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♱一章 「月輪に宵の明星」
裁判編
しおりを挟む「ってことで、始まった…けど…」
斑鳩「学級裁判なんて初めてだから、何から話しあえばいいのかわかんねーよ!」
落ち着きがない様子のヒビキが、バンと机を叩いた。
机、壊れてないよね?大丈夫かな。
いやいやいや!
今はこんなこと心配している場合じゃないって!
斑鳩「もー、どうすんだよ!怜!」
真園「…え、ボク!?え、えーっとねー…」
真園「とりあえず、自分たちが探索して発見したものとか、気づいたこととかについて話しあってみる?」
道明寺「賛成じゃ~!」
鷲宮「仲間を疑うのには抵抗があるけど、そうでもしないと犯人を見つけることができないからな…」
楠木「がんばろう。最悪な結末を迎えることにならないように…」
全員が強く頷いた。
「…。」
僕は、咄嗟に下を向いた。
"疑う"か…。
ますます自信がなくなってきた。
本当に僕は、みんなを正しい方向へ導くことができるかな。
碧井「そうねぇ…」
碧井「まずは、日彩さんの遺体の状況について話しましょう」
一之瀬「あ、あの蒼くんの遺体を…。よく調べた人は、います、か?」
イツキが、震える声で尋ねた。
天使「調べたよ。桜坂さんと鷲宮さんの三人で」
雨宮「それについて、詳しく話してくれるかな?」
天使「わかった…」
マツリは、先程までの記憶を辿るようにして、丁寧に話し始めた。
天使「蒼の遺体は、見ての通り損傷が激しかった…よね」
天使「その中でも、特に傷が目立っていた場所は…」
▼特に傷が目立っている場所はどこ?
1.頭
2.首
3.お腹
▼3.お腹
♱.clear!
「お腹、だね」
天使「うん」
天使「お腹には大きな切り傷があるし、出血もひどかった…みたい…」
アリシア「じゃあ日彩は、【お腹をザックり刺されて死んだ】ということで決定だな」
お腹を、ザックリ、か。
…ちょっと待って。
ザックりやられた部分は、お腹だけじゃない。
「待って!」
アリシア「なんだ?桜坂」
「大きな傷は、お腹以外の場所にもあったよ。パッと見ただけでは、気づかないようなところに」
▼お腹以外にも大きな傷が…。それはどこにあった?
1.手のひら
2.背中
3.足
▼2.背中
♱.clear!
鷲宮「背中、だね…」
道明寺「背中にも傷が!?」
木霊「はぁ…。痛々しい…」
「ソーの遺体をうつ伏せにしたときに、背中の傷を見つけたんだ」
天使「しかも、【お腹の傷より深く】て…」
椎名「お腹の傷より深い?」
鷲宮「それに加えて傷の数も多いし、出血も酷いんだ…」
斑鳩「蒼のやつ、ボロボロじゃねーか……」
楠木「どうして犯人は、日彩くんを必要以上に傷つけたんだろうね」
犯人は、どうしてこんな酷いことを…。
"犯人の目的"は、一体何なんだろう。
雨宮「【快楽殺人】…?」
真園「えぇ!?」
雨宮「だってほら、日彩の遺体があんなに傷ついているんだよ?…人を殺すことが好きな奴じゃないと、あんな派手なことはしないはずだ」
相馬「たしかに…」
一之瀬「じゃあ、自然と犯人の動機もわかってくるよね!」
「ただ単に、人を殺したかったから…?」
碧井「普通に考えるとそうなるわね」
真園「えー!犯人、酷いよっ!そんな目的で、蒼くんを……」
弓槻「でも、快楽殺人以外のことも…考えられるよね?」
道明寺「快楽殺人以外のこと?」
弓槻「うん。例えば、蒼くんが本当に死んだのかわからなくて、不安になってたくさん刺した…とか」
鷲宮「な、なるほど…!」
弓槻「ここにいるみんな、殺人なんてしたことがないでしょう?中途半端に刺して、ちゃんと殺せていなかったら…って考えると、ね…?」
「そっか。だから犯人は、ソーを必要以上に傷つけたんだ」
アリシア「ふーん。快楽殺人とは違って、随分と現実的な話だな」
アリシアが、リユウをちらりと横目で見る。
リユウはアリシアの挑発に対して無反応だ。
弓槻「まぁこれもただの推測だし、快楽殺人だっていう可能性もあるんだから、まだ決めつけない方がいいと思けど」
レンカが愉快そうに、ニッコリ笑った。
相馬「じゃあ…もし蓮華のいうことが正しいとしたら、犯人の動機はどうなるの?」
一之瀬「えーっと、えーっと…」
椎名「わからないよ、そんなこと」
「うん…。そこまでは、まだ…」
話の流れが止まった。
あぁ、スムーズにいってたのに…。
どうしよう、何を話す?
「えーっと……」
斑鳩「あー、つんだな」
木霊「つみましたね」
「うん」
楠木「じゃあ、一旦この話から離れよっか」
「そ、そうしようっ」
碧井「他にない?日彩さんの遺体について、何かわかったことは」
鷲宮「背中の傷以外に、これといったものはなかったけど…。あ、強いていうなら、【遺体に刺し傷以外何もなかった】っていうことだけかな~」
真園「え!?…ちょっと、和お兄ちゃん!それ、かなり重要な情報だよ!」
鷲宮「そ、そうか?」
楠木「刺し傷以外、本当に何もなかったのかい?…ほら、犯人と争ったときにできた傷とか」
鷲宮「なーんにもなし、だな…」
たしかに、ソーの体には刺し傷しかなかった。
これは、僕もマツリも知っていることだ。
道明寺「えーっと、それは…どういうことなんじゃ?」
【刺し傷以外何もない】
これからわかることって、あるかな…?
僕の正面で、何か悩んでいる様子のレイが口を開いた。
真園「刺し傷以外、何もない。…つまり、【蒼くんは犯人と争っていない】っていうことになるんだよ!普通、遺体には争ったときの傷が残るはずだから」
斑鳩「なんだって!?」
真園「ねーねー!倉庫の中の様子はどうだった?」
天使「そういえば、第一倉庫の中…荒れてなかった」
鷲宮「たしかに、昨日倉庫を見たときと中は何も変わっていなかった。そうだよな、咲!」
僕は、深く頷いた。
雨宮「確定だね」
一之瀬「す、すごい…。推理小説みたいだね!」
真園「えへへ、…そうだね!」
椎名「ボクは違うと思う」
「…!」
「ヒ、ヒカリ?」
椎名「そんなこと、ありえないって言ってるの」
碧井「?」
碧井「どうして?ひかりちゃん」
ヒカリは一度マドカのことを睨みつけると、再び前を向いた。
椎名「だいたい、襲われたら抵抗するはずだよね?……死にたくないんだし」
椎名「日彩くんが犯人に無抵抗なわけないよ」
「…。」
そう言われてみればそうだ。
じゃあ、何だっていうの?
あの第一倉庫で、何があったの?
…うー、わからない!
やっぱり、素人の僕たちにはいきなり犯人探しなんてできないよ!
雨宮「何で抵抗しなかったんだろうね?もしかして日彩は、【死ぬことを望んでいた】んじゃないかな」
「え?」
「え。そ、そんなことって…」
天使「…。」
天使「それは絶対にない…!」
真っ直ぐ鋭いマツリの声が、その場の空気を凍らせた。
一瞬、時が止まったのかと思った。
張り詰めた空気の中で、マツリは続ける。
天使「蒼くんは、死ぬことを望んでなんかいなかった!」
天使「……昨日、蒼くんにこんなことを言われたんだ…」
天使「ここから出たら、一緒に天体観測をしよう…って」
マツリの声が、震えている。
…辛い。
天使「星が一番綺麗に見える場所も教えるし、大きくて立派な望遠鏡も持っていくから……って、すごいはりきってた」
天使「初めて見た。蒼くんの、あんなに明るい表情を…」
雨宮「…。」
天使「だから…」
天使「死にたいなんて、思ってない。【蒼くんは、生きたかった】んだよ…」
なんて無慈悲な…。
どうしてソーが、死ななければならなかったんだろう。
外に出たときのことを夢見た矢先に、こんな…。
…僕は、犯人を許せない。
絶対に見つけ出す!
