虐げられた臆病令嬢は甘え上手な王弟殿下の求愛が信じられない

あさぎかな@コミカライズ決定

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第1幕

第11話 たくさんの贈物と求愛1-2

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 セドリック様自身を心から信じられるとは言えないが、それでも信じたいと思う気持ちが芽生えてきたのは確かだ。私から贈ったものと言えば、髪紐やハンカチと小物ばかりだが、そのたびに心から喜んでくれた。髪紐ならその場で「髪を結ってほしい」と強請られる。

「オリビアに髪を梳いてもらうのも、結ってもらうのもいいですね。ああ、毎朝結ってくださったら仕事も一層頑張れる気がします」
「お、大げさです。……でも、セドリック様の役に立つのなら、私が髪を結いましょうか?」
「本当ですか? いいですよね。もう取り消しとかできませんよ」

 目をキラキラさせて私の言葉に、一喜一憂するセドリック様に惹かれている。本当に私よりも年上なのか若干疑わしい。それに竜魔王代行という立派な役職に就いているのに、忙しくないのだろうか。
 いつものようにサーシャさんとヘレンさんは、お茶の準備をいそいそと整えててくれている。その間、セドリック様は私を補充するとかで、膝の上に抱き上げられているのはもはやお約束だ。
 抱きしめられて首筋に顔を埋める行為には未だ慣れない。というかくすぐったいし、やっぱり恥ずかしい。沈黙だと余計に恥ずかしいので、私が話しかけることが増えた。

「あ、セドリック様、この間いただいたお花なのですが、押し花をいくつか作ってみました。本の状態を維持するための防腐効果もあります」
「それは助かります。私たち種族は寿命が長い分、書物が多いのですが何分紙の劣化が激しくて、書き写しなど文官が毎年苦労しているのですよ」
「紙の劣化ですか。……紙自体に工夫してみるのはどうでしょう。日差しなどの熱をカットするフィルムなどラミネートという加工をするのと、術式で本そのものを保護するのもいいかもしれません。後は薬草で虫よけなどでしょうか」
「ああ。なるほど、移す作業よりも効率がよさそうですね。オリビアの博識と柔軟な考えは参考になります。こういう感じでまた相談に乗って貰ってもよいですか?」
「え、あ……」

 仔犬のように私を見つめる眼差しに負けて、「私でよければ」という答えを返してしまう。絶対に分かってやっている気がする。でも気分は悪くない。
 叔父夫婦やクリストファ殿下のような上辺の言葉だけじゃない。目に見える形で贈って下さる物は私の好みに合わせてくれるし、一つ一つの言動は、私を大事にしてくれているのが伝わってくる。

「ありがとうございます。ああ、オリビア。愛しています」
「セドリック様っ」

 尻尾がぶんぶんと揺れているのが見える。こんなに直球にアプローチをかけてくるのだから、セドリック様に惹かれるのはしょうがない気がする。けれど自分の胸に芽生えた思いも、過去の──クリストファ殿下の記憶が蘇り、足踏みしてしまう。
 また裏切られることが怖い。

(セドリック様を引き合いに出すのは間違っている。……セドリック様はクリストファ殿下ではないのだから)
「オリビア。お母様が遊びに来てあげました──って、セドリック!」
「なぜ母上がここに?」
「ふふん、私の娘になるだから、女同士の交流を深めるため定期的にお茶会をしているのよ。そうよね、オリビア」
「は、はい!」

 定期的ではなくほぼ毎日なのだが。
 嫁姑のようないびりはない。むしろこれでもかというほど、気にかけてくれて優しくしてくれる。本当に謎。
 必ず私の顔色を見にやってくる義母様。セドリック様と張り合うかのように贈り物を用意してくる。そしてなぜか義母様とセドリック様が私との時間を取り合うという謎の状況。

「オリビア、正直に迷惑だと思うのなら私に言ってくださいね。どうせ母上のことだから毎日押し掛けているのでしょう」
「まあ、失礼ね。オリビアが寂しくないように来てあげているのよ、ね。オリビア」
「母上は迷惑ですよね。私との時間を取りたいでしょう。そうですよね、オリビア」

 二人の圧が凄まじい。
 どちらかに肩入れをすれば機嫌を損ねるのは必須だ。そしてその場合の拗ね方もたぶん私が予想している以上に、尾を引くだろう。そう竜魔人と妖精族のメンタルはこういうのに限って、プリンレベルなのだ。ここは二人の機嫌を損ねず、話題をすり替えて気持ちを切り替える魔法の言葉。

「お義母様、セドリック様。二人とも足の不自由な私に、ありがとうございます。その……こんなに良くしてもらって更にお願いになってしまうのですが」
「何でも言ってごらんなさい」
「何でも叶えてあげます」

 息ピッタリの親子に、胸が温かい気持ちになった。

「近場でも構いませんので、その…外でお昼を食べてみたいのですが」
「んんーーーーもぅ、しょうがないわね。可愛い娘たっての願いだから、聞いてあげましょう! ずううっと屋敷に篭っているのも体によくないもの! いい? 貴女の身体は貴女だけのものじゃないのよ」
(その言い回しだと懐妊した風に聞こえるのは気のせいでしょうか……)
「オリビアからのお願い。いいものですね。ええ、いいものです。明日の公務は無しにして行きましょう、忘れられない昼食にしてみせます」
「た、楽しみにしています」
「ええ」
「はい」

 あっという間に明日の昼食に外へ出かける話に切り替わった。
 とりあえず修羅場回避できたことでホッと胸をなでおろす。それにしても足の怪我は完治に向かっているのだが、相変わらず仰々しいほどの包帯が巻かれている。過保護すぎるものの周囲の優しさが心地よくて甘えてしまう。
 暢気にこの甘く幸せな時間を堪能していた。何も知らずに──。
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