鐘論破

ふろんがす

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♱一章 「月輪に宵の明星」

捜査編

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 「ソー」

 「おはよ。朝だよ、起きて」


 返事はない。


 そりゃあ、そうだ。

 ソーは、死んでしまったのだから。


鷲宮「咲!」


 第一倉庫のドアが、勢いよく開いた。

 息が切れて、肩を大きく上下に動かしているカズが目に入る。


鷲宮「とりあえず、近くにいた人だけ呼んできた…!」

 「カズ、ありが____」

天使「蒼くんッ…!」


 芯のある声が響いた。

 マツリは、立ち竦む僕の横を通り過ぎ、真っ先にソーに駆け寄った。


天使「あぁ…、どうしてっ…」

天使「蒼くん…」


 マツリは、ソーを抱き寄せた。


 「マツリ…」


 いつも落ち着いている彼があんなに取り乱しているところを、初めて見た。

 マツリは、ソーと一番仲がよかったから…。

 動揺して、取り乱してしまうのもよくわかる。


 僕は、マツリを見ていられなくなって、下を向いた。


天使「蒼くん…、起きて。ねぇ」

天使「……もう、どうにもならないの?」

天使「……。」

天使「お願い。蒼くんを助けて…」

天使「モノウルフ__!!」



 ゴーンゴーン…ゴーンゴーン…


 ザザ、ザ____


モノウルフ「一階、第一倉庫にて、死体が発見されました!一定時間後に、学級裁判を開きまーす!」

モノウルフ「キミたち!精々がんばれ!」



 ブツッ



 やけに明るいモノウルフの声が、耳を刺した。


 「学級裁判…」
 

 コロシアイが、始まってしまった。

 こんなの、ずっと起きないって思ってた。

 でも現実は、そう甘くはなかった。


 ソーの為に、絶対に犯人を見つけなくちゃ。

 僕は、拳をぎゅっと握った。



 第一倉庫に、人が集まってきた。


一ノ瀬「これは夢、…これは夢!嫌だよっ、蒼くん…!」


 小さな悲鳴をあげ、耳を塞ぎ、


斑鳩「…な、何だよ…これ!!」

真園「……あ、ぁ…」


 経験したこともない恐怖に押し潰され、崩れ落ちる。

 誰もがソーの死に驚愕し、悼んだ。


 そんな中、顔をあげる者が一人。


天使「捜査、する…」

天使「いつまでも、下を向いてられない…」

 「マツリ…!」

天使「……犯人、絶対僕が見つけるから!」

天使「だから、…どうか、安らかに…」


 ソーを見つめるマツリの目から、大粒の涙がこぼれ落ちた。

 マツリの肩が、微かに震えている。


 「…そうだよ。僕たちも前を向かなくちゃ」


 過去は変えられない。

 いくら悔しんだって、もう戻れないから…。

 
 今、がんばろう。

 悲しくて辛いけど、ずっと下を向いていられない。


 がんばれ、みんな!

 がんばれ自分!



♱.in第一倉庫


 第一倉庫に残った僕とカズ、マツリは、まずソーの遺体を調べることにした。


鷲宮「死亡時刻は、20時頃。死因は失血死、だそうだ」


 モノスマホを見ながら、カズが言った。


 「へぇー、モノウルファイルにはそんなことまで書いてあるんだ」

天使「助かるね…」


 モノウルファイルは、ソーの死因、死亡時刻、死体発見場所などの情報がまとめられたものだ。

 モノウルフのアナウンスの後に、僕たちのスマホに送られてきた。


 「それで、ソーのことなんだけど…」


▼どこから調べよう…

1.頭
2.首
3.お腹
4.背中


▼1.頭

 特に目立った傷はない。


▼2.首

 切り傷がある。

 出血しているが、それほど深い傷ではないようだ。


▼3.お腹

 刺し傷がある。

 かなり出血していたようだ。


▼4.背中

 深い刺し傷が、複数見られる。

 お腹の傷と比べると、背中の方が深く、出血量も多い。


▼気になる点は?

