天使と悪魔はお嬢様を溺愛する

夢幻惠

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朝、学校へ行こうとした時、お母さんが急いで玄関に追いかけて来るではないか。
お母さんが慌てて走るのは初めて見た。

よほど急用なのだろうか。

「お母さん、どうされました?」

すると、お母さんはニコリと笑顔を見せた。
そして、両手で私の手を掴んだのだ。

「急だけど、今日の夜にお父さんが日本に帰ってくるそうよ。恵美に会えるのを楽しみにしているみたい。それを恵美さんに早く伝えたくて…学校行く直前にごめんなさいね。」

お父さんが日本に戻ってくる。
私の本当の父親に会えるということになるのだ。

嬉しいが、少し不安のような複雑な気持ちだ。

私は父を見て何を感じるのだろう。


(…お父さんはどんな人なのかな…)




「恵美様、お父様がお戻りになられたようですよ、さぁ早く玄関にお迎えに参りましょう。」

夕食を終えて、自分の部屋に居た私に、早乙女が大きな声を出した。

「はい、…今、参ります。」

私は急いでパタパタと走り、玄関に向った。
玄関にはすでに、母や家の従業員たちが並んでいた。

皆、笑顔で嬉しそうだ。
お父さんは、皆から愛されているのがわかる。

「お帰りなさいませ!」

皆が一斉に声を掛けたその先に、一人の男性が微笑んでいた。
横には秘書と思われる男性が付き添っている。

その男性は、少しグレーの髪をお洒落に整え、三つ揃えのきちんとしたスーツを着ている。
優しく微笑む顔には、目尻に深いしわが刻まれている。
とても柔らかい優しい表情だ。

その男性は、私を見つけると、真っすぐ私に向って歩いて来た。

(…この人が私のお父さん?…)



「恵美、…本当にすまなかった、ずっと、ずっと会いたかったよ。」

その男性は、私の手を両手で握り、瞳には涙を溜めている。
初めて見る男性なのに、不思議と懐かしい。

私も何故か目の奥が熱くなり、涙が溢れて頬に流れた。

「…お父さん…お父さんですよね。」

「あぁそうだよ…私が恵美の父だ。許してくれ。」

親子とは不思議なものなのかも知れない。
初めて会うのに、とても懐かしく温かい気持ちになる。

父は私を抱きしめてくれた。
なんとも言えない安心感と心地よさだった。



父は着替えを済ませると、リビングで私の隣に座った。
しばらく無言だった父が、私の頭に優しく手を置いた。

「…恵美、お母さんから聞いたかも知れないけれど、家の都合でいろいろとすまない事をしたね。」

「大丈夫です…お父さん。私は今まで育ててくれた両親がとても大切にしてくださいました。だからずっと幸せでしたよ。」

父は静かに大きく頷いた。
そしてまた目には涙を浮かべている。

「お前を手放す時、お母さんはかなり取り乱していたよ。暫くは食事もとれない程だったんだ。」

あんなに落ち着いて見える母が、そんなに取り乱すとは想像もできない。

父は目を閉じてゆっくりと話し出した。

「今まで皆に黙っていたけれど、私は恵美を遠くから時々見ていたんだよ。学校で元気に笑う君を見ていたんだ。」

お父さんが、私を見に来ていたなんて信じられない。
でも、なんだかその話を聞くと嬉しくなる。

「恵美、神宮司家に伝わる神のお告げでの話はもう聞いたかい?」

父は私に申し訳なさそうな表情をみせた。

「…はい。そのお告げの話は、お母さんから聞いています。」

「…恵がこうなってしまった今、恵美に頼むしかないんだ…許してくれ。」

「…はい。お話を聞いても、まだ信じられませんが、それが私の運命なのですよね。」

「すまない…でも、これだけは言っておくが、龍崎も早乙女も恵美のことは、とても大切に思っている。お前が小さい頃から、恵と同様にあの二人はお前も見守って来ているんだ。」

龍崎と早乙女は私が小さい時から知っているそうだ。
そして、見守ってくれていたという。

それを聞いて、思い出したことがあった。
幼稚園の頃、私は道路に飛び出してしまいトラックに轢かれそうになったことがあった。
しかし、奇跡的に無傷だったのだ。
夢だと思っていたが、トラックとぶつかる瞬間に、誰かが私を抱き上げられた感触をうっすら覚えていたのだ。

今思えば、あれは龍崎か早乙女がだったのかも知れない。


私は昔から守られていたのだ。

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