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8 吸血鬼版ガールズトーク
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リシェはそんなイリヤの話を黙って聞いていたが、腕組みを解くと、キッチンの方に歩いていく。そして冷蔵庫から栄養ゼリーのようなパウチを2つ取り出して戻ってきた。片方をイリヤに渡す。パウチには【人工血液・プレーン味】とポップな文字が印刷されていた。
リシェはパウチの封を切りながらイリヤの隣に座る。
「まあ、いいんじゃないかしら。そういうのは悪いことではないと思うわ」
「そういうのって?」
リシェがパウチの中身を一気に飲み干して答える。
「気になってるんでしょう。その家泉って人のこと」
「え」
イリヤは、ぼとりとパウチを落とすと、口をぱくぱくさせる。それを見たリシェは、もしかして初恋?とイリヤに尋ねるが、答えは聞くまでも無かった。
「ああ、初恋なのね。そう」
「はっきり言わないで!」
「そんなに恥ずかしがらなくてもいいじゃない」
リシェは隣でうつむくイリヤをじっと見て、昔のことを思い出す。
イリヤは昔から他人の前では感情を乱さず、落ち着いた振る舞いでいることが常だった。穏やかだが、意見を求められた時にはしっかりと自分の言葉で話すこともできる姿は、良家の令嬢としてふさわしいものだった。
その言動は吸血鬼たちの間でも評判になっていて、貴族社会でも有名だった。しかし、実際のところは箱入り娘のポーカーフェイスなのだ。
彼女をよく知る家族や幼馴染であるリシェの前では、イリヤは内気で繊細なひとりの女性でしかない。彼女のことを知らない吸血鬼たちはイリヤの穏やかさを良しとしているが、リシェにしてみれば、それはイリヤ自身の気の弱さであり、他人と親しくすることを遠ざけている原因に思えていた。
だが、そんなイリヤが珍しく人間の男性を気にしているらしい。これは大きな一歩と言えた。
リシェは、いまだに顔を背けているイリヤに声をかける。
「イリヤ。その家泉と言う人と、もっと仲良くなった方がいいんじゃないかしら」
「!」
イリヤが顔を上げた。何を言っているのか、と表情が物語っている。リシェは続けた。
「あなたは、異世界にいる時も他人との関わりが少ない方だったでしょう?今はせっかく人間が多く住む世界にいるんだから、もっと多くの人と知り合った方がいいわ。別に人間との恋愛は禁止じゃないでしょう」
「恋愛?!そもそも家泉さんとお付き合いしてすらいないんだけど」
「だから、これから仲良くなってお付き合いしてみたらいいじゃない」
「わ、わたしはともかく家泉さんにも相手を選ぶ権利はあるわ」
声がだんだん小さくなるイリヤは、今度は下を向いてしまう。リシェはイリヤの顔を覗き込んで優しくアドバイスする。
「そうね。だったら、まずは友達になってみたら?話しかけたり、一緒にご飯食べてみるのもいいと思うわ」
「そうね、友達ならなれるかも」
頷いたイリヤにリシェが微笑む。
「それにしても、いい人が職場にいてよかったわね」
「うん」
かなり気持ちが落ち着いてきたのか、イリヤも手にしていた人工血液をようやく口にした。ひとくち飲んで大きな瞳をぱちぱちさせるとパウチを見る。
「これ、美味しい。もしかしてリシェの会社で作った血液?」
「そうなの、本日発売の新商品よ。もしかしたらうちの営業があなたの病院に行くかもしれないから、その時はよろしくね」
「わかったわ。それにしてもリシェはいいなあ。わたしも研究職で一緒に製薬会社に入りたかった」
「残念なことに研究職の応募はあまり無いのよね。でも、今の職場の方がイリヤには合ってるわ」
「そう?」
「もちろん」
「じゃあ、もっとお仕事頑張ろうかな」
やる気が出てきたイリヤはパウチの中身を全部飲んでしまうと、今まで忘れていた鞄の存在を思い出し、中からスマートフォンを取り出す。1か月の勤務表は紙で病院から支給されているが、すぐに確認できるように自分のスマートフォンに勤務データを入れている。
しかし勤務表を見ようとしたイリヤは手にしたスマートフォンを見て違和感を覚えた。スマートフォンケース越しでもわかるほど、カメラ部分にヒビのようなものが入っているのだ。慌ててケースから取り出すと本体に大きく亀裂が入っていた。
「え?どうして?」
「あら。スマホにヒビが入ってるじゃない」
「どうしよう……まだ買って1年も経ってないのに」
「うっかり強く握って割れた可能性はあるわね」
「そういえば帰るときに無意識にぎゅっと掴んでたから、それで割れたのかもしれない」
イリヤは常日頃から力のコントロールに気を付けてはいるのだが、偶にこうして気が付くと物を壊してしまう時がある。これは吸血鬼が全てそういうわけではなく、イリヤが特別に力が強すぎる故の結果だった。
リシェが割れたスマートフォンを見ている横で、イリヤは溜息をついた。