1.頭
2.首
3.お腹
4.背中


▼4.背中


♱.clear!



天使「ねぇ、見て」

 「なあに?」


 マツリは、ソーをうつ伏せに寝かせて、彼の背中を指さした。


 痛々しい傷が目に入る。

 思わず目を背けてしまった。


鷲宮「お腹だけじゃなくて、背中まで…」

天使「そう。背中にも傷が見られる。しかも、【お腹の傷より、背中の傷の方が深いし多い】」

 「ほ、本当だ!出血量も、背中からの方が多いね。どうしてだろう…?」

天使「うーん…」

鷲宮「…そもそも、犯人はどうしてこんなに蒼くんを傷つけたんだ?恨みでもあったのかな…」


天使「それから、凶器については…」

鷲宮「刺し傷や切り傷が目立つから、刃物かな?」

天使「うん…」

 「刃物といったら、包丁かな?あとは、果物ナイフとか…」

天使「これだけ傷が深いのなら、しっかりした刃物でやった可能性がある…かも」

 「そうだね…」

鷲宮「しっかりした刃物といったら、サバイバルナイフとかだね!もちろん、包丁もそうだ」

天使「包丁は厨房にあるし、サバイバルナイフも武器庫で見たから十分有り得るよ…」

 「それじゃあ僕、厨房と武器庫を調べにいこうかな。二人はどうする?」

天使「僕は、…もう少しここを調べようかな」

鷲宮「そうだな…。僕も祠と一緒に、倉庫内全体をじっくり調べようかな!」

 「りょーかい!それじゃあ、またあとでね~」


 僕は二人に手を振ると、第一倉庫を後にした。



▼どこへ行く?

1.厨房
2.武器庫



♱.in厨房


 「えーっと。いちにーさんしー……」


 「……全部あるなぁ」

 「使われたような痕跡も、特に無し…だね!」


 厨房にある包丁の数は、足りている。

 特に変わったところもないし、凶器は包丁じゃないのかも?


 武器庫に行ってみよう!



♱.in武器庫


 「相変わらず不気味だなぁ…」

 「…あれっ。アリシア?」


 武器庫を調べているアリシアが、パッと振り返る。


アリシア「…あぁ、桜坂か」


 アリシアは、僕の顔を見て残念そうな表情を浮かべた。


 …そうですよ、桜坂ですよ。

 すみませんねっ!


 そんなアリシアの横を通り過ぎ、サバイバルナイフが置いてある場所へ移動する。


 昨日、武器庫を調べたときに見たサバイバルナイフの数は、全部で6本。

 えーっと…。


 「いちにーさんしー……」

 「……ご。」


 心臓が跳ねる。


 「…。」

 「ない」

 「1本、なくなってる!」


アリシア「おい。貴様はここで何をしている?」


 いつの間にか隣に並んでいたアリシアに睨まれる。

 僕は、慌てて口を開いた。


 「え、えーっと…あのね!犯人が使った凶器について、調べてたんだけど…」

 「【武器庫のサバイバルナイフが、1本だけなくなっている】んだよ!!」

アリシア「1本だけない?」

 「うん!」

アリシア「へー」

アリシア「じゃあ、【犯人は、武器庫にあったサバイバルナイフを使った】ってことか」

 「そうなるね…」


 アリシアの反応は、いたって普通だった。

 こんなときでも冷静なんだなぁ、アリシアは。


 凶器は決まった。

 【武器庫のサバイバルナイフ】だ。

 カズやマツリに伝えなくちゃ!


