虐げられた臆病令嬢は甘え上手な王弟殿下の求愛が信じられない

あさぎかな@コミカライズ決定

文字の大きさ
52 / 56
最終章

第25話 王弟セドリックの視点5-1

しおりを挟む
 
 悪魔ラストの掃討は、最後までディートハルト兄上と、ダグラスやスカーレットに任せてしまった。亜空間で存在が消滅するのを確認したそうだ。
 おそらく精神支配の魔導具、《蝴蝶乃悪夢バタフライ・ナイトメア》の核になっていたのは、悪魔ラストの血で作られたのだろう。彼女の死によって精神支配の能力も消えたはずなのに、オリビアが目を覚ますことは無かった。
 このまま眠ったままなのではないか、そう不安で押し潰されそうになったけれど、私の手を握り返すオリビアを見て、彼女も戦っているのだと辛抱強く待つことを決めた。
 百年待ったのだ。数日、数カ月なんてあっという間だ。

 ある日、たまたま疲れて──無意識にベッドにもぐりこんで寝てしまった。そんな時、オリビアは自分から寄り添ってくれて抱き寄せた。

「オリビア、私はここにいますよ」

 私の体温に安堵したのか、ふにゃりと笑ったオリビアは愛おしくてたまらなかった。
 オリビアが眠っている間に竜魔王代行を兄上に返上し、王弟として支える形でグラシェ国中に正式に発表をした。
 側室にしていた第二姫殿下ミアと第三姫殿下リリアンは、兄王が不在中に暴挙に走った数々を公にして処罰した旨も語った。それから数日間は盛大なパーティーを開き私が婚約していることも公表したものの、オリビアの姿がないことで半信半疑に受け取る者が多かった。
 不遜にも私に声をかけてくる他種族の令嬢たちがいたが全て断った。厚顔無恥な令嬢に腹立たしく思ったが、オリビアが目覚めたらさっさと式を挙げてしまおう。
 パーティーも最初だけ参加して、さっさとオリビアの眠る部屋に戻った。

 オリビアが目を覚ましたのは一カ月経った頃だった。
 本人的には数時間のような感覚だったそうだ。
 宮廷治癒士のローレンスと共に診察を受ける。悪夢の脅威は予想以上で、私と過ごしていた時間が夢で、現実が一人きりだと話してくれた。

 正直、ショックだった。
 これ以上、傷つけないし一人にしないと誓ったのに、自分は本当に口先だけなのだと落ち込んでいたが、オリビアにとってはそうではなかった。
 私が傍にいる、一緒にいた時間が宝物だと言ってくれた。
 私のささくれだった心を癒すのはいつだってオリビアだ。
 彼女を甘やかして、安心させたいと言いながら一番甘えて、安心しているのは自分だ。彼女から貰ったものは多すぎて、返したいのに貰うものがどんどん増えていく。

 執務室でここ百年の仕事の引継ぎをしていると、控えめなノックに手が止まった。この匂いは──そう思い、部屋に入る許可を出した。案の定、おっかなびっくりしつつも姿を見せたのはオリビアと、兄王の王妃クロエ殿だった。二人揃って現れたことで、私と兄上の表情が一瞬で緩む。

「オリビア様がクッキーを焼くというので、一緒に作ってみたの。仕事の息抜きにいかがかしら」
「もちろん、大歓迎だよ。そうだろう、セドリック」
「オリビアの手作り! それに自分から私の部屋を訪れるなんて……!」

 歓喜のあまり、幸せを噛みしめる。横で「百年経っても変わらないな」と兄上は冷静で余裕のあるように見えるが、尻尾は狂喜乱舞しているので感情を隠しきれていない。
 結局のところ、自分の愛しい人からの贈り物や愛情には弱い種族なのだ。父上もあんな強面だけれど母上のことになると骨抜きである。

「リヴィ、オレこのチョコのクッキーが食べたい」
「私はイチゴの」
「ふふっ、はい」

 ソファに座ってお茶の準備をしていると、ダグラスとスカーレットが黒猫とウサギの姿で乱入してオリビアにお菓子を強請っていた。
 一気に幸せな気持ちから嫉妬の炎がメラメラと噴き出す。というか当たり前のようにオリビアに肩に乗って頬ずり、膝の上でそれぞれくつろいでいる。

「ダグラス、スカーレット。少しは配慮してください」
「いや」
「いやだ」
「大人気ないな、我が弟は」
「兄上、同じことをクロエ殿がされたら──」

「ふっ、私がそんなに狭量な男に見えるのか」と余裕ぶっているが、尻尾が小刻みに震えている。「あ、これ絶対にやせ我慢だ」というのは誰もがすぐに察した。
 ソファの隣に座ってお茶を口にしつつ、そわそわとオリビアを見つめる。ちゃんと私にクッキーを食べさせてくれるが、膝の上に乗せたい気持ちが膨らむ。
 どんどんオリビアを独占したくて、愛おしさが増していく。あまりにも彼女を見ていたからか、ふと目が合った。
 そしてスカーレットを抱っこしたまま、私の膝の上に乗ってくれた。少し恥ずかしそうにしていたけれど、「こちらのほうが落ち着きます」と呟いた彼女が可愛かった。
 自然と尻尾は彼女の腕に巻き付く。