やるせない気持ちが抑えきれず、思わず顔が歪む。
アリシア「じゃあ、何だっていうんだ?結局あいつはどうやって死んだ?」
道明寺「わ、わ、…わからないのじゃ…」
椎名「倉庫の中にも争った形跡がないってことは、【第一倉庫以外の場所で殺された】んじゃない?」
碧井「そっか…!」
木霊「有り得ますね…」
「…。」
「いや、それはないと思うよ」
椎名「…。」
相馬「どうして?」
「第一倉庫のすぐ近くに、小ホールや食堂があるんだ。別の場所でソーを殺したとしても、第一倉庫に運ぶとき、他人に目撃されやすい」
一之瀬「そう言われてみればそうかも!」
弓槻「じゃあやっぱり、蒼くんは第一倉庫で…」
「うん…」
道明寺「もー、日彩はどうやって殺されたんじゃー!」
背中の深い傷。
荒れていない倉庫と、刺し傷以外なにもない遺体…。
ん?背中?
背中に、深い傷?
もしかして、ソーは__!!!
▼日彩蒼はどうなった?
1.殴られて気絶した
2.第一倉庫以外で殺された
3.背後から襲われた
▼3.背後から襲われた
♱.clear!
「わかった、かも。ソーが第一倉庫で、何をされたのか!」
鷲宮「えっ、この少ない情報で何かわかったのか!?」
「うん!」
楠木「教えてくれるかい?咲くん」
みんなの視線が集まる。
「ソーは犯人に、【背後から襲われたんだ】」
斑鳩「は!?後ろから!?」
「背中の傷が一番深かったっていう話は、したよね。それに加えて、ソーが抵抗した跡がないとなると…」
碧井「【背後から一突きでやられた】…ってことかしら?」
「うん」
天使「それは、筋が通っているね…」
雨宮「そうだね~」
アリシア「…。」
アリシア「ふーん」
アリシアが、納得していない様子で腕を組む。
アリシア「だから何?」
「え…」
アリシア「背後から襲われたってのがわかったところで、何なんだ?結局犯人の目星もついていないじゃないか」
「…そ、うだね」
たしかに、これがわかったところで何にもならない。
真相に近づいたのかさえ、わからない!
アリシア「こんなんで、本当に犯人を見つけられるのか?」
楠木「見つけられるよ」
「……!」
アリシア「…。」
楠木「今の話で、もう一つわかったことがあるんだ」
キョーが、僕を見て微笑んだ。
「安心して」とでも言っているかのように見えた。
相馬「わかったことって、何?」
楠木「【この殺人は、誰にでもできる】ということだよ」
斑鳩「…ん?え?」
雨宮「…なるほどね」
楠木「私、最初は【この殺人は男の子にしかできない】って思っていたんだ。物理的なものだったから」
碧井「たしかに、女の子一人で男の子を殺すことは難しいわね…」
楠木「うん…」
楠木「でも犯人は、背後から突然襲った。だから日彩くんは、抵抗する間もなく動けなくなってしまった」
楠木「このことから、【犯人は女の子である可能性】も出てきたんだ」
「な、なるほど」
納得。大納得。
なるほど、そういうことか。
僕はまだ、何もわかっていないんだなあ。
考えが甘い。
もっとよく考えて、頭をフル回転させないと!
「それじゃあキョーは、この中の全員を疑ってるってこと?」
楠木「…うん。候補から外れていた女の子たちの中にも、犯人がいるかもしれないと思っているよ」
道明寺「全員が怪しいとなると、犯人を絞るのも大変じゃな~。……あ、そういえば、まだ凶器について話していないな。また何かがわかるかもしれん!」
「そうだね!じゃあ次は、凶器について話し合おっか!」
真園「蒼くんの遺体は、刺し傷でいっぱいだったよね…」
木霊「じゃあ凶器は刃物、ですよね?」
一之瀬「そうだね!」
斑鳩「誰か、血まみれの刃物見つけた奴いねーかー?」
カズとマツリが、おずおずと手をあげる。
斑鳩「いた!……って、またお前らかよ。はやく話聞かせろ!」
マツリが、コクリと頷いた。
天使「凶器もやっぱり、第一倉庫に隠されてあったよ…。それ以外に倉庫で見つかったものは、【血のついたカッパ】くらいかな…」
斑鳩「第一倉庫に何でもあんじゃねーか」
碧井「血のついたカッパは、きっと返り血が衣服につくのを防止するためよね」
天使「多分、そうだと思う…。ゴミ箱の中に捨てられていたし…」
「血のついたカッパは、これでよしとして…。犯人は、どうして凶器を倉庫に置いていったんだろう」
真園「どうしてだろうね?ボクも気になる!」
弓槻「普通は持ち帰ったり、洗って元の場所に戻したりすると思うんだけどね…」
鷲宮「それも、あのサバイバルナイフ、なーんか【不自然な点が多い】気がするんだよなぁ…」
「不自然な点?」
鷲宮「うん。【血のつき方が変】じゃないかなって思って…。まぁ、きっと気のせいだと思うけどな!」
木霊「…そう。他には?」
鷲宮「なんか、堂々とナイフが置いてあったっていうか……まぁ一応隠されてはいたんだけど、隠す気ないでしょ~っていう所にあって…」
楠木「どこにあったの?」
鷲宮「棚の上…だよ」
一之瀬「え、棚の上!?」
鷲宮「棚の上っていっても、よく調べないとわからないくらい高い所に置いてあったから…」
アリシア「もっと誰にも見つからないような所に隠せよってなw」
「それは、男子なら余裕で届くくらいの高さ?」
鷲宮「うん。男子なら、手を伸ばせばすぐ届くよ。…あ、でも」
鷲宮「【女の子でも届く人はいる】と思う。グルースさんとかひかりちゃんとか…唯月ちゃんあたりかな」
碧井「それじゃあ背の低い人は、犯人の候補から外れるわね」
「そう…、だね!倉庫に脚立なんてなかったし!」
真園「やったー!背が低くてよかったー!」
真園「…。」
真園「…本当はもっと欲しかったけどねっ」
相馬「話を戻そっか。えっと、鷲宮さんと天使さんが見つけた刃物は、どんなものだったの?」
天使「【サバイバルナイフ】だよ」
弓槻「サバイバルナイフ…」
道明寺「サバイバルナイフは、前に武器庫を探索したときに見かけたぞ!」
一之瀬「じ、じゃあ犯人は、【武器庫のサバイバルナイフを使った】のかな!?」
椎名「そうじゃない?武器庫以外でサバイバルナイフなんて手に入らないだろうし」
「うん。僕もそう思うよ!だって…」
「【武器庫のサバイバルナイフが一本減っていた】からね」
真園「え、そうだったの?」
アリシア「あー、それならアリシアも見たぞ。桜坂の言う通り、一本足りなかった」
楠木「じゃあ、決まりかな。【凶器は武器庫のサバイバルナイフ】で」
雨宮「…となれば、犯人がいつ凶器を手に入れたのかが気になるね」
雨宮「犯人らしき人物が、サバイバルナイフを持ち出すところを見た~とか、武器庫の周りをうろついていた怪しい人を見たよ~とか…。そういう目撃情報はあるかな?」
「…!」
冷や汗が頬を伝う。
この流れ、…まずいかも。
暗い表情をしたカノンが、ヒカリと目を合わせる。
ヒカリは、こくりと頷いた。
木霊「あの、ちょっといいですか?」
斑鳩「お?どうした、叶音。犯人でも見たのか!?」
木霊「…。」
木霊「はい。犯人を見ました」
真園、道明寺「えぇー!?」
碧井「そ、それはどういうことなの!?話してくれる?木霊さんっ」
木霊「わかりました…」
カノンは昨夜のことを思い出しながら、ぽつりぽつりと話し始めた。
木霊「昨日の夜、私は椎名さんと一緒にお風呂にいく約束をしていたんです」
雨宮「ふーん。で、木霊さんの言っていることは本当なのかな?椎名さん」
椎名「本当だよっ…」
雨宮「あはは、そんなに怒らなくてもいいんじゃない?」
椎名「…。」
雨宮「さぁ、続きをどーぞ。木霊さん」
木霊「…。」
木霊「それで、私たちは20時過ぎに小ホールで待ち合わせをして…。二人で大浴場へ向かったんです」
弓槻「20時頃は、蒼くんの死亡時刻だね。小ホールは第一倉庫に結構近いし、…物音や声は聞こえなかったのかい?」
椎名「何も聞こえなかったよ」
木霊「だけど…」
木霊「武器庫の前を通りかかったときに、…見たんです」
「…。」
木霊「【武器庫の前でうろつく桜坂さんを…】」
楠木「…!」
「…。」
道明寺「ど、ど…どういうことなんじゃ!?桜坂!」
「ごめんね」
天使「まさか、あなたが蒼くんをっ…!」
マツリが、身を乗り出して僕を見つめた。
彼の目は、先程とは違って疑いの色で染まっている。
椎名「…。」
椎名「なんとか、…言ったらどうなの?」
鷲宮「咲…」
みんなが僕を見ている。
こうなることは、わかっていたよ。
でも、すごく怖い。
…だめ、ここでがんばらないと!