 武器庫を出て、カズに電話をかける。

 カズは、すぐに電話にでてくれた。


 「もしもしカズ!」

鷲宮『もしもし咲、どうした?』

 「聞いて!凶器がわかったよ!」

鷲宮『……!!』

鷲宮『…そっか』


鷲宮『実は今、僕たちも凶器がわかったところだったんだ』

 「え?」

 「な、なんで?」

鷲宮『第一倉庫で凶器が見つかった。棚の上に、血まみれの状態で放置されていたんだ』

 「…そう、なんだ」

鷲宮『凶器はサバイバルナイフであってるね?』

 「……うん」

 「武器庫を調べたら、サバイバルナイフが1本なくなってた。犯人は、それを使ってソーを殺したに違いないよ」

鷲宮『うん』

鷲宮『第一倉庫には、もっと何かが隠されているかもしれない。僕とマツリで、もう少し調べてみるよ』

 「わかった」

 「任せたよ、カズ!」



♱.小ホール


 小ホールには、リユウとイツキの姿があった。


雨宮「ねぇ、大丈夫?顔色悪いよ」

一之瀬「大丈夫っ。私、お姉さんだから大丈夫だよ!」

雨宮「…?」


 不思議な会話をしている。

 声をかけてみよう。


 「二人共、…大丈夫?」

一之瀬「さ、咲くん!」

一之瀬「あ、えっと、体調は…大丈夫だよ!咲くんこそ無理してない?」

 「無理してないよ、大丈夫~」


 「それで、二人は何してたの?」

雨宮「施設内全体を、一通り調べていたんだ。犯人の手がかりを見つけるためにね」

一之瀬「いっぱい歩いたから、ちょっと疲れちゃって…。休憩していたの」

 「そうだったんだね、お疲れ様!」

 「手がかりは、見つかった?」

一之瀬「…ううん、まだ何も。ごめんね」

雨宮「…。」

雨宮「少なすぎるんだ」

 「少なすぎる?」

雨宮「変わったところが見られない。何も発見がない」

雨宮「【犯人は相当、証拠隠滅が上手】なのかな?もしかしたら、【人を殺すことに慣れてたりして】」

 「え!?そ、そんなことってある…!?」

雨宮「あ。」

雨宮「それか、ただ単に【トリックなんか仕掛けず、勢い任せに殺した】とか!」

一之瀬「な、なるほど…」

 「後者であってほしいね…」


一之瀬「でも、私たちの中に【殺しが上手そうな人】っているかな?」

雨宮「いないね。殺しに関わる才能を持っている人さえもいないし…」

 「じゃあ、前者は違うね絶対違う!殺人が得意だっていう人なんかいないよ!」

雨宮「…どうかな?何か隠している人だって、きっといるはずだよ」

 「…。」

雨宮「まぁ、そこら辺まで考えるとややこしくなるから、今は後者の方で仮定しちゃっていいと思うよ」

 「わ、わかった」


 とりあえず、この手がかりの少なさから、この殺人は計画的に行われたものではなく、【犯人が勢い任せで行ったものである】という可能性が出てきた。

 犯人は、慌ててソーを殺したっていうことかぁ。

 でもどうして?

 犯人の心を焦らすような何かが、起きていたのかな?


 「リユウ、イツキ!ありがと!それじゃあ、僕はこれで____」

一之瀬「咲くん」


 小ホールから去ろうとする僕を、イツキがひきとめた。


 「ん?」

一之瀬「私、昨日の夜、見たんだ」

 「見た?何を?」

雨宮「…。」


 イツキの顔色が、みるみる悪くなっていく。


一之瀬「蒼くんのこと」

 「え!?」

雨宮「【殺される直前の蒼を見たかもしれない】ということを言いたいんだね?」

一之瀬「うん…」

 「そ、それについて!詳しく教えてくれるっ?」

一之瀬「いいよ」



一之瀬「自分のお部屋がすごく怖くてね、昨日の夜も休憩室に行ったの」

一之瀬「それでね、【休憩室に行こうと思って部屋から出たら、ちょうど蒼くんに会った】んだ。どこへ行くの?って聞いたら…」


一之瀬「【星を見に行くんだ、って言って】、教会の方へ歩いていっちゃったの」


 「星を見に行く?」

一之瀬「このことについては私もよくわからないから、もう話すことはできないけど…」

 「そっかぁ…」


 星を見にいく…。

 【この施設内に、外を見れるような場所】なんて、あったっけ?


