吸血鬼は恋する5秒前 ー人間に恋した吸血鬼とその周囲についての中間報告ー

灯トモル

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17 まずは、ゆっくり

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 ジュリアーノと家泉が話をしていた頃、ベンチに残ったイリヤは飲み物を手にしたまま、地面を見ていた。
 さっきよりは落ち着いてきたものの、自分の好きな人をバラされた事実は覆しようがなく、逃げ出したくてたまらない。しかし、2人が話をしている内容も気になる。
 結局、イリヤはベンチから一歩も動くことができずにいた。

「家泉さんと叔父様、何を話してるのかしら」

 初対面で出会った2人が長々と話すことなど、あまり無い筈だ。イリヤが目を凝らして彼らの様子を探ってみたが、何やら真面目に話をしているようだった。
 しばらくすると、ジュリアーノがその場を去っていき、残された家泉も引き返して歩いて来るのが見えた。話が終わった時のことを考えていなかったイリヤは自分がどうしていいかわからず焦る。

「どうしよう、何を話せばいいの?」

 焦るあまりイリヤは手にしていた飲み物を握りつぶしかけ、変形した缶を慌てて鞄に入れて隠す。
 その間にも家泉は彼女のところへ戻って来た。

「ただいま、イリヤさん」

 話しかけてきた家泉がいつも通りだったので、イリヤの肩の力も抜けた。自然と言葉が出てくる。

「叔父様との話は終わったの?」
「うん、まあ」
「そう」
「じゃあ、帰ろう。送っていくよ、――と言ってもイリヤさんが住んでるところ知らないけど」
「ここから歩いて10分のマンションよ。ほら、あの高い建物」
「ああ、あの建物か。行こう」

 公園を出てマンションに向かって歩き出す。家泉の隣を歩くイリヤは彼を見上げた。

「それで、叔父様とどんな話を?」
「うーん」

 内緒にしてくれ、と言われたからにはジュリアーノの過去の話をするわけにはいかない。家泉はちょっと考えてから、彼が別れ際に残した言葉を思い出した。

「イリヤさんとよく話し合いなさいって」
「何を?」
「付き合うことについて、かな?」
「つつつつつつきあう」
「イリヤさん、足が止まってるよ」
「う、うん。歩き、ます」

 思わず立ち止まってしまったイリヤは、家泉に促されて再び歩き始める。
 家泉はイリヤが歩くペースに合わせて歩く速度を落とした。そのまま数メートルは無言だったが、イリヤの方が意を決したように口を開いた。

「それで、さっき家泉さんは付き合うって言ったけど」
「うん。おれはイリヤさんのこと好きなんだと思う」
「そう、わたしのことが好き……好き……???!」

 イリヤが聞き返すと家泉が頷く。

「あ、おれはそもそも今まで恋愛したことないから、いまいち自分では実感が無いんだ。でも、イリヤさんと話していると楽しいし、前みたいにまた地下街を2人で歩きたい。これからもずっとそういう何気ないことをイリヤさんとしていきたいと思ってて……好きってそういうことだとおれは考えてるけど、ちがうのかな」
「えっと、いえ、はい……そうだと思います。わたしも同じ意味で……家泉さんが、好きです」

 
 答えた瞬間に、イリヤは顔から湯気が出るほど赤くなった。

(今わたし、流れで告白した?!告白してしまったわ!!)

 自分の心臓が耳元にあるのではないかというほどに、ドキドキと音が聞こえていてイリヤは耳をふさぎたくなる衝動を辛うじて堪えていた。
 対する家泉も、イリヤの顔を見ているうちに、恥ずかしくなってきたのか髪をぐしゃぐしゃとかき回して表情を隠す。
 いつの間にか2人とも足が完全に止まっていたが、何台かの車が彼らの横を通り過ぎていき、テールランプが見えなくなった頃、家泉がイリヤに話しかけた。

「とりあえず、帰ろうか」

 イリヤは頷くとまた家泉と肩を並べて歩き出す。数分もしないうちに彼女のマンションのエントランスが見えてきた。家泉が話しかける。

「それでまずは、お付き合いを始めるってことでいいかな」
「うん」
「じゃあ、これからもよろしく」

 彼の言葉に、イリヤも笑顔で応える。
 ばくばくとなる心臓の音はその間もずっと大きく彼女の耳に響いていた。
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