「しかたないわ。これじゃ買い替えた方が良さそう。明日休みだし、お店に行って買ってくる」
「そういえば、先月新しい機種出たって雑誌に乗っていたわ。パワー型吸血鬼対応のスマートフォンみたいよ」
「そんなのあるの?絶対買うわ!」
リシェはパウチの封を切りながらイリヤの隣に座る。
「まあ、いいんじゃないかしら。そういうのは悪いことではないと思うわ」
「そういうのって?」
リシェがパウチの中身を一気に飲み干して答える。
「気になってるんでしょう。その家泉って人のこと」
「え」
イリヤは、ぼとりとパウチを落とすと、口をぱくぱくさせる。それを見たリシェは、もしかして初恋?とイリヤに尋ねるが、答えは聞くまでも無かった。
「ああ、初恋なのね。そう」
「はっきり言わないで!」
「そんなに恥ずかしがらなくてもいいじゃない」
リシェは隣でうつむくイリヤをじっと見て、昔のことを思い出す。
イリヤは昔から他人の前では感情を乱さず、落ち着いた振る舞いでいることが常だった。穏やかだが、意見を求められた時にはしっかりと自分の言葉で話すこともできる姿は、良家の令嬢としてふさわしいものだった。
その言動は吸血鬼たちの間でも評判になっていて、貴族社会でも有名だった。しかし、実際のところは箱入り娘のポーカーフェイスなのだ。
彼女をよく知る家族や幼馴染であるリシェの前では、イリヤは内気で繊細なひとりの女性でしかない。彼女のことを知らない吸血鬼たちはイリヤの穏やかさを良しとしているが、リシェにしてみれば、それはイリヤ自身の気の弱さであり、他人と親しくすることを遠ざけている原因に思えていた。
だが、そんなイリヤが珍しく人間の男性を気にしているらしい。これは大きな一歩と言えた。
リシェは、いまだに顔を背けているイリヤに声をかける。
「イリヤ。その家泉と言う人と、もっと仲良くなった方がいいんじゃないかしら」
「!」
イリヤが顔を上げた。何を言っているのか、と表情が物語っている。リシェは続けた。
「あなたは、異世界にいる時も他人との関わりが少ない方だったでしょう?今はせっかく人間が多く住む世界にいるんだから、もっと多くの人と知り合った方がいいわ。別に人間との恋愛は禁止じゃないでしょう」
「恋愛?!そもそも家泉さんとお付き合いしてすらいないんだけど」
「だから、これから仲良くなってお付き合いしてみたらいいじゃない」
「わ、わたしはともかく家泉さんにも相手を選ぶ権利はあるわ」
声がだんだん小さくなるイリヤは、今度は下を向いてしまう。リシェはイリヤの顔を覗き込んで優しくアドバイスする。
「そうね。だったら、まずは友達になってみたら?話しかけたり、一緒にご飯食べてみるのもいいと思うわ」
「そうね、友達ならなれるかも」
頷いたイリヤにリシェが微笑む。
「それにしても、いい人が職場にいてよかったわね」
「うん」
かなり気持ちが落ち着いてきたのか、イリヤも手にしていた人工血液をようやく口にした。ひとくち飲んで大きな瞳をぱちぱちさせるとパウチを見る。
「これ、美味しい。もしかしてリシェの会社で作った血液?」
「そうなの、本日発売の新商品よ。もしかしたらうちの営業があなたの病院に行くかもしれないから、その時はよろしくね」
「わかったわ。それにしてもリシェはいいなあ。わたしも研究職で一緒に製薬会社に入りたかった」
「残念なことに研究職の応募はあまり無いのよね。でも、今の職場の方がイリヤには合ってるわ」
「そう?」
「もちろん」
「じゃあ、もっとお仕事頑張ろうかな」
やる気が出てきたイリヤはパウチの中身を全部飲んでしまうと、今まで忘れていた鞄の存在を思い出し、中からスマートフォンを取り出す。1か月の勤務表は紙で病院から支給されているが、すぐに確認できるように自分のスマートフォンに勤務データを入れている。
しかし勤務表を見ようとしたイリヤは手にしたスマートフォンを見て違和感を覚えた。スマートフォンケース越しでもわかるほど、カメラ部分にヒビのようなものが入っているのだ。慌ててケースから取り出すと本体に大きく亀裂が入っていた。
「え?どうして?」
「あら。スマホにヒビが入ってるじゃない」
「どうしよう……まだ買って1年も経ってないのに」
「うっかり強く握って割れた可能性はあるわね」
「そういえば帰るときに無意識にぎゅっと掴んでたから、それで割れたのかもしれない」
イリヤは常日頃から力のコントロールに気を付けてはいるのだが、偶にこうして気が付くと物を壊してしまう時がある。これは吸血鬼が全てそういうわけではなく、イリヤが特別に力が強すぎる故の結果だった。
リシェが割れたスマートフォンを見ている横で、イリヤは溜息をついた。
「しかたないわ。これじゃ買い替えた方が良さそう。明日休みだし、お店に行って買ってくる」
「そういえば、先月新しい機種出たって雑誌に乗っていたわ。パワー型吸血鬼対応のスマートフォンみたいよ」
「そんなのあるの?絶対買うわ!」
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