雨宮「話は終わった?そろそろ僕たち、捜査を再開したいんだけど…」

 「…あ、ご、ごめん!もう大丈夫だよ」

一之瀬「何かあったら、いつでもおいでね。また協力するよ!」

 「うん、ありがと!」

雨宮「…。」


 そうして二人は、小ホールから姿を消した。


 「星を見に行く…、星を見に行く…?」



♱.in食堂


 食堂には、一人でのんびりとプリンを食べているキョーがいた。

 京は僕を見るなり、こちらに向かって手を振った。


 「こんな状況下で、よくプリンなんか食べれるね…」

楠木「お腹がすいたから」

 「ふふ、そっか。元気そうでよかった」

楠木「…。」


楠木「咲くん」

 「…?なあに?」

楠木「疲れてるでしょ」

 「え。そ、そうかな?」

楠木「顔に、疲れてるって書いてる」

 「えっ、あ、えっと」


 慌てて、両手で顔を隠した。

 そんなに僕、やつれた顔してる!?


楠木「咲くんは、一人で全部をやろうとしてる」


楠木「協力するよ」

楠木「一人より、二人の方が楽だし効率がいい」

楠木「…。」

楠木「だめかな」

 「えぇ!?え、あ、全然だめじゃない!えっと、嬉しいよありがとっ!」


 キョーはふっと笑うと、プリンの容器を捨てに席を立った。


 キョーには助けてもらってばかりだ。

 申し訳ないなぁ。

 けど、キョーがいるのはなんか心強い!


