吸血鬼は恋する5秒前 ー人間に恋した吸血鬼とその周囲についての中間報告ー

灯トモル

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16 すこしだけ真面目な話

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 思うように動けないイリヤを支えて家泉は、ジュリアーノと共に近くの公園に行った。街灯下に設置されたベンチにイリヤを座らせて自動販売機で飲み物を買う。そこで吸血鬼用の血液飲料を2本購入し、家泉自身はコーヒーを買った。
 ベンチにいるイリヤと傍に立つジュリアーノにそれぞれ血液飲料を渡すと、家泉はイリヤにまず声をかけた。

「イリヤさん、大丈夫?」
「はい、ありがとうございます。ただ、ちょっと話についていけなくて……」

 イリヤはうつむいたまま家泉から貰った飲み物を両手でそっと包む。心の中ではジュリアーノによって、家泉が好きなことを本人の目の前でバラされてしまい、混乱の極みだった。

(恥ずかしすぎて顔上げられない!なんてことしてくれたの叔父様!!)

 そんな姪の様子をジュリアーノは見ていたが、家泉を見て声をかけた。

「すまないが、少し離れたところで君と話がしたい」

 興奮が落ち着いたのか、話し方も先程のような荒々しさは無くなっている。それでもイリヤは不安に思ったらしく、ふらつきながらも立ち上がろうとした。しかし、ジュリアーノが彼女を止める。

「イリヤ、心配するようなことは決してしない。ただ、彼と話をしたいだけだ」
「叔父様、でも」
「大丈夫。おれのことは心配しないで、待ってて」
「はい……うん……待ってる」

 ベンチを離れて公園の端まで2人は歩く。そしてが滑り台が見えてきたところで立ち止まった。ジュリアーノが飲み物の蓋を開け、ごくりと一口飲んだ。

「君は、こうして躊躇いも無く血液飲料を買って渡してくれた。吸血鬼への態度も自然だし、我々に対する畏怖の感情はあまり無いようだね」
「確かにあなた達は人間と違うところもありますが、おれとしては、ただそれだけだと思っています。イリヤさんと働くようになってからは、特にそう考えるようになりました」
「話を聞いている限り、君はイリヤをとても気に入っているようだ。やはり好きなのかね?」
「……おれは恋愛とか、そういうのしたことないのでピンときてませんけど、そうなんだと思います」
「君は正直だな」

 家泉の言葉を聞いてまた怒り出すのかと思ったが、意外にもジュリアーノは笑みを浮かべただけだった。だが、その微笑は悲しみに近い色をにじませている。
 彼は家泉の顔を見て、それから滑り台を眺めた。整った横顔から言葉が紡がれる。

「さきほどイリヤと君を見かけて、感情的になったことを詫びよう」
「いえ、そんな」
「姪の好きな相手が人間だという事実に、どうにも冷静になれなくてね」
「やっぱり良くないことなんですか?」
「良し悪しではない。吸血鬼と人間との恋愛は思っている以上に難しいのだよ。現に私も随分昔に人間の恋人がいたことがある。もちろん、ここに来る前の異世界ふるさとでの話だ」
「!」

 意外な話に家泉は驚いたが、ジュリアーノは構わず話を進める。

「恋人でいられたのは数十年の間だったが、とても幸せだった。だが人間にとっては長い歳月であっても、私には短くてね。別れは辛かった」
「その方は亡くなられたんですか?」
「そうだ。年を取って、人間として死んだよ」

 話を聞いている家泉の方が胸が痛くなるような声の響きだった。そして、話の内容は今の家泉自身とイリヤにも重なる。ジュリアーノの恋の終わり方に、思わず家泉は尋ねずにはいられない。

「一緒に生きられるような何かやり方はなかったんですか。例えば、おれ達の世界の吸血鬼の話には、人間を眷属にするものがありますけど」
「眷属ね……私達にもできないことではない。やろうと思えばできた」
「それなら」
「眷属は対等ではないのだよ」
「だとしても、相手の人は死なずに済んだのでは」
「私達は、互いが対等であることを望んだ。異世界において人間は吸血鬼の眷属になると、長く生きて共に過ごすことができる。だが、絶対的な主従関係になってしまう。それでは恋人とは言えない」
「そんな……」
「相手は人間のままでいることを選んだ。私もそれを尊重した。さみしいと思うことはあっても後悔はしていない」

 しかし、とジュリアーノは家泉の方を見た。

「あくまでも、これは私の話であって、イリヤと君のことではない。君達はどうするかよく話し合いをしたまえ」

 家泉が返事をしようとすると、ジュリアーノはその場をひらりと離れた。

「では、私の話はこれで終わりだ。そろそろ帰るとしよう。今話したことはイリヤには内緒だ。あの子のことをよろしく頼むよ」
「待ってください!」

 一方的に話を終わらされる形となって家泉は呼び止める。しかしジュリアーノは更に遠くへ行ってしまう。

「ああ、それから飲み物をありがとう。いつか私からも何か御馳走しよう」

 家泉がジュリアーノと距離を縮めようとするより先に、彼は音も無く夜の暗闇に姿を消してしまった。
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