 穏やかで至福のひと時を破ったのは、御昼寝をしていた甥のアルフレッドだった。
「母上、父上―」と二十センチ前後に成長した甥は生まれて百年未満だ。ちょうど私がオリビアと最初に出会った頃に近い年齢だろう。竜魔人族は幼少時代が長く、番と出会うことで人の姿に変わることができる。番を得ると肉体、精神的な成長も早い。
 私のように幼児期に番──オリビアと出会うと早熟する。その分、子供っぽい部分が出てしまうらしいが、子供っぽいのではなく単にオリビアに対しての愛情表現が他の竜魔人よりもストレートかつ感情豊かなだけだ。……たぶん。

「あらあら、アルフレッド。お昼寝は良かったのかしら?」
「母上。あのですね、いい匂いがしたので目が覚めました!」

 白銀の美しい鱗の甥は、まだまだ甘えたい盛りで母親のクロエ殿の膝の上に座り込む。兄上もそんな息子を愛おしそうに見つめる。

「アルフレッド、父の膝には来てくれないのか?」
「んー、あとで」
「……そうか」
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

え?わたくしは通りすがりの元病弱令嬢ですので修羅場に巻き込まないでくたさい。

ネコフク
恋愛
わたくしリィナ=ユグノアは小さな頃から病弱でしたが今は健康になり学園に通えるほどになりました。しかし殆ど屋敷で過ごしていたわたくしには学園は迷路のような場所。入学して半年、未だに迷子になってしまいます。今日も侍従のハルにニヤニヤされながら遠回り(迷子)して出た場所では何やら不穏な集団が・・・ 強制的に修羅場に巻き込まれたリィナがちょっとだけざまぁするお話です。そして修羅場とは関係ないトコで婚約者に溺愛されています。

目の前で始まった断罪イベントが理不尽すぎたので口出ししたら巻き込まれた結果、何故か王子から求婚されました

歌龍吟伶
恋愛
私、ティーリャ。王都学校の二年生。 卒業生を送る会が終わった瞬間に先輩が婚約破棄の断罪イベントを始めた。 理不尽すぎてイライラしたから口を挟んだら、お前も同罪だ!って謎のトバッチリ…マジないわー。 …と思ったら何故か王子様に気に入られちゃってプロポーズされたお話。 全二話で完結します、予約投稿済み

里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます

結城芙由奈@コミカライズ連載中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります> 政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・? ※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています

【完結】仲の良かったはずの婚約者に一年無視され続け、婚約解消を決意しましたが

ゆらゆらぎ
恋愛
エルヴィラ・ランヴァルドは第二王子アランの幼い頃からの婚約者である。仲睦まじいと評判だったふたりは、今では社交界でも有名な冷えきった仲となっていた。 定例であるはずの茶会もなく、婚約者の義務であるはずのファーストダンスも踊らない そんな日々が一年と続いたエルヴィラは遂に解消を決意するが──

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

婚約破棄のあと、あなたのことだけ思い出せない

柴田はつみ
恋愛
伯爵令嬢セシリアは、王宮の舞踏会で王太子レイヴンから公開の場で婚約破棄を言い渡され、その場で倒れた。 目覚めた彼女は、礼儀も常識も覚えているのに――ただ一つ、レイヴンだけを思い出せない。 「あなたは、どなたですか?」 その一言に、彼の瞳は壊れた。 けれどレイヴンは何も語らず、セシリアを遠ざける。彼女を守るために、あの日婚約を捨てたのだと告げられないまま。 セシリアは過去を断ち切り、王宮の侍女として新しい生活を始める。 優しく手を差し伸べる護衛騎士アデルと心を通わせていくほど、レイヴンの胸は嫉妬と後悔で焼けていった。 ――守るために捨てたはずなのに。忘れられたまま、他の男に笑う彼女を見ていられない。 一方、王宮では“偽聖女”の陰謀と、セシリアの血に眠る秘密が動き出す。 記憶を取り戻せば、彼女は狙われる。取り戻さなければ、二人は永遠に届かない。 これは、忘れてしまった令嬢と、忘れられてなお愛を捨てられない王太子が、もう一度“選び直す”恋の物語。

報われなかった姫君に、弔いの白い薔薇の花束を

さくたろう
恋愛
 その国の王妃を決める舞踏会に招かれたロザリー・ベルトレードは、自分が当時の王子、そうして現王アルフォンスの婚約者であり、不遇の死を遂げた姫オフィーリアであったという前世を思い出す。  少しずつ蘇るオフィーリアの記憶に翻弄されながらも、17年前から今世まで続く因縁に、ロザリーは絡め取られていく。一方でアルフォンスもロザリーの存在から目が離せなくなり、やがて二人は再び惹かれ合うようになるが――。 20話です。小説家になろう様でも公開中です。

処理中です...