気が凍りつき、明らかに部屋の温度が下がった。
セドリック様はニコニコと笑顔でいたが、その双眸は一瞬で鋭くなった。
「エレジア国では、そう言われてきたのですか?」
「は、はい……。叔父夫婦、クリストファ殿下、聖女エレノアの三人から聞いた話がどれも一致しないのです。その上、昨日サーシャさんから少し事情を伺って……まだ状況が整理できていないというか。何が本当で……嘘なのか、今の状況が夢なのかと思ってしまうほど混乱しているのです」
セドリック様は私を優しく抱きしめ、温もりを実感させようと密着してくる。
ドキリとしたけれど、不思議と嫌な感じはなかった。私が拒絶しなかったのを感じ取ったのかセドリック様は目を細めた。雰囲気も少し柔らかくなった。
「私は昔、兄──竜魔王の後を追ってフィデス王国に訪れたことがあります。今思えば無意識に番となる貴女を探していたのかもしれません。魔物の襲撃で怪我をした私を助けてくれたのがオリビア、貴女なのです」
「わたし……?」
「そして今も昔も貴女に惚れこんで求愛し続けているのです。オリビア、愛しています」
「あ、え……」
この流れで告白されるとは思わなかったので、思考が停止した。頭が真っ白になって、返答に迷う私にセドリック様は言葉を続けた。
「少しずつで構いません、今の私を見て好きになって頂けないでしょうか」
「──っ」
「そしてこれは先走っていると思うかもしれませんが、いつか私の番になってほしい。私は本気です。あ、でももし王妃とか堅苦しい肩書が嫌なら、さっさと兄の石化を解いて竜魔王代理役を返上しますので」
「え、な」
そういえばクリストファ殿下も私を保護した時に似たような言葉を言っていた気がする。セドリック様も同じになるかは正直わからない。そうじゃないと思っている反面、また裏切られるかもしれないという恐怖が襲う。
最初は「好きになってほしい」と言いながらも、最終的に番──王妃の座を望まれている。後ろ盾もなにもない脆弱な私に断る選択肢などない。それを考えてなのかセドリック様は自らの立場を捨ててもいいとすら言い出した。
何もわからないまま三年もの間、騙され搾取され利用され続けた愚かで惨めな思いは──もうしたくない。優しくされるのも、愛されるのも今は何か裏があるのではと勘繰ってしまう。いつから自分は底意地が悪くなったのだろう。きっとフランが居なくなったことで、私の大事ななにかが壊れてしまった気がした。
(黙っているのはまずい。……でも、なんて答えればいいの?)
「やはり性急過ぎたでしょうか」
「あ、えっと……」
「オリビアが好きなあまり貴女の気持ちを無視して求婚するなど……格好悪いですよね」
竜魔人の王である彼なら無理やりに従わせることだってできるのに、懇願する姿は強引ではあるものの私の気持ちを聞こうとしている。
「あの。……どうしてそこまで私をお求めになるのですか? 私が──グラシェ国にとって何か役に立つ存在だからでしょうか」
「そのような理由で庇護下に入れる場合はあっても、求愛はしません。竜魔人を基本的に愛するのはただ一人ですから」
「基本的に?」
「私の兄は特殊な事情で側室を設けていましたので、例外があるのは事実です。ですが兄も心から愛したのは一人。私が一緒にいたのも、愛するのもオリビアだけ。側室なんかいりません! 出来るのなら後宮も今すぐ伊吹で吹き飛ばしたいほど、嫌悪感を抱いております」
「セドリック様……」
「はい、なんですか。オリビア」
ググっと距離が近い。鼻先が触れ合うほどの距離だ。キスされそうになるかと身構えていたが、セドリック様は私を安心させようと頬に手を当てる。なんだかそれが恥ずかしいやら、温かいやら人肌が恋しかったのか涙が零れ落ちていく。
思い出せないけれど、伝わってくる温もりが心地よくて振りほどけなかった。それに悔しいが嫌な感じがしないのだ。温かいし……心地いい。
「な……なんでもない……です」
「オリビアは温かくて一緒にいるとホッとしますね」
「!」
「一度目は百年前、二度目は三年前に貴女が忽然といなくなってしまったのですから、三度目は何があっても傍にいたいのです。できるだけ傍に居てもいいですか?」
「それは……」
72
あなたにおすすめの小説
王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る
家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。
しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。
仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。
そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。
え?わたくしは通りすがりの元病弱令嬢ですので修羅場に巻き込まないでくたさい。
ネコフク
恋愛
わたくしリィナ=ユグノアは小さな頃から病弱でしたが今は健康になり学園に通えるほどになりました。しかし殆ど屋敷で過ごしていたわたくしには学園は迷路のような場所。入学して半年、未だに迷子になってしまいます。今日も侍従のハルにニヤニヤされながら遠回り(迷子)して出た場所では何やら不穏な集団が・・・
強制的に修羅場に巻き込まれたリィナがちょっとだけざまぁするお話です。そして修羅場とは関係ないトコで婚約者に溺愛されています。
目の前で始まった断罪イベントが理不尽すぎたので口出ししたら巻き込まれた結果、何故か王子から求婚されました
歌龍吟伶
恋愛
私、ティーリャ。王都学校の二年生。
卒業生を送る会が終わった瞬間に先輩が婚約破棄の断罪イベントを始めた。
理不尽すぎてイライラしたから口を挟んだら、お前も同罪だ!って謎のトバッチリ…マジないわー。
…と思ったら何故か王子様に気に入られちゃってプロポーズされたお話。
全二話で完結します、予約投稿済み
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが
ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。
定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない
そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
婚約破棄のあと、あなたのことだけ思い出せない
柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢セシリアは、王宮の舞踏会で王太子レイヴンから公開の場で婚約破棄を言い渡され、その場で倒れた。
目覚めた彼女は、礼儀も常識も覚えているのに――ただ一つ、レイヴンだけを思い出せない。
「あなたは、どなたですか?」
その一言に、彼の瞳は壊れた。
けれどレイヴンは何も語らず、セシリアを遠ざける。彼女を守るために、あの日婚約を捨てたのだと告げられないまま。
セシリアは過去を断ち切り、王宮の侍女として新しい生活を始める。
優しく手を差し伸べる護衛騎士アデルと心を通わせていくほど、レイヴンの胸は嫉妬と後悔で焼けていった。
――守るために捨てたはずなのに。忘れられたまま、他の男に笑う彼女を見ていられない。
一方、王宮では“偽聖女”の陰謀と、セシリアの血に眠る秘密が動き出す。
記憶を取り戻せば、彼女は狙われる。取り戻さなければ、二人は永遠に届かない。
これは、忘れてしまった令嬢と、忘れられてなお愛を捨てられない王太子が、もう一度“選び直す”恋の物語。
報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を
さくたろう
恋愛
その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。
少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。
20話です。小説家になろう様でも公開中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる