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最終章
第24話 ただいま1-3
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***
「なるほど。セドリック様と一緒にいた時間が夢として認識させられ、部屋に一人だけの悪夢を現実に見せて絶望させようとしていた。……精神支配の浸食度もきれいさっぱり消えているのを考えると、悪夢の核そのものを砕いたのでしょうね」
「そう……なのでしょうか」
あれから私はローレンス様に診察をしてもらい、夢と現実の整理をしていた。ベッドから起き上がって日常生活ができるようになったのはそれから一週間後だった。
セドリック様はできる限り私の傍に居てくれて、安心させてくれる。今もソファの隣で診察内容を一緒に聞いてくれていた。
その途中でわかったことなのだが、夢で見た赤髪の女性がスカーレットだと知り、かなり恥ずかしかった。セドリック様と親しげだったため「恋人なのでは?」と勘違いしてしまったのだ。そのことを正直に話したら、セドリック様は「オリビアが、嫉妬を」と妙に喜んでいた。私としては忘れてほしい。
「セドリック様、傍に居てくれるのはとても嬉しいのですが……仕事は大丈夫なのですか?」
「はい。兄上が戻りましたので、丸投げしました。あとまだたまに『様』が付きますね」
「それは……って、あの、丸投げしていいのでしょうか」
「はい」
晴れやかな笑顔で言ってのけたので、私は罪悪感が増した。
そもそもセドリック様のお兄様に挨拶すらしていない。というかいつの間に石化魔法が解かれたのか。クリストファ殿下や使節団のこともどうなったのか聞いていない。
「元をただせば今回の一件は兄上の怠慢でもあるので、オリビアが気に病むことはありません」
「殿下の言う通りです。英気を養うことが今のオリビア様には大事ですから」
そう言ってローレンス様は部屋を退出したので、私とセドリック様の二人きりになった。隣に座るセドリック様の肩に頭を預ける。
「ああ、オリビアから寄り添うのはいいものですね」とセドリック様は感慨深く呟いた。
「セドリック、兄王様──復帰された竜魔王様にご挨拶をしなくてもよいのですか?」
「そうですね。近々、式がありますから、その時にでもいいでしょう」
「式?」
「私たちの結婚式ですよ」
「!?」
初耳だと思って驚いたが、よくよく思い返せば私が精神支配を受けて夢と現実の区別がついてなかった頃にその手の話をしていた……ような気がする。
指輪や、ドレスなど諸々一緒に話していた。
「それに指輪の準備もできています。ほら」
そういって胸ポケットから取り出した小箱を差し出した。中には蜂蜜色の宝石と深い青の宝石が並んではめ込まれていた。これは私の髪と、セドリック様の瞳の色。
「どうですか。シンプルですが、オリビアの希望も添えてみました」
「すごいです。……でも、私がこんな高価なものを身につけてもいいのでしょうか?」
「………………」
ニコニコしているセドリック様は「オリビアが気に入らないのなら一から作り直しましょう」と言って立ち上がったので、私はセドリック様の腰にしがみついた。
「とっても気に入りました。その指輪がいいです! その指輪しかありえません!」
「よかった。オリビアが私に抱き付いてまで気に入ってもらえるとは、頑張った甲斐がありました」
(セドリック様、甘え上手だけじゃなく、強引な手も使うように……!)
