勇者の旅立ち?

とうちゃん

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第5話 王国は終わりを迎え、勇者は幸せを掴んだ。前編

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バンサロン王国より停戦の申し出を受けたハンブルグ聖国。
和議の使者に元妻であるアントネットが遣わされると連絡を受け一時休戦を決めた。

作戦本部建物の一室でロワンドとカリーナの2人が使者の到着を待ち構えていた。

マリアは『会いたくない』
そう言って立ち会いを拒んだ。

「遅いな」

ロワンドが呟く。
約束の時間が過ぎても一向に表れないアントネット達。
カリーナは複雑な表情を浮かべロワンドの顔を見た。

ロワンドをあれほど傷つけたアントネットが今更どの面を下げて、そう思うと感情の昂りを抑えるのが精一杯のカリーナだった。




「報告します」

ロワンド達の隣室で控えるハリスとケリーに1人の兵がドアをノックした。

「入れ」

ハリスが答える。

「失礼します。我が軍に偽装しました敵兵を発見し、捕らえました。
この様な物を隠し持っておりました」

数通の手紙と金貨を差し出した。

「ご苦労」

ハリスは手紙を受け取る。
敗色濃厚な王国軍は『糧食を確保する為』と称し自国の農民や商家に押し入り略奪を繰り返していた。

今や王国軍の兵は殆どが王族が雇った犯罪者等ならず者の集まり。
軍規も無い彼等は欲望のままに王国内を暴れまわり治安は悪化の一途を辿っていた。

「また誰か襲われたのか」

ハリスは手紙を改めた。

「こ、これは?」

ハリスの目が大きく開いた。

「どうしました?」

ハリスの豹変にケリーが驚く。

「姉さんこれを...」

ハリスは震える手で手紙を渡した。

「なんと言う事を...」

ケリーが途中まで読み目を伏せた。
それはアントネットの遺言とハンブルグ聖国に宛てた王国の内情を記した手紙だった。

「敵兵がこれを持っていたと言うことは...」

「アントネット殿は生きてはいまい...」

ケリーとハリスの2人は苦しそうに隣室でアントネット達を待つロワンドを思った。

手紙を持っていた敵兵の尋問は速やかに行われた。
最初は惚けていた敵兵だがカリーナの尋問(拷問)に全てを自白した。

[聖国兵に化け畑に火を放ちながら街道を進んでいた所、1人の男が駆け寄って来た。
男は王国の使いで和議の使者を乗せていたが使者が自殺してしまったと涙ながらに話し...]

「連中は聖国兵の振りをして馬車まで案内させ金目の物を奪った...か」

「馭者も哀れよ、自国の兵に殺されるとは」

「こんな奴等は王国兵では無い、王族が集めたならず者達だ」

報告を聞きケリーとハリス、カリーナの3人は大きな溜め息を吐く。

ロワンドとマリアは別室に閉じ籠ってしまった。

アントネット達の遺体が見つかったのは夕方に近づく頃、自白した場所は焼け落ちた馬車と真新しく土を埋めた跡があった。

掘り起こした遺体はロワンド達の居る作戦本部の遺安室に並べられた。

「この人誰だよ...」

女性の遺体を見たロワンドが呟く。
記憶にあるアントネットと余りに違う。
体型、顔つき、全てが美しかったアントネットと似ても似つかない遺体。
ただ遺体は安らかな笑みを浮かべていた。

「間違いありません」

「嘘だ!」

ケリーの言葉にロワンドは叫んだ。

「加護を失い本来の姿に戻ったのです」

「本来の姿?」

「はい、アントネット様は自らの境遇に絶望し精神のバランスを失っていたのです。
体を苛め不摂生を繰返しこの様な姿に...」

「そんな...」

カリーナも悲しげにアントネットの遺体を見詰める。
知らなかった、ただ自らの欲望でロワンドを傷つけていたのだと思っていた。

「これを」

ケリーはカリーナとロワンド、マリアに手紙を渡した。
それは皆に宛てた遺書。
不義の理由とお詫び。
最後に[カリーナ、マリア、ケリー様、ハリス様、どうかロワンドと幸せに。私もロワンドと人生を歩みたかった]
そう締め括られていた。

