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最終章
第23話 王弟セドリックの視点4-2
しおりを挟む全て「できたら嬉しい」と、必ずくる未来だと信じていなかったのだ。
甘い願いを告げて、そんな未来を想像することで精神を維持していたのだと──。
オリビアが泣いているのを見なくなったから、安心していたのだ。
私に触れるのも拒絶しなかった。笑ってキスを受け入れて幸せそうだった。
だから、もう大丈夫だと──思っていた。
あの日、会議のためにスカーレットが人の姿でオリビアのいる部屋を訪れた。いつもはウサギの姿をしているのだが、さすがに今後の会議となるので人の姿に変えてもらったのだ。
オリビアも眠ったところだったので安心していた。
会議も一時間ぐらいだったので、大丈夫だろうとオリビアから離れた。
思えば《蝴蝶乃悪夢》という魔導具の効果を甘く見ていた。あれは現実に起こったものを悪夢へと昇華し、宿主の精神力を削って、現実に戻れないように対象者を追い詰める。
永遠に眠り続けるよう悪夢と現実をすり替えて、絶望させるものだという。
会議の途中でオリビアの様子を見に部屋を訪れた時──。
暖炉の炎が消えかけており、窓が全開で開いていてカーテンが風で大きく揺らぎ、部屋の床に雪が積もり始めていた。
ベッドで眠っていたオリビアの姿がない。
「──っ」
言葉を失った。
頭が真っ白になった。
部屋の外には警備兵がいる。防御結界があり外からの侵入は不可能。
オリビア自身で飛び出して行った。
その結論が出た瞬間、窓から飛び出して雪の中を走った。
足がおぼつかず、転びそうになりながらも駆けた。
(どうして、気づかなかった。オリビアはつらい時だって、悲しい時だって自分を押し殺せる人間だと、知っていたはずなのに!)
雪のせいでオリビアの匂いが弱々しい。
こんな雪の中を薄着で歩いていたら──。
『こっち、こっちだよ』
声がした。
幼い子供の声。
進んだ先にオリビアはいた。雪で体が埋もれつつあった。雪を払って抱き寄せると体は冷え切っていて、心臓の鼓動もどんどん小さくなっている。
それは明確な死を意味しており、体が震えて喉が詰まって声が出ない。
「オリビア……、オリビアっ」
自分をとり巻く空間の温度を上昇させ、オリビアの体を温めいていく。
生きて。
もう絶対に手放さないと、独りにしないと約束をしたのに……。
どうして私はこんなにも大切な者を守りきれないのか。
「オリビア、ダメだ。私を一人にしないと約束しただろう」
逝かないで。
私を残していなくなるなんて嫌だ。
駄目だ、許さない。
私はまだ何も貴女に返せていないのに。
「セドリック様、……幸せでした。私を見つけてくださって、受け入れてくれて……ありがとう……ございます」
幸せだと彼女は言う。
たった三カ月の日々が──宝物だったと口にする。当たり前の幸福にしたい。
特別なことなどないと、これが当たり前だと思わせてあげたい。安心して身を委ねて、一緒に幸せになりたい。
「オリビア、そんなこと言わないでください。ようやく、一緒になれるのに、やっと全て解決して……精神支配だって、解けるのに──」
オリビアは精神支配を受け、絶望の淵でも微笑んだ。彼女の強さを垣間見た気がした。
彼女の手を掴むと弱々しくも握り返してくれた。
「生きようとしていることを諦めないでくれてありがとう。オリビア、愛しています。どうか私の元から離れないでください。どうか私と一緒に……幸せに……」
「…………は……い」
か細くも頷く彼女が愛おしくて、私は彼女の小さな唇を重ねた。
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