楠木「よし、行こう」

 「うん!………え、どこに!?」

楠木「日彩くんのスマホ探し」

 「ソーのスマホ探しっ!?」


 キョーは、すたすたと食堂を出て行ってしまった。


 「えっ、ちょ、待って…っ!」


 慌ててキョーを追う。




♱.廊下


 「ねー、キョー!何でソーのスマホ探しなんか…」

楠木「あのファイル、今開けよう。すごく大事な情報が入ってる」

 「うん、それはわかってるよ!でも、昨日の時点で開かなかったんだよ!?」

楠木「うん」

 「なのに、また試すの!?」


 キョーが、急に足を止めた。


 「わわっ、」

楠木「あのファイルが開かなかったのは、ある条件を満たしていなかったから」

 「え?」

楠木「私の予想だけど」


 キョーは再び歩き出した。

 遅れないように、駆け足でついていく。


 「ねー、どういうこと?全然わかんない!」

楠木「その言葉の通りだよ」

 「へ?」

楠木「ある条件が満たされていなかったから、開かないんだ」

 「…ある条件?」


 「………まさか」

 「ファイルを開けれる条件というものが、【ソーの死】ってこと?」

楠木「私は、そう考えているよ」

楠木「だから、今すぐ日彩くんのスマホがほしいんだ」


 なるほど。

 そこまで考えていなかった。

 キョーは賢いなぁ。

 寝癖いっぱいついてるけど。


 そうして僕たちは、ソーのスマホ探しを始めたわけだけど____。



♱.in日彩蒼の部屋


 「ない!」

 「ソーのスマホ!どこにもないよ!」

楠木「…困ったね」

 「ここにあると思ってたんだけどな…」


 ソーの部屋を、ぐるりと見渡す。


 だいぶ散らかしてしまったな。

 綺麗に片付けないと。


楠木「うーん」

楠木「まだポケットに入ってるのかな…」

 「…それだ。もうそれしかない!」

 「他の誰かが、ソーのスマホを持っているわけがないし!」


 「…。」

 「倉庫、行く?」

楠木「…。」


 行きたくない…よね、わかってる。

 ソーのあんな姿、何度も見たくないよね。


 「僕が調べてくるよ。キョーは、別の場所を調べてt__」

楠木「行く」

 「え行くの!?」


楠木「こんなところで、立ち止まってられないから」

 「キョーは、…強いね」

 「よし!一緒に第一倉庫へ行こう!」

楠木「行こう!」



♱.in第一倉庫


 第一倉庫には、カズとマツリの姿はなく、レイとチカがいた。

 チカが熱心に捜査をしている中、レイは地面に座りうずくまっていた。


真園「…あ。咲お兄ちゃんと、京お姉ちゃん…」

 「レイ、大丈夫?随分と具合が悪そうだけど」

相馬「この子、さっきからずっとこんな感じだよ。休みなって言ってるのに、無理して捜査を続けてて…」


 チカが、困ったように眉を下げた。


 「レイ、休もう?捜査も大事だけど、自分の体が一番大事だよ」

真園「まだがんばれるもん…」

相馬「後でにしよう?学級裁判まで、まだまだ時間あるんだから」

 「ね?」と言って、チカはレイの背中をさすった。


真園「いやだーあ!」

真園「ボクはただ、蒼くんのために……!」

楠木「…。」


楠木「だめ。休むの」


 キョーが、レイをじっと見つめて言った。

 その目は、…うん。結構鋭い。


楠木「よいしょっ」

真園「えっ、なに!?京お姉ちゃっ」


 キョーが、レイをひょいと持ち上げた。


 「え!?」

相馬「…。」


 まぁ、レイは軽い方だと思うけど、一応男の子だし…。

 あんなに軽々と持ち上げれるキョーの力に驚いた。


楠木「ねぇ、真園さん。一緒にジュース飲みに行こうか。…あ、そうだ。木霊さんも呼ぼう。真園さんと仲良かったよね」

真園「京お姉ちゃん、離してよー!」

真園「あ、でも叶音ちゃんとジュース飲みたーい!」

 「あ、単純だこの子。」

楠木「よし決定。じゃあこのまま行くよ~」

真園「え、このまま!?ボ、ボクずっと抱えられたまま!?」

相馬「気をつけていってらっしゃーい」


 「離してよ~」というレイの声を最後に、二人は倉庫から出ていってしまった。


相馬「騒がしい二人だね」

 「そ、そうだねっ」


 静かになった倉庫には、重い空気が流れた。

 相変わらず、目の前のソーは動かない。

 ……当たり前。


 キョーはいなくなっちゃったけど、僕一人でも調べることはできる。

 僕は、ソーの死体に近づいた。


 「………」

 「…ないなぁ」


 ソーのポケットは空だった。

 じゃあソーのスマホは、一体どこへいったの?

 「うーん…」

相馬「ねぇ、何を調べてるの?」

 「ソーのスマホを探してるんだけど…」

相馬「スマホ?…ふーん」

相馬「で、それはあったの?」

 「ううん。ソーのポケットには入ってなかったし、彼の部屋にもなかった」

 「モノスマホの持ち主が亡くなったら、回収されちゃうのかな」

相馬「…。」

相馬「そんなことはないと思うけど。ほら、例えば…」

相馬「誰かが隠した、とか」

 「え?」


 隠した?


相馬「わかんないけどね。…やっぱ死んだら回収されるんじゃない?」

 「うーん…」


相馬「…。」

相馬「ねぇ、それよりキミさぁ」

 「ん?なに?」


 チカの瞳が、怪しく光る。


相馬「もっと上手くやりなよ」


相馬「かっこ悪いだけだよ」

 「チカ?」

 「な、何のこと…?」

相馬「…。」

相馬「靴紐、ほどけてるよ」

 「えっ」


 自分の足元に目をやる。

 右足の靴紐がほどけていた。


 「あ、ほんとだ」


 その場にしゃがみこみ、縛りなおす。

 綺麗なちょうちょ結びができたところで顔を上げると____。


 チカはもう、いなくなっていた。


 「あれ…」

 「チカ?」


 もやもやした気持ちを抱えながら倉庫を出ると、小ホールにいるキョーたちが目に入った。

 あ、あそこにいたんだ。

 キョーにスマホのこと、教えなくちゃ!