「お母様!!」

マリアが遺体にすがり付く。
涙がアントネットの遺体を濡らした。

「俺は何て愚かだったんだアントネットの苦悩に気づかず」

ロワンドはマリアの背中をそっと抱き締めた。

「気づかなかったのは私も同罪だ、従姉妹だったのに...」

カリーナはアントネットの手を握りしめた。

「滅ぼしましょう」

ハリスが呟く。

「当たり前だ」

カリーナが前を向き。

「勿論です」

力強くマリアも頷いた。

「それでは作戦を練りますので」

ハリス達3人は部屋を後にし、ロワンドとケリーが残された。
勇者であるロワンドと教皇のケリーは戦争に参加していない。

ロワンドの力は強力過ぎ、ケリーは聖教会の教皇と言う立場故に。

「ロワンド様...」

「何?」

「アントネットに最後の別れを致しますか?」

「ケリー何を?」

ケリーの言葉をロワンドは理解出来ない。

「まだアントネットの魂はこの世にあります」

「まさか?」

「間違いありません、浄化を行って無い魂は現世を彷徨い、悪霊になる事もあります」

聖教会の教皇、ケリーの言葉に嘘は無いとロワンドは感じた。

「どうしたら会える?」

「アントネットの魂を私に憑依させます」

「憑依?」

「はい私の体に」

「出来るのか?」

「ええ、アントネットの魂を満足させ、自ら浄化させる事が出来るのは貴方だけです」

「分かった、頼む」

「はい」

ケリーは静かに立ち上がると祈りの姿勢を取り、聞き取れない言葉を呟き始めた。

「来たれ!彷徨えし魂よ!」

叫びと共に床に崩れ落ち苦しそうに息をするケリー。
次の瞬間ケリーの身体全体が光に包まれた。

「ロワンド...」

輝く身体で立ち上がり呟く。
声はアントネット。
姿も醜さは無い、ロワンドが最後に会った時の美しいアントネットだった。

「アントネット、すまなかった」

ロワンドはアントネットに頭を下げた。

「どうして謝るの?」

「君の苦しみに気づかないで何もしてやれず...」

「そんな事無い!ロワンド様は悪く無いよ!」

「え?」

突然アントネットからケリーに声と姿が戻った。

「ごめんなさい」

ケリーが慌てて頭を下げると再びアントネットの姿に戻った。

「ケリー様の意識も有るの」

「そうなのか?」

「ええ」

他人の魂を憑依させても自分の意識は失わない。
聖女ケリーだから出来る事。

「感謝してる」

「感謝?」

「王族を、貴族を懲らしめてくれて」

「俺の力じゃない、カリーナやケリー達のお蔭さ」

「そんな事無いわ、貴方が皆を動かしたの」

「そうかな?」

「そうよ」

楽しげに話す2人。
初めてゆっくり過ごす時間に幸せを感じていた。

「マリアの事だけど...」

「ずっと前からマリアは気づいてたそうだよ」

「やっぱり」

「俺はこの前初めて聞いた、ショックを受けたがカリーナに助けて貰ったんだ」

「カリーナに?」

「ああ。
マリアと3人しっかり話をしたよ『俺はマリアがもっと好きになったよ』と言ったら『ありがとう』って喜んでな」

「...でしょうね、マリア良かった」

アントネットは満面の笑顔、ロワンドも嬉しそうだ。

「そろそろ時間が...」

アントネットが寂しそうに呟いた。

「時間って?」

「ケリー様に憑依出来る時間、いつまでも居られないの」


「そんな....」

ロワンドはアントネットの手を握る。

「ロワンド様落ち着いて」

再びケリーの姿に戻る。

「最後の望みをアントネットに聞いて来るから待ってて」

ケリーはそう言うと俯いたまま固まった。


(アントネット)

ケリーは直接アントネットの意識に語り掛けた。

(はいケリー様)

(その願い叶えてあげる)

(え?)

(頭の中を見れるんだから隠しても無駄よ)

(でもそれは...)

(私の願いでもあるから)

(....ありがとうございます)

話し合いが終わりケリーが再びアントネットに変わった。

「ロワンド最後のお願いを良いかしら....」



アントネットの言葉にロワンドは頷いた。
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