間違って僕がクロになっちゃったら、みんなの命が危ないんだ。
勇気を出して、…がんばれっ。
震える手を、ぎゅっと握る。
「それ、納得できないんだけどな」
【反論】武器庫の前でウロウロしていたことは認める。でも僕は、ソーを殺してない!
相馬「それは、私たちへの反論…?」
「そうだよ。だって僕、本当にやってないからねっ」
アリシア「じゃあ何がどのように違うのか説明してもらおうか、桜坂」
「いいよ」
「僕は犯人じゃないということを、証明してみせる!」
ソー。僕、がんばるからね。
ゆっくりと深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。
よし!
天使「桜坂さんは、どうして武器庫の前にいたの?20時って結構な夜だし、あんなところに一人で行くなんて…危険だよね?」
道明寺「天使の言う通りじゃ!桜坂、お主は武器庫になんの用事があったのじゃ?」
「僕は、呼び出されたんだ。20時頃に、突然メールが来て…ね」
楠木「呼び出された?誰に?」
「それは、…わからない。【匿名のメール】だったから」
碧井「そんなの誰が信じるっていうのかしら。証拠はないの?」
「証拠は…」
「ない、よ」
斑鳩「はあ!?証拠がねーって…、誰もお前のこと信じないぞ!?」
「うん、そうだね…」
一之瀬「メッセージの受信履歴、残ってないの?」
「残ってないよ」
「だって匿名メールには、【メールの受信者がメッセージを開いてから6時間後に、自動で消去される機能】があるから…」
真園「そ、そんなんだったら…。咲お兄ちゃんの言っていることが嘘か本当か、わからないってことだよね?」
木霊「ですね」
碧井「さて、どうしましょうねぇ…」
鷲宮「うーん…。……あ!」
鷲宮「ねぇ!モノウルフ!」
モノウルフ「うん?急になんだい、鷲宮くん♪」
鷲宮「昨日の夜、咲のもとに届いた匿名のメールの履歴。復元できたりしないのか!?」
モノウルフ「あー…」
モノウルフ「それはできないなぁ」
楠木「どうして?モノウルフ」
モノウルフ「そういうルールだからだよ!6時間経ったら、自動で消える。復元はできないっていうルールだから!」
斑鳩「なんだよ、それ…」
モノウルフ「ルールは簡単に破っちゃいけないの!みるひとが面白くなくなっちゃうからね~」
復元は、できないのかぁ。
メールの件に関しては、もうどうすることもできないな。
他に、身の潔白を示せるような証拠はあったかな。
雨宮「残念だったね、桜坂。希望の光はなくなったみたいだ」
リユウが、にっこりと笑った。
「僕は、ほ、本当にやってないよっ…!」
違うよ、みんな。
もう少し、時間がほしいな。
アリシア「もういいんじゃないか?桜坂が犯人ってことで」
「それは……!」
楠木「だめ。決めるにはまだはやいよ」
道明寺「そうじゃけど…。さ、桜坂は怪しすぎる!犯人としか思えないのじゃ!」
楠木「そ、うかもしれないけど…!」
鷲宮「みんなっ、他に何かない!?何でもいい!気づいたことわかったこと、見つけたものとか…!教えてくれないか?」
「キョー…カズ…」
お願い、みんなの力を貸して…。
碧井「それならあるわよ」
「…!」
天使「何か見つけたの?碧井さん」
碧井「ふふん…見つけたわよ!」
碧井「【女子トイレのゴミ箱に、空になった輸血パックのゴミが捨てられていた】わ!」
弓槻「輸血パックの、ゴミ…?」
道明寺「…あ!輸血パックのことならわしも知っているぞ!」
道明寺「【保健室の棚から、輸血パックが一つ減っていた】のを、捜査のときに気づいたのじゃ!」
相馬「よくそんなところまで調べたね」
道明寺「そ、それは…。さっき指を火傷してしまってな、たまたま保健室の棚を開けたら一つ減っていて…」
椎名「…。」
道明寺「う、嘘じゃないぞ!お茶をいれるときにっ、本当にっ、火傷したんじゃ!」
そう言って、レンヤは左手を差し出した。
その手は少し、赤くなっている。
楠木「話を戻すけど、どうして輸血パックが…」
「問題は、そこなんだよね…」
斑鳩「誰かが大怪我したんじゃねーのか?」
真園「こ、この中で大怪我してる人っているかなぁ?」
斑鳩「…」
斑鳩「いねーな」
真園「ですよね」
木霊「わかりませんね…」
相馬「そうだね…」
一之瀬「うーん…。一旦輸血パックのことは置いといて、他の話しをしよっか!みんな、何かあるかな?」
みんな、黙り込んでしまった。
もう、ないのか…。
じ、じゃあ自分で何か言えることは……。
ない、なぁ。
変に嘘をついて失敗なんかしたら、今度こそクロ決定されちゃうもん…。
雨宮「結局、桜坂の身の潔白を証明できるものはなかったね」
「そうだけど…本当に、僕…」
相馬「ねぇ、桜坂さん」
「…?」
相馬「随分と焦っているようだけど、残念ながら君はこのままクロになるよ」
「…え?」
一之瀬「千花ちゃん…」
相馬「私が知っていること、話してあげる」
チカは、余裕のある笑みを浮かべてそう言った。
息を呑む。
相馬「【桜坂さんの部屋の前の床に、血の跡があった】んだよ」
楠木「え…!?」
弓槻「…そう、なんだね」
斑鳩「なんだって!?」
天使「…。」
はぁ、もうだめだ。
負けちゃった。
「もう、どうして……」
肩が、がくんと落ちた。
そして、深いため息を一つ。
「…。」
「あぁ、そっか…。そういうことか」
全部わかったよ、犯人がやりたかったこと。
僕は、はめられたんだ。
犯人の罠に。
犯人は、自分がクロだと特定されないために、他に怪しい人物をつくりあげた。
それが僕。
犯人は僕を武器庫に呼び出し、それを他者に目撃させた。
それから僕の部屋の前に血を垂らすなどして、一気に疑いが僕にいくよう仕向ける。
やられちゃったな…。
このままだと、本当に犯人以外全滅になってしまう。
どうする?一発逆転なんて、なるかな…。
「はぁ…」
…だめだめだめ。
悩んでても何も始まらないよ!
僕は犯人じゃないということを、証明すればいいんだ。
たったそれだけのこと!
何度も反論されても、諦めない!
じゃないと、み、みんな死んじゃうから…。
折れないで、前を向いて、がんばって…。
モノウルフ「さて、みんな意見は整ったかな?」
「まって!」
「まだ投票はだめ!…このままじゃ僕たちは、犯人の思い通りになってしまうんだよ!」
椎名「犯人の思い通り?はは、なにそれ。笑わせないでよ」
木霊「もう貴方はクロで決定なんですっ…。変なこと、言わないでください」
アリシア「そうだ。貴様は、これだけの証言があるというのにまだ反論するつもりか?」
楠木「みんな、咲くんの話を聞いてあげてっ」
一之瀬「もう、いいんじゃないかな…?だって咲くんは…」
鷲宮「間違えれば、みんな死ぬんだ!」
カズの一言で、その場が静まり返った。
鷲宮「僕たちは信じているよ、咲」
キョーとカズが、僕を見て頷く。
僕も頷きかえした。
やってやる!