 「キョー!」


 手を振りながら、駆けだした。



♱in.小ホール


真園「それでね、一番優しいハムスターくんが……って、あれ?咲お兄ちゃん!」

 「あ、やっほーみんな!三人とも、小ホールにいたんだね」

真園「あのねあのね!さっきね、京お姉ちゃんがジュースを買ってくれたよ!」

 「そうなんだ!よかったね~、レイ!」


 レイの頭をぽんぽんと撫でる。

 可愛いな。本当に男の子なのかな……?


楠木「たいぶ顔色も戻ってきたし、気持ちも落ち着いたみたいだよ、真園さん」

楠木「…木霊さんのおかげかな」

 「そっか。ありがとね、カノ____」

 「……。」


 カノンが青ざめている。

 ソーの死体を見たときと同じように。

 でも今は冷や汗までかいて、肩を震わせている。

 どうしたんだろう。


 カノンは僕と目を合わせようとしない。


真園「叶音ちゃん?…どうしたの?」

楠木「木霊さん、体調悪いのかい?」


 キョーがカノンの背中をさする。

 カノンはゆっくりと顔を上げ、僕を見つめた。

 …いや、違う。

 僕のことを、睨みつけた。


木霊「真園くんや楠木さんに、近づかないでください…」

楠木「…!!」

真園「か、のん…ちゃん」


木霊「私は、知ってますから……」


木霊「全部、あなたがやったんでしょう?」

 「……っ!!」

木霊「昨日の夜のこと、絶対に忘れませんから」

真園「あっ、叶音ちゃん!待って!」


 レイは、そそくさと去っていくカノンを追う。

 そして、二人は消えていった。


楠木「行っちゃったね」

 「…。」

楠木「何かあったの?木霊さんと」


 このときの僕は、頭が真っ白で。

 キョーが僕に何か言っていることはわかった、でも。

 頭に入ってこなかった。


 心のどこかで、焦っている自分がいた。

 昨夜の件、そして今朝のソーの死。

 武器庫の周りでうろうろしていた僕が疑われてもしかたない。

 どうしてこんなことに…っ!

 もし、僕の噂が広まってしまったら……。

 もうみんなに合わせる顔がないなぁ。


 いてもいられなくなって、キョーをその場に残して小ホールを去ってしまった。



♱in.ディスペア大聖堂


 気づいたときにはもう、学級裁判だった。

 あの後からずっと、何も調べていない。

 なにをやっているんだ、僕は。


 ソーのために!とか言っておいて、結局自分は何もしてないじゃん。

 それってただの、口だけの実行者じゃないか。

 いや、そもそもそれは実行者といえるのか?


 「はぁ…」


 ドクドクと高鳴る心臓がはち切れそうだ。


 もうすぐ、裁判。

 このまま僕は、みんなに疑われて____。


 …せめて、反論できるような何かを手に入れなくちゃ。

 このまま追い込まれてクロ決定になんかされたら、みんなも危ない。

 だって僕、犯人じゃないから。


 行こう。何が見つかるかわからないけど。

 学級裁判まであと少し。

 まだいける、大丈夫!


 椅子から立ち上がり、教会から出ようとしたその時。


椎名「馬鹿馬鹿しい」


 後ろから、ヒカリの声?

