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第4話 (元)妻は王国に逆らった。
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ハンブルグ聖国との戦いが始まり2ヶ月が過ぎた。
戦力、戦術、戦略、全てに勝るハンブルグ聖国にバンサロン王国は圧され敗北はもはや時間の問題となっていた。
そんなある日、私アントネットは王妃で姉のマリアンヌに王宮へ呼ばれた。
「お呼びでしょうか?」
王の間で膝まづき頭を下げる。
外に出たのは1ヶ月ぶりだろうか?
こんな姿を本当は誰にも見せたく無かったのだが...
「...誰?」
姉は私の顔を見て呟く。
周りの王族や近習達もざわついている。
分かってる、こんな醜く変わり果てた姿を見てアントネットと誰も思わないのだろう。
「アントネットに御座います」
優雅に立ち上がり腰を降ろそうとするが倍以上に太った身体に足腰が支えきれない。
無様に転がりスカートが捲れ上がった。
「失礼いたしました」
慌てた振りでスカートを戻す。
周りの連中は顔をしかめている。
その中には姉の命令で昔身体を許した奴等の姿もいた。
姉は私の目を見つめる。
「アントネットで間違いありませんね、誰か椅子を!」
ようやく分かったみたいだ。
1ヶ月前に会った時より更に醜くなってしまったから仕方ない。
「それでご用件は?」
用意された椅子に座り要件を尋ねる。
覚悟はしていたがこの姿を晒し続けるのは辛すぎる。
「う、うむアントネット、ロワンドに和議と停戦の仲介を」
「仲介と言いますと?」
「貴女はロワンドと妻であろう」
私の言葉に姉の隣に控えていた宰相のルークが答える。
こいつも私が以前身体を許した男。
ヌークの兄で姉の愛人。
「元妻で御座います」
ロワンドとの婚姻はハンブルグ聖教会から取り消されている。
私の不義によって...
「それでも13年夫婦であったのだ、元と言えど妻の頼みならばロワンドも」
何と愚かな...
この期に及んでまだ私を利用するつもりか。
教会から『勇者の妻』と言う名の加護を取り消され。
以前よりの絶望から繰り返した不摂生に本来の醜い肉体と成り果てた私をロワンドの前に晒せと?
「いざとなれば肌の1つも触れさせてやれば良い、ロワンドも喜ぶであろう」
下衆な姉の言葉に王族達から笑い声が洩れる。
こんな醜くい身体に利用価値等無い事は分かっているだろうに。
もっとも結婚してからロワンドと1回しか肌を合わした事が無い。
「ロワンドの傍らにはカリーナが居ます、喜びはしませんわ」
笑みを浮かべつつ笑い声を上げた貴族を睨みつける。
[カリーナ]最強の剣姫にして私の従妹。
代々の武功を誇る伯爵サルバトーレ家の令嬢。
その美しい容姿はバンサロン王国の紅薔薇と称えられた。
そんなカリーナに私など本来は及びもしなかった。
実家が私を着飾らせ、美しき令嬢と祭り上げたのだ。
自らの政争の道具とするために。
カリーナがロワンドを心から愛しているのを王国内で知らぬ者はいない。
そんな彼女がロワンドと共に亡命したのだ。
憎しみの目で見られるだけの事だ。
「それでも妻であったなら...」
宰相のルークがまだ何か言おうとしている。
この