「僕から一つ、言いたいことがあるんだ。嘘にしか聞こえないと思うけど…」
「僕は、あっさりと犯人の罠にかかってしまったんだよ!」
真園「罠…」
「犯人は、僕がクロ特定されるよう仕向けたんだよ。メールで僕を呼び出し、武器庫の周りでうろつかせる。それを誰かに目撃させて、僕に疑いがいくようにしたんだ」
「部屋の前の血痕についても同じだよ。みんなに僕が犯人だと思わせるため、わざと血の跡をつけた。……言い訳のようにしか思えないだろうけど、本当に僕は犯人じゃないんだよ!だから、もう少し話し合おうよ…みんな」
弓槻「…たしかに、咲くんが言っていることも、一理あると思う。それが嘘か本当かは、わからないけどね」
弓槻「私は賛成だよ。もう少し話し合ってみて、損はないと思う!」
「レンカ!」
碧井「話し合いましょう。念の為」
真園「ボクも、咲お兄ちゃんは犯人じゃないと思う!もっと話し合いたいよ!」
斑鳩「そうだな、まだ死にたくないしな」
「みんな!ありが____」
天使「もう、いいよ…」
真園「…?天使のお兄ちゃん、どうしたの?」
天使「もう嘘はつかなくていいよ、桜坂さん」
「…マツリ」
天使「どうせ、全部貴方がやったんだ…。貴方が蒼くんを殺した!僕は、桜坂くんを信じない!」
天使「桜坂くんを処刑してハッピーエンドなんだ。…だから、邪魔しないでよ!」
楠木「お、落ち着いて。天使く___」
アリシア「そうだな、天使。アリシアも、珍しく貴様と同意見だよ」
アリシア「犯人は桜坂だ。何度も言っているだろう」
椎名「あれだけ証言や証拠があるんだから、いい加減諦めたら?」
道明寺「た、たしかに…わしもお主のことは信じ難い、のじゃ…」
一之瀬「ごめんね、咲くん。私もなんだ」
カノンとチカも、こくこくと頷いた。
そんな…。
みんなの意見がバラバラだ。
これじゃあ、余計に話し合いが進まなくなる!
雨宮「意見が真っ二つに割れたねぇ。桜坂が犯人だという俺たちと、犯人じゃないという和くんや楠木さんたちで…さ」
モノウルフ「ん?今、【真っ二つ】って言ったかい?利侑くん」
雨宮「うん、言ったよ?」
モノウルフ「へぇ~、意見が真っ二つかぁ~。いいねいいね、キミたち素晴らしいよ!」
モノウルフ「そんなこともあろうかと、ボクちゃん、あるものを用意しましたー!」
モノウルフ「その名も、【議論スクラム】!!!」
「議論スクラム?」
モノウルフ「議論スクラムでは、議題に対して二つのチームに分かれてもらい、お互いに意見をぶつけ合っていただきまーす!」
モノウルフ「面白いでしょ?議論スクラムはボクのお気に入りなんだよね~、ワクワクだよ!」
モノウルフ「それじゃあみんな、張り切っていきましょうか!」
【意見対立】
議題:桜坂咲は犯人か?
【犯人だ!】
天使祠
アリシア・グルース
木霊叶音
椎.名.ひ.か.り
相馬千花
道明寺蓮夜
一之瀬唯月
雨宮利侑
【犯人じゃない!】
桜坂咲
楠木京
鷲宮和
真園怜
碧井円香
弓槻蓮華
斑鳩響
♱.議論スクラム開始
一之瀬「ねぇ…」
▼背中の傷
道明寺「だけど…!」
▼女の子
椎名「あのさ、」
▼不自然な点
木霊「でも…」
▼呼び出し
アリシア「そもそも…」
▼消去
相馬「じゃあ、」
▼疑い
雨宮「ふーん」
▼輸血パック
天使「…。」
▼話し合う
【全論破】桜坂咲は犯人じゃない!
「「これが僕たちの答えだよ!」」
♱.Break!
「みんなの命がかかっているんだ。もう少しだけでいいから、話し合おう!ね?」
再び静かになった会場。
マツリは、ようやく冷静さを取り戻したようだった。
場が落ち着いて、僕もホッと一息つく。
道明寺「そうじゃな、もっと話し合ってから決めた方がいいのじゃ!」
真園「うんうん!」
相馬「…じゃあ、【凶器の不自然な点】についてから話し合わない?」
「そうだね。賛成だよ!」
碧井「ねぇ、鷲宮さん。貴方が凶器を見つけたのよね」
鷲宮「あぁ、そうだよ」
碧井「不自然な点について、教えてくれるかしら?」
鷲宮「任せて!」
鷲宮「凶器を……あ、見つかった武器庫のサバイバルナイフをね、調べていたときにふと思ったんだ。ナイフに対して、血のつき方がおかしいな…って」
鷲宮「ナイフで人を刺したとしたら、だいたい血は刃物の先につくよね。血が酷くても、【刺したような跡】は残るはずだと思うんだ。でも…」
鷲宮「実際に見つかった凶器の、血のつき方は違ったんだ。なんか、【上からかけられたような】感じでさ…」
「上からかけられた!?」
鷲宮「うん」
鷲宮「凶器を手に取って、ひっくり返してみたんだ。そしたら、【凶器の裏には、全く血がついていなくて】。これって、おかしいよね」
斑鳩「お、おお…おかしすぎるだろ!!!」
天使「血が、上からかけられたような感じ…か。もしかして、輸血パックは…」
「ここで使われたんだ!武器庫のサバイバルナイフの上に、輸血パックの血をかけたんだね」
アリシア「そうなるな」
弓槻「じゃあ、【凶器は別の物】になるね」
木霊「武器庫のサバイバルナイフじゃない、ってこと…ですか?」
真園「うん!」
椎名「ねぇ、ちょっと待ってよ。犯人は、どうしてわざわざそんなことをしたっていうの?」
「そ、それは…」
▼どうして?
1.凶器が武器庫のサバイバルナイフであると思わせるため
2.血をかけたかったから
3.なんとなく
▼1.凶器が武器庫のサバイバルナイフであると思わせるため
♱.clear!
「凶器が武器庫のサバイバルナイフであると、みんなに思わせるためだよ」
楠木「そっか。そういうことね」
楠木「武器庫の周りにいた咲くんに疑いがいくよう、犯人は【わざと武器庫のサバイバルナイフを倉庫に残しておいた】んだ。そしてそのサバイバルナイフに血をかけて、凶器だと思わせた」
楠木「部屋の前の血痕についても同じ。咲くんを犯人だと仕向けるために、わざと輸血パックの血をこぼしたんだよ」
一之瀬「ってなると咲くんは…」
鷲宮「犯人じゃないよ!」
「…っ!!」
あー、やっと…僕は。
僕を見るみんなの目が、優しくなった。
これで僕は、解放される…。
先程まで緊張で全身が硬直していたため、急にひどい安堵感に襲われると、このまま崩れ落ちてしまいそうになった。
…だめだめ。
まだ裁判は続くんだし、気を抜いていられない!