 僕は振り返った。


椎名「最初は、あんなにみんなで脱出する気満々だったのに。結局は自分優先」

椎名「何が協力よ。…口だけじゃん」


 少し遠くから僕を見つめるヒカリがいた。

 彼女の表情は、…薄暗くてよく見えない。


 「ヒカリ…」

 「ぼ、僕は」

椎名「怖かったんでしょ?」

椎名「…。」

 「…。」

椎名「…キミのこと、信じたかったのに」


 ヒカリの声が、どこか震えているように感じた。

 僕は、耳を塞ぐようにして教会を出た。



♱.エレベーター前


モノウルフ「みんなお待ちかね!学級裁判のお時間ですよ~♪」

モノウルフ「全員いるかな?」


モノウルフ「………え、みんな無視!?」

モノウルフ「もっと元気だしてこーよ!これから楽しい楽しい学級裁判だっていうのにー!」


モノウルフ「えーっと、いちにーさんしーごーろく………」

鷲宮「咲がいない!」

鷲宮「桜坂咲がいないよ、モノウルフ」

モノウルフ「えー!咲くん、遅刻!?」


 ガチャッ!


 「ご、ごめんなさい!遅れました…」


 よかった、間に合った…。

 乱れた呼吸を整える。


モノウルフ「ちょっとー!咲くん遅れないでよー!」


 モノウルフは、…怒ってないね。

 安心だ。


モノウルフ「……よし、全員いるね!」

モノウルフ「これから、このエレベーターに乗って裁判場へ行きます!さぁ、みんな乗って~♪」


 大きな大きなエレベーターのドアが開く。

 結構、中は広いんだなぁ。

 ちゃんと全員乗れそうだ。

 でも、かなり不気味だな…。

 誰も乗りたがっていなかった。


モノウルフ「みんな乗らないの?ほら、はやく乗ってよ」


 モノウルフがレイの手を引っ張って、エレベーターの中に入れた。


真園「わっ、ちょっと、やだよ!」

道明寺「モノウルフ!怜に何をするんじゃ!」


 ぷんぷんと怒っているレンヤの横を通り過ぎ、一緒にエレベーターに乗り込む者が一人。


木霊「…。」

真園「叶音ちゃん!だめだよ、おりて!」

木霊「いつまでもこうしていられません。はやく行きましょう」


 冷たいカノンの声が、みんなの背中をグッと押した。

 足が、勝手に進む。

 こうして僕たちは、ついにエレベーターに乗ってしまったのであった。


 ガクン、という大きな揺れの後、エレベーターが降下しはじめた。

 低く、重く、エレベーターが唸る。

 僕たちの不安を煽るように____。



モノウルフ「お待たせしました♪裁判場ですよ~」



 チン



 エレベーターのドアが開いた。


 「…っ!!」


 全身に鳥肌が立った。そして、冷や汗が吹き出る。

 勝手に、体がガクガクと震えだした。

 嫌がっている。

 体が、心が、危険だと言っている。

 裁判場に足を踏み入れることを、全身が拒んだ。


 聞こえる。

 怒り、憎しみ、悲しみの声が。

 ここで、何人も亡くなっているのだろうか。

 霊気が、背中を撫でる。


 裁判場は、とても綺麗でお城みたいだった。

 だけど少し暗くて、気味が悪い。

 恐怖心が揺さぶられる。

 裁判場の中心には、一人一人の名前が書かれた机があった。

 その机には、萎れた赤い薔薇が絡みついている。

 僕たちは、自分の机の前に立った。

 鼓動が速くなる。

 暗闇の中でギラギラとヒカるシャンデリアが、眩しく感じる。

 それくらい、視覚的にも精神的にも苦しい裁判場だった。


 はじまる。

 ここで、全てが決まるんだ。


モノウルフ「さてここでもう一度、学級裁判のルールを確認しましょうか!」
 

モノウルフ「殺人が起きたら、捜査!そして、裁判!これは当たり前だね♪」

モノウルフ「学級裁判では、被害者シロを殺した犯人クロを、話し合いで見つけてもらいます!正しいクロを指摘できれば、そのクロにはオシオキを受けてもらいます♪でも!正しいクロを指摘できなかった場合は、クロはこの施設から脱出!その他全員は、オシオキになりま~す!」

モノウルフ「さぁみんな、準備はいいかな?」


モノウルフ「学級裁判、開廷~!」


 カンカンッ



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