「はい。今回のことでオリビアは自分の主張が弱いので、発言しやすいようにフォローしようと思ったのです」
「こ、心を読まないでください! あとこれはフォローなのでしょうか……?」
それはサポートというよりも強制というか選択肢を狭めるような感じがしなくもない。悪戯いや小悪魔的な。
「これもオリビアが甘えられるような環境を作るためでもあります」
「そんなにセドリック……が、頑張らなくても、これからどんどん甘えたり、頼ったりしますよ。……だって、その……夫婦になるなら、支え合いたいですし」
「オリビア」
私を抱きしめるセドリック様──いやセドリックの背中に手を回す。もう何度目になるか分からないキスは蕩けるように甘くて、ますます好きだという気持ちが溢れる。
自分からキスをするのは恥ずかしいけれど、それでも行動に移した後で顔を赤らめるセドリック様を見るのが嬉しくて、自分から動くのが自然と増えていった。
クッキーを作って政務室に持って行ったり、自分からセドリック様の膝に座ったり──自分でも大胆になったと思う。
今なら少しだけセドリック様が私に対して触れようとしていた気持ちがわかる。好きな人の傍に居て、その人が笑って喜んでくれるのが自分のことのように嬉しくなるから。
「セドリック、愛しています」
「なるほど。セドリック様と一緒にいた時間が夢として認識させられ、部屋に一人だけの悪夢を現実に見せて絶望させようとしていた。……精神支配の浸食度もきれいさっぱり消えているのを考えると、悪夢の核そのものを砕いたのでしょうね」
「そう……なのでしょうか」
あれから私はローレンス様に診察をしてもらい、夢と現実の整理をしていた。ベッドから起き上がって日常生活ができるようになったのはそれから一週間後だった。
セドリック様はできる限り私の傍に居てくれて、安心させてくれる。今もソファの隣で診察内容を一緒に聞いてくれていた。
その途中でわかったことなのだが、夢で見た赤髪の女性がスカーレットだと知り、かなり恥ずかしかった。セドリック様と親しげだったため「恋人なのでは?」と勘違いしてしまったのだ。そのことを正直に話したら、セドリック様は「オリビアが、嫉妬を」と妙に喜んでいた。私としては忘れてほしい。
「セドリック様、傍に居てくれるのはとても嬉しいのですが……仕事は大丈夫なのですか?」
「はい。兄上が戻りましたので、丸投げしました。あとまだたまに『様』が付きますね」
「それは……って、あの、丸投げしていいのでしょうか」
「はい」
晴れやかな笑顔で言ってのけたので、私は罪悪感が増した。
そもそもセドリック様のお兄様に挨拶すらしていない。というかいつの間に石化魔法が解かれたのか。クリストファ殿下や使節団のこともどうなったのか聞いていない。
「元をただせば今回の一件は兄上の怠慢でもあるので、オリビアが気に病むことはありません」
「殿下の言う通りです。英気を養うことが今のオリビア様には大事ですから」
そう言ってローレンス様は部屋を退出したので、私とセドリック様の二人きりになった。隣に座るセドリック様の肩に頭を預ける。
「ああ、オリビアから寄り添うのはいいものですね」とセドリック様は感慨深く呟いた。
「セドリック、兄王様──復帰された竜魔王様にご挨拶をしなくてもよいのですか?」
「そうですね。近々、式がありますから、その時にでもいいでしょう」
「式?」
「私たちの結婚式ですよ」
「!?」
初耳だと思って驚いたが、よくよく思い返せば私が精神支配を受けて夢と現実の区別がついてなかった頃にその手の話をしていた……ような気がする。
指輪や、ドレスなど諸々一緒に話していた。
「それに指輪の準備もできています。ほら」
そういって胸ポケットから取り出した小箱を差し出した。中には蜂蜜色の宝石と深い青の宝石が並んではめ込まれていた。これは私の髪と、セドリック様の瞳の色。
「どうですか。シンプルですが、オリビアの希望も添えてみました」
「すごいです。……でも、私がこんな高価なものを身につけてもいいのでしょうか?」
「………………」
ニコニコしているセドリック様は「オリビアが気に入らないのなら一から作り直しましょう」と言って立ち上がったので、私はセドリック様の腰にしがみついた。
「とっても気に入りました。その指輪がいいです! その指輪しかありえません!」
「よかった。オリビアが私に抱き付いてまで気に入ってもらえるとは、頑張った甲斐がありました」
(セドリック様、甘え上手だけじゃなく、強引な手も使うように……!)
「はい。今回のことでオリビアは自分の主張が弱いので、発言しやすいようにフォローしようと思ったのです」
「こ、心を読まないでください! あとこれはフォローなのでしょうか……?」
それはサポートというよりも強制というか選択肢を狭めるような感じがしなくもない。悪戯いや小悪魔的な。
「これもオリビアが甘えられるような環境を作るためでもあります」
「そんなにセドリック……が、頑張らなくても、これからどんどん甘えたり、頼ったりしますよ。……だって、その……夫婦になるなら、支え合いたいですし」
「オリビア」
私を抱きしめるセドリック様──いやセドリックの背中に手を回す。もう何度目になるか分からないキスは蕩けるように甘くて、ますます好きだという気持ちが溢れる。
自分からキスをするのは恥ずかしいけれど、それでも行動に移した後で顔を赤らめるセドリック様を見るのが嬉しくて、自分から動くのが自然と増えていった。
クッキーを作って政務室に持って行ったり、自分からセドリック様の膝に座ったり──自分でも大胆になったと思う。
今なら少しだけセドリック様が私に対して触れようとしていた気持ちがわかる。好きな人の傍に居て、その人が笑って喜んでくれるのが自分のことのように嬉しくなるから。
「セドリック、愛しています」
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