天使「ごめん…桜坂さん。ずっと、ずっと責めてばかりで…」
天使「こんなのきっと、蒼くんは喜ばないっていうのに…」
「マツリ…」
「大丈夫、大丈夫だから!みんな、間違った選択をしたわけじゃないでしょ!立ち止まって、考え直せたんだからさ!」
「真犯人に近づけるチャンスがきたんだよ。絶対見つけるよ!」
マツリは、強く首を縦に振った。
真園「犯人は咲お兄ちゃんじゃないということと、凶器は武器庫のサバイバルナイフじゃなかったということがわかったね!」
道明寺「今気になるのは、【本当の凶器】じゃ!」
「じゃあ次は、本当の凶器は何なのか考えよっか!」
一之瀬「あの~…」
イツキが、申し訳なさそうに手をあげた。
「どうしたの?イツキ」
一之瀬「あの、すごい…今更なんだけどね。凶器の話の前に、言っておきたくて…」
相馬「…?」
一之瀬「私、【昨日の夜、蒼くんを見た】の…」
斑鳩「はぁ!?」
道明寺「なにー!?!?」
弓槻「唯月ちゃん!そ、それはいつ見たの!?」
一之瀬「えーっと、【19時半よりちょっと前】くらいだったかな…」
一之瀬「【休憩室に行こうと思って部屋から出たら、ちょうど蒼くんに会った】の。それで、どこへ行くの?って聞いたら……」
一之瀬「【星を見に行くんだ、って言って】、教会の方へ歩いていっちゃったんだよね…」
碧井「星を見に行く?……この施設に、星を見れるような場所なんてあったかしら?」
「ないよ。この施設には、ステンドグラスはあっても、外を見れるような透明な窓はない」
斑鳩「じゃあ蒼は、どうやって星を見ようとしたんだよ!秘密の窓でも見つけたのか!?」
「うーん…」
透明な窓を見つけた?
でも、初日に施設内を探索したとき、透明な窓なんか見なかった。
そんな、窓なんて今更ポンと見つけられるようなものではないし…。
あ、もしかして…。
「ソーは、騙された…?」
椎名「……どういうこと?」
「多分犯人はソーに嘘をついて、第一倉庫に呼び出したんだよ。メールか何かで……」
多分メールだと思うけど、どうなんだろう。
でも、メールで嘘をつき、ターゲットをおびき出すという手口は、犯人が僕を武器庫に呼び出したときと同じだ。
きっとソーは、犯人にメールを使って呼び出され、騙されたんだ。
雨宮「ふーん、なるほどね」
雨宮「蒼くんは天体観測がものすごく好きだから、『空を見れる窓を見つけた。第一倉庫に来てほしい』などという【嘘をつけば】、あっさりと彼をおびき出すことができる。本当は、【そんな窓なんて存在しないのに】ね」
「うん…!」
一之瀬「すごい…。そこまでわかるんだね」
一之瀬「じ、じゃあ、あの時私が見た蒼くんは、【第一倉庫に向かおうとしているところだった】ということになるね!」
雨宮「だね」
ソーは、19時半頃に犯人に呼び出されていたことが判明した。
メールで。
……メールで?
「ねぇ誰か!ソーのスマホ、持ってない?」
相馬「…?何でスマホ?」
「ソーのメールの履歴に、犯人とのやり取りが残っているかもしれないんだよ!匿名のメールで呼び出したわけじゃないと思うから、履歴を見れば、誰からメールが届いたかわかるはずだよ!」
鷲宮「そうか、たしかにそうだな!……誰か、蒼くんのスマホを持っている人は…!」
僕が探したときは、どこにもなかったんだ。
絶対他の誰かが持っているはず…!
でも…。
「いないの…?」
「…。」
楠木「残念ながら、誰も持っていないようだね」
「そんな…!」
「どこを探してもなかったんだよ。絶対誰かが持っているはずなのに…!」
アリシア「モノウルフに回収されたんじゃないのか?」
モノウルフ「ボク、死者のモノスマホの回収はしないよ~。そんなものいらないし」
じゃあ、ソーのモノスマホはどこにいったの!?
誰かが隠し持っているのかな…。
「……やっと犯人がわかりそうになったのにっ」
天使「ふりだしに戻ってしまった、ね…」
鷲宮「考え直そう、まだ時間はあるよ!」
「……そうだね」
「んー。まず犯人の特定をしやすいように、怪しい人物をしぼっていこっか!」
道明寺「賛成じゃ~!」
アリシア「犯人をしぼるっていっても、どうやって?」
真園「うーん…」
弓槻「さっき話したことを、みんなで思い出してみましょう!」
「そうだね!」
木霊「日彩さんは、不意に背中を刺されて亡くなりました…」
鷲宮「サバイバルナイフは、棚の上に隠されていたよ。男子と背の高い女子なら届くって言ったね」
天使「第一倉庫のゴミ箱に、血のついたカッパがあったよ…」
▼誰の発言が気になる?
▼鷲宮和
「ねぇ、カズ。今言ったこと、もう一度教えてくれる?」
鷲宮「いいよ」
鷲宮「第一倉庫で見つかったサバイバルナイフは、棚の上で放置されていたんだ。【男子なら勿論、背の高い女子でも届くくらいの高さ】だよ」
斑鳩「つーことは…」
「背が低い人は、犯人の候補から外れる」
椎名「そうだね」
雨宮「身長が低めの人は……」
雨宮「真園さんと斑鳩さん、碧井さんと…楠木さんくらいかな?」
「うん!」
斑鳩「四人外れたところで、あんま変わんねーじゃねーか」
一之瀬「ま、まぁ!とりあえず四人!」
道明寺「…とは言え、なかなかしぼれないもんじゃな~」
「もう少し考えてみよう!」
楠木「咲くんの部屋の前の血痕は、犯人の偽装工作だったよ」
碧井「保健室から消えた輸血パック…。結局、空になって女子トイレのゴミ箱に捨ててあったわ」
相馬「日彩さんも桜坂さんと同じで、犯人から嘘のメールをもらっていたね」
▼誰の発言が気になる?
▼碧井円香
「マドカ!!」
碧井「ちょ、っと!な、何よ…急に声をあげて…」
「ねぇ、今____」
碧井「捨ててあったのよ、【女子トイレ】に!何度も言わせないで頂戴っ」
碧井「……。」
碧井「あら?」
真園「女子トイレ!?」
弓槻「犯人は輸血パックを使ったんだよね?そのゴミが、女子トイレで見つかったということは…」
「【犯人は、背が高い女の子】だ…!」
背が高い女の子、背の高い女の子……。
女の子みんなの背を確認していく。
該当する人は、チカ、ヒカリ、イツキ、アリシア、カノンの五人だ。
やっときた。五人だ。
もう少しで犯人がわかるはず…!
一之瀬「も、もしかして私、候補の中の一人……?」
イツキが引き攣った顔つきで、そう尋ねた。
いや、イツキだけじゃない。
残った五人みんなが、とても緊張している様子だった。
アリシア「アリシアはやってないからな」
椎名「そ、そういうアリシアさんが一番怪しいじゃないか」
相馬「椎名さんこそどうなの?」
木霊「…。」
木霊「ここから、どうやって決めるというのですか…」
木霊「もうみなさん、話すことは話し尽くしたと思います。…ルーレットですか?…運任せですか?」
緑色に光る瞳が、じっと僕を見つめる。
どうする。
これ以上、犯人に近づけるのかな。
「……どうしよう。どうしたらいいの?」
天使「忘れてるよ、桜坂さん」
「…?」
「マツリ?」
天使「【本当の凶器】が何なのか。まだ…わかってないよね…」
あ、そうだった…。
色々な話をしていたら、すっかり忘れてたよ!
「マツリ、ありがと…。凶器のこと忘れてた」
マツリは、微かに笑った。
「よしっ、もう一度凶器について話そうか」
楠木「うんっ」
雨宮「結局、凶器は武器庫のサバイバルナイフではないということになったけど…」
鷲宮「サバイバルナイフの他に、何があるんだろう?」
碧井「包丁、じゃないかしら?この施設にあるものだったら」
「いいや、包丁は違うよ。使われた形跡が全くなかったの!」
碧井「…じゃあ、何だって言うのよっ」
「えっと、それは…」
包丁でもなくて、武器庫のサバイバルナイフでもない刃物か…。
そんなもの、この施設内にあるかな?
▼凶器として使えそうな物は?
1.爪楊枝
2.部屋に備えられている武器
3.ガラスの破片
▼3.部屋に備えられている武器
♱.clear!
「わかった…。わかったよ!」
「犯人は、【僕たち個人の部屋に備えられている武器を使った】んだ!」
真園「えっと、…?」
「ほら、僕たちの部屋に、武器が一つ用意されてたよね?僕だったら、スタンガンなんだけど…」
雨宮「そういうことか…。冴えてるね、桜坂」
「えへへ…」
真園「ボクの部屋には拳銃あったよー!」
碧井「拳銃っ!?」
道明寺「わしは弓と矢じゃ!」
斑鳩「アタシは釘バットだぞ!」
「拳銃に、弓矢。それから釘バット…」
「……改めて考えると、とても物騒だね」
忘れないよう、一応メモをとっておこう。
後で役に立つときが来るかもしれないから。
「こういうふうに、一人一人に与えられた武器を確認したいんだ!…協力してくれるかな?」
五人を見つめる。
しぶしぶと頷いてくれた。
アリシア「アリシアは剣だ」
鷲宮「剣?」
アリシア「あー…ほら、勇者とかが持ってそうな、あーゆー剣だっ!」
斑鳩「なんだそれ!ちょーかっこいい!」
「なるほど、そういう剣ね…。これはアリ?」
弓槻「ナシかな。切り傷の大きさ的に、剣じゃないと思うよ」
アリシアではないみたいだ。
相馬「私は毒薬だよ。…そもそも刃物じゃないから、候補から外れるよね?」
鷲宮「たしかに、外れるね…」
チカも違うかぁ…。
一之瀬「私は、槍だった…。あんな大きなもの、使えそうにないよ…」
碧井「槍は、ちょっと難しいわね…」
イツキでもなさそうだ。
木霊「私は斧です。以前、桜坂さんに言いましたよね…。真園さんも道明寺さんも見ています」
真園「見たよ。本当に斧だった!」
道明寺「うむ!」
そのことについては、僕も知っている。
じゃあ、残ったのは……。
椎名「…ボクだっていうの?」
「まだ決まってないけど…。一応確認してもいい?」
椎名「…。」
椎名「果物ナイフ」
「果物、ナイフ…」
一之瀬「え…。そ、それって…!」
真園「違うと思うな…。それは凶器にならないよ」
雨宮「小さすぎる。あれで男の子一人殺すのは、ちょっと厳しいかもね」
弓槻「もう少ししっかりした、…やっぱり包丁とかサバイバルナイフじゃないと……」
楠木「じゃあ、どうなるの?五つの中で、日彩くんをああいう風に殺せそうなものはなかったよね」
そうだよ。
結局凶器は何なのかわからないし、五人の中で怪しい人もいない。
「まさか、嘘ついてるとか、ないよね…」
その時だった。
モノウルフ「あれ~?嘘ついてるじゃん」
一之瀬「…っ!!」
天使「モノウルフ…」
モノウルフ「ボク、【果物ナイフなんて用意してない】よ~???」
「…。」
え。
椎名「…っ!」
モノウルフ「ボク、【ひかりちゃんにはサバイバルナイフを用意した】よ?勝手に嘘ついちゃだめだって~」
モノウルフ「めっ!だよ、ひかりちゃん」
頭が真っ白になった。
この事実を受け止められない自分と、認めたくない自分が交差する。
呼吸の仕方を忘れるくらいの衝撃だった。
「ヒ、カ…」
木霊「椎名、さん…」
天使「そんな…」
みんなの視線が、青白い顔のヒカリを刺す。
彼女は、目を泳がせながら俯いた。
「モノウルフの言っていることは、本当なの?ヒカリ…」
椎名「…。」
碧井「何とか言って頂戴、ひかりちゃん…」
椎名「…。」
椎名「……に」
「…?」
椎名「それが、何?」
「え…」
椎名「そうだよ、ボクの部屋にあったのはサバイバルナイフ。…だから何?」
椎名「そ、もそも、各々の部屋に置いてある武器が凶器になる…っていう根拠って、あるの?ないよね。そういう可能性があるってだけでしょ」
真園「それはそうだけ___」
椎名「ボクじゃないっ。ボクが、ひ、…日彩くんを殺すわけがない!」
やけに潤っている瞳が、キラキラと光った。
木霊「椎名さん」
椎名「…なに」
木霊「木霊は、信じたくない…です。でも、これだけ教えてください…」
木霊「昨夜、貴方は木霊をお風呂に誘ってくれました。仲良くなりたいからと言って」
木霊「あれは嘘ですか?」
椎名「…。」
一之瀬「え、ち、ちょっと、どういうこと…?」
木霊「椎名さん。貴方が犯人だと仮定します。犯人は、桜坂さんに罪を被せようとしましたよね?」
椎名「そう、だけど…」
木霊「大浴場に行くためには、必ず武器庫の前を通らなくてはいけません」
木霊「そこで、椎名さん。貴方は、武器庫の周りでうろつく桜坂さんの目撃者をつくるため、わざわざ木霊をお風呂に誘ったのでは…ないですか…?」
椎名「ち、ちがう。そんなつもりじゃないっ。ただ、ボクは本当にっ、木霊さんともっと、仲良くなりたくて…」
木霊「…。」
椎名「本当だよ。木霊さ…」
木霊「それと、もう一つ」
椎名「……。」
木霊「木霊と貴方は、20時過ぎに小ホールで待ち合わせをしました。しかし【木霊は、少しはやくに小ホールに到着してしまった】んです」
椎名「ちがう」
木霊「到着したのが、だいたい20時……5分頃?でした。まだ椎名さんは、小ホールにいませんでした」
椎名「ちがうっ」
木霊「でもその後、椎名さんは小ホールにやって来ました」
椎名「ちがうんだって…」
ヒカリは頭を抱えた。
さらに追い討ちをかけるカノン。
木霊「椎名さんは、どこからやって来たと思いますか?桜坂さん」
「えっ。そ、それは…」
椎名「ちがうちがうちがう…」
木霊「【第一倉庫から出てきた】んです」
「…え」
椎名「だから、ちがうんだって!」
ヒカリが、机をバンと叩いた。
その音にびっくりして、肩を震わせる。
椎名「キミたちの推理、ダサすぎなんだけど!」
【反論】たしかにボクは、第一倉庫を出て小ホールに行った。でもそれは、第一倉庫から物音がしたからなんだ。
「第一倉庫から、物音……」
アリシア「ふん、なるほどな」
鷲宮「ちょっと、質問なんだけどさ、第一倉庫からどんな音が聞こえたんだ?」
椎名「…【何かが落ちるような音】だよ」
真園「何かが、落ちるような…」
雨宮「それで、倉庫の中はどうだったの?」
椎名「なんともなかった」
一之瀬「それで、中の様子を調べてから倉庫を出たら、木霊さんと会ったということだね!」
椎名「…うん」
犯人はヒカリじゃないかもしれない、という可能性が出てきたからか、みんなの表情が緩む。
でも、僕は違う。
僕は、わかっている。
学級裁判が始まる直前まで、第一倉庫をくまなく調べていた僕は、知っているよ…ヒカリ。
ここで終わらせる!
椎名「そう。ボクは、【第一倉庫から物音が聞こえたから、心配になって見にいった】んだ」
「これで、実行できるね」
【論破】それは違うよ。だって第一倉庫の壁は防音壁でできているんだから、部屋の外に物音が届くはずがないんだ!
「ヒカリ。キミは、嘘をついているよね」
椎名「そ、それは…!」
椎名「うそ、じゃない!本当に変な音が…!!」
「それからもう一つ。キミが言っていることには矛盾している点があるよ」
椎名「…っ!?」
「ソーが第一倉庫に呼び出されたのは、19時半頃だったよね。ヒカリとカノンの待ち合わせ時間は、20時過ぎ。20時4分頃に小ホールに到着したカノンは、その後第一倉庫からやって来たキミを目撃しているんだ」
「第一倉庫には、先にソーが来ていたはず…。だから、中の様子がなんともないわけがないんだよ」
椎名「…。」
「キミが、ソーを殺した犯人だ。ヒカリ」
椎名「……っ。」
楠木「椎名さん…」
鷲宮「ひかりちゃん…」
「ヒカリ……」
伝わってくる。
ヒカリの気持ちが。
怖くて、怖くて、しかたないんだよね。
わかるよ、僕も。
「正直に話してくれるかな、この殺人の全てを」
椎名「…。」
ヒカリは、そっぽを向いて爪を噛んでいる。
話してくれそうにはない。
天使「椎名さん」
椎名「…。」
天使「どうしてこんなことをしたのか。これだけでもいいから、ちゃんと話して…」
天使「じゃないと、蒼くんが浮かばれないからっ…」
悲しみと少しの怒りが混ざった声で、マツリがヒカリに声をかけた。
ヒカリは、すぐそばにあったソーの遺影を、輝きを失った目で見つめる。
そして、ため息を一つ落とした。
椎名「はぁ…」
椎名「どうしてって、それは…。誰かに殺される前に、ここから出たかったからだよ」
斑鳩「誰もお前を殺すような奴なんていなかっただろ!…ほら、あれ!料理競走?料理ごっこ?みたいなやつやって、みんな仲良くなったじゃねーかっ…」
椎名「…。」
碧井「誰かに命を狙われてたっていうのかしら…?」
椎名「…。」
斑鳩「なんとか言え!ひかり!」
椎名「…ボクは、見たんだよ」
相馬「何を?」
椎名「武器庫で刃物を手に取りながらコソコソしている、桜坂さんと楠木さんを」
「…。」
鷲宮「咲、京…」
椎名「ボクは、二人で殺人計画を立てているんだと、思ったんだ。…急いでその場を離れたけど、後ろ姿を見られたんじゃないかと思うと、気が気じゃなくなって…」
楠木「…。」
椎名「もしかしたら、ボクが殺されるんじゃないかって。だから、殺される前に殺して、ここから出よう。そう思った」
天使「……そんな」
椎名「……悪かったよ。これで満足か?」
楠木「やっぱり、見られてたんだね…」
「ヒカ、リ。ごめ…」
掠れる声で、ぽつりと呟いた。
身体が石のように固まって動かない。
こうなったのは全て、僕のせいだ。
僕のせいで、このような勘違いを招いて…。
自然と、涙が溢れてきた。
真園「……でも」
真園「人を殺すのはよくないよ。勘違いだったから、仕方がない。そういう風にはならないっ…」
椎名「ボクだってそれくらい……わかってるよ」
椎名「人を殺すことは、絶対にダメだって。一番わかってるはずなのに…!」
震えるヒカリの声が、張りあげられた。
そして、僕たちを鋭い目で睨む。
椎名「そんな綺麗事言ったって、キミたちもボクを殺すんだ。同じ穴の狢だろ」
アリシア「殺すかどうかなんて、わからないじゃないか」
一之瀬「ひかりちゃんは、私たちのこと、ずっと信じていなかったの…?」
椎名「信じてなんか、…ない。たった数日間、一緒に過ごしただけの仲だ」
道明寺「椎名……」
椎名「こんな状況下で、くだらない友情ごっこなんてごめんだよ。いつだって、信じた方が痛い目みるだけ」
椎名「それにボクは、……みんなが思っているより、悪い人間だから」
「…。」
モノウルフ「はいはーい!これ以上放っておくと、とんでもなく長~いお話になりそうだから、一旦ストップー!」
モノウルフ「議論の結論が出たみたいだね!とりあえず、投票タイムといきますか~♪もうクロはわかりきっていると思うけど、そういうルールだからよろしくね」
【投票】超高校級の天文学者、日彩蒼を殺したクロは?
1.桜坂咲
2.木霊叶音
3.椎名ひかり
▼3.椎.名.ひ.か.り
♱.clear!
モノウルフ「もちろん大正解~!日彩蒼くんを殺したクロは、超高校級のスタイリスト、椎.名.ひ.か.りちゃんでしたー!」
モノウルフ「いやぁ~、キミたちの推理は素晴らしかったよ!拍手拍手~」
モノウルフが、その場の空気を壊すようにして手を叩いた。
鷲宮「本当に、ひかりちゃんだったんだ……」
弓槻「信じ難いけど…ね」
モノウルフ「ひかりちゃんもよくやったと思うよ、女の子一人で♪最高に面白い学級裁判だったよー!」
椎名「…。」
斑鳩「…くそっ。この、モノウルフめ…!!!」
ヒビキが、机から身を乗り出した。
モノウルフ「ちょっとちょっと!ボクを壊そうとするのはやめてよね~。キミの命が危ないよー?」
モノウルフ「…っと。それは置いといて!…一緒に、この殺人事件の全貌を振り返っていこうか!ね、ひかりちゃん♪」
椎名「…。」
♱.♱.♱
今回の殺人の動機となったものは、単なるひかりちゃんの勘違い!
あらあら、可哀想なひかりちゃん。
勘違いなんてしなかったら、こんなことにはならなかったのにね!
それはさておき、武器庫でコソコソしている咲くんと京ちゃんを見てしまったひかりちゃんは、とにかく死にたくなかったらしい。
だから、誰かに殺される前に殺そう!ってなったんだ。
ひかりちゃん、まずはターゲットと罪を被せる人物を決めたみたい!それが、蒼くんと咲くんだね。
ひかりちゃんは蒼くんに嘘のメールを送った。
『第一倉庫で、大きな窓と望遠鏡を見つけたんだ。一緒に星を見ない?19半頃に、第一倉庫で待ってる』
それにあっさりと騙された蒼くんは、第一倉庫に向かった。
あ!途中で、唯月ちゃんと会話もしているよ!
ひかりちゃんは自分の部屋にあったサバイバルナイフを持って、第一倉庫に遅れて行った。
そして、先に到着していた蒼くんを背後から襲い、死んだとわかるまで刺したんだよ。
この時すでにカッパを着ていたため、返り血は浴びずに済んだみたい!
それをゴミ箱に捨てて、蒼くんをロッカーに押し込み、今度は咲くんを犯人だと思わせるための偽装工作に取り掛かったんだ。
まずは保健室に行き、輸血パックを持ち出す。
その後、誰も近くにいないことを確認して、咲くんの部屋の前に少しだけ血を垂らしたんだ。
血の跡をつけたら、今度は武器庫に行ってサバイバルナイフを手に入れた。
そして第一倉庫にもどり、棚の上にナイフを置いて血をかける。
この時ちゃんと血をベッタリつけていれば、よかったのにね~。すぐバレちゃったよ。
手が血でベタベタになっちゃったから、ひかりちゃんは女子トイレで手を洗い、ゴミ箱に空になった輸血パックを捨てた。
そして、最終確認をしに第一倉庫にひかりちゃんはもどった。
その後、匿名メールで20時過ぎに咲くんを呼び出し、武器庫の周りでうろつかせた。
あらかじめ、叶音ちゃんとお風呂にいく約束をしていたひかりちゃんは、彼女と一緒に武器庫の前を通って、咲くんを目撃。
ひかりちゃんは意図的に、犯人が咲くんだと思わせるようにしたんだ。
♱.♱.♱
モノウルフ「これがこの殺人の全てだよ。大したものだ!」
モノウルフ「キミの、臆病で弱い心が今回の悲劇を起こしたんだよ。ひかりちゃん」
椎名「…っ。」
モノウルフ「じゃあ、残り少しの人生。楽しんで♪」
モノウルフは、ニヤリと微笑んだ。
真っ赤に光る左目が、ヒカリを捕らえて離さない。
一之瀬「ちょっと待ってよ、モノウルフ!…ひかりちゃんに、な、何するつもり?」
モノウルフ「ん?おしおきだよ、おしおき!人を殺した悪~い子にはおしおきが必要だよね?ねっ?」
鷲宮「人を殺すのは、ダメだけど…!だからといって、犯人を処刑するのもダメに決まってる!」
道明寺「椎名、今すぐここを去るのじゃ!ほら、はやくエレベーターに乗って!」
椎名「…、…。」
碧井「何してるの!?このままだと、死んじゃうわよ…!」
モノウルフ「…。」
モノウルフ「あーもー!どいつもこいつもうるさいな!」
モノウルフ「もういいっ!!今すぐコイツを殺す!」
「待ってよ、モノウルフ…!!」
モノウルフ「もう遅いんだよ。殺すって言ったら殺すんだ!」
冷たくそう言い放つと、モノウルフはヒカリのところまで歩いていった。
モノウルフ「さぁ、ひかりちゃん。死ぬ前、最期の一言をどうぞ?」
椎名「……。」
モノウルフ「…あれ。ずっと俯いちゃって、…なんにもない感じ?」
モノウルフ「はっはっはー!キミは最期まで本っ当に面白い子だねー!遺言無しのクロなんて見たことないよ~」
うるさいほどの、笑い声。
耳を塞ぎたくなった。
どうにかしてモノウルフを止める方法はないのかな。
僕は、どうしたら…!
モノウルフ「うんうん、本当に何もないみたいだね!黙りっぱなしだし!」
椎名「……だ」
モノウルフ「それじゃあ!あまり時間もないし、とっととやっちゃいますか!」
椎名「いやだ…」
モノウルフ「みんな、準備はいいかな~?」
椎名「いやだいやだ!」
「ヒカリ…!!」
椎名「こんなところで、死にたくない!」
椎名「絶対に、生きて帰ってやるっ…」
ヒカリはエレベーターの方へと駆け出した。
モノウルフ「では、張り切っていきましょう!」
椎名「やだ、やだ…。死にたくないっ!」
モノウルフ「ワクワク、ドキドキ!」
椎名「いやだ!だ、誰か……」
モノウルフ「おしおきターイム!」
【シイナさんがクロに決まりました。おしおきを開始します】
『モノモノTV特別コーナー パーフェクト☆スタイリング!』
「えー、みなさまこんにちは!モノモノTVのおじかんだよ!今日はなんと!サイコーにクールなゲストに来ていただいてます!
スカートとスピーチは短い方が良い、さっそく登場していただきましょう!」
【超高校級のスタイリスト、椎.名.ひ.か.りさんでーす!】
「じゃあ尺もないし、はやくウデマエを見せてもらおうかな?」
「最初のコーナーでは、複数あるマネキンをスタイリングしてもらうよー!超高校級のキミには簡単すぎるかもだけど♪…では、早速どうぞー!………って、えー!?!?」
「すごーい!もう出来ちゃったの!?しかも、完璧だねー!性別や体格がぜーんぶ違うマネキンを、次々とスタイリングしちゃってさー!さすが超高校級だよ!」
「ではでは次のコーナー!難関なスタイリングをしてもらうよー!手始めはこのボク、モノウルフ!」
「いくら超高校級でも、ボクのことはさすがに………って、うわー!」
「遊び心満載でサイコーじゃん!もうボク、これ普段着にしちゃおうかな~♪」
「…っと。脱線しちゃった!ではでは、お次はこの方!お願いね!」
「おいおい、逃げるなよ!ゲストはまだまだたくさんいるんだから!」
「ちょっとー!放送事故だよ、放送事故!サイアクだ!誰かあいつをつかまえろー!」
…………………
いやだ、いやだ、いやだ!
けたたましいサイレンの音が、身体を、記憶を、こころを、蝕む。
父がボクを見る。憎しみと、嫌悪に充ちた瞳で。
響く怒声。
「犯罪者!」「卑怯者!」「恩知らず!」
いやだ、いやだよ。
耳を塞いで、マネキンの横を走り抜けていく。
そこには、みんなの姿をしたマネキンまであって……。
いやだ。
話しかけないで、暴かないで、見ないでよ…。
足を速める。
すると、おでこにコツンと何かが当たった。
日彩くんのマネキンが、こちらを見つめていた。
ごめんね。
一瞬だけ止まっていた足を大きく踏み出して、彼の横を過ぎていった。
走って、走って、…走り続けた。
…………………
気づいたら、そこは部屋の中。
なつかしい、母と暮らしたあの家。
母がボクを見る。
愛情と、哀れみを含んだ目で。
ちがうよ……あの時、ボクは。
すごく、すごく怖かったけど。
自分の罪から、逃げたくなかった。
本当はちゃんと、認めたかったんだ。
ごめんなさい。せめて今度はもう、逃げないよ。
ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい。
どれだけ謝っても足りないけど。
許されるはずも、ないけど。
本当に、ごめんなさい。
みんな、騙して、逃げて。ごめんなさい。
傷つけて……殺して、ごめんなさい。
ごめんなさい、日彩くん……。
僕は、膝から崩れ落ちた。
あぁ…。
ついさっきまで生きていた仲間が、今となってはもう……。
酷い無常感、ものすごい脱力感に襲われ目眩がする。
「…。」
ヒカリの表情が、頭から離れない。
ヒカリの声が、忘れられない。
心が空っぽになって、何も考えられなくなってしまった。
これが、学級裁判…。
仲間を殺した犯人を、みんなで突き止めて、みんなで処刑する。
ひどい。ひどいよ、こんなこと。
やるせない気持ちが渦巻く。
気持ちが悪い。
身も心もボロボロだ。
たったの数時間で、ここまで疲れるとは。
心に大きな穴が空いたように感じる。
ふと周りを見渡すと、みんな僕と同じで疲れ果てていた。
こんなショッキングな出来事が続いて、平気でいられるはずがないよね…。
みんなの悲しみの声が耳に入る度に、心が痛くなった。
鷲宮「どうして…こんなことっ…」
「カズ…」
鷲宮「何で…!」
カズが、苦しそうに顔を歪める。
彼の顔は真っ青だ。
鷲宮「間違ってる。…間違ってるよ、全部」
「うん…」
鷲宮「…。」
鷲宮「ひかりちゃん…」
カズは、一点を見つめてぼーっとしている。
そっとしておこう。
一之瀬「ひかりちゃん…。帰ってきてよ…」
相馬「…。」
一之瀬「うぅ…」
珍しく、イツキが泣いている。
そういえば、イツキの…笑顔以外の表情を、初めて見た気がする。
相当、ヒカリの死を悲しんでいるのだろうな。
一之瀬「どうしたらよかったの…。私は、どうしたらみんなを守れるんだろう…」
アリシア「そう思い詰めない方が…いいと思う、一之瀬」
アリシア「無力だったのは、アリシアも同じだ」
相馬「一之瀬さん、…戻ろう。一旦ここを出て、落ち着ける場所に行こう」
一之瀬「うん…」
女の子たちが、ぞろぞろとエレベーターに乗り込む。
それに続いて、男の子もこの場を離れはじめた。
一刻もはやく、心を落ち着かせたい…。
そういったみんなの気持ちが、目に見えた。
そうして裁判所に残ったのは、カズとキョーとマツリ、そして僕の四人。
僕たちは、会話もせず目も合わせずで、ただひたすらに俯いているだけだった。
そんな中、キョーが口を開いた。
楠木「ここでは、何が起きるかわからないね」
天使「……?」
楠木「ちょっとした発言が…ちょっとした行動が、殺人の引き金になってしまうこともある」
「…。」
楠木「まだ出会って数日しか経っていないんだ。私たちは仲間だけど、まだ一人一人を理解できていない。慎重に行動しないと、また…」
キョーは、バッと下を向いた。
どんな表情をしているのかはわからないけど、ぽたぽたと大粒の涙をこぼしていた。
「………帰ろう」
無言でエレベーターに乗り込む。
全員が乗ったことを確認し、上へのボタンを押した。
扉が、ゆっくりと閉まる。
もう二度と、ここに来ることがありませんように…。
今は、そう願うことしかできなかった。
ヒカリのことをちゃんと理解できていれば、彼女の救いになれたかもしれない。
彼女を救えたのかもしれない。
そしたら、こんなことになっていなかった。
ソーだって、きっと今を生きていた。
平和な日々が続き、コロシアイが後ろにあることを完全に忘れたいた。
僕は、ヒカリの不安な気持ちに気づいてあげられなかったんだ。
椎名『…キミのこと、信じたかったのに』
学級裁判が始まる前の、あのヒカリの言葉が胸を締めつける。
ヒカリは、本当は誰かに信頼を置きたかったのかもしれない。
それなのに僕は、なおさらヒカリを不安にさせてしまって…。
ごめんね、ヒカリ。
ごめんね、ソー。
僕、もうどうしたらいいのかわからないよ____。
♱一章.月輪に宵の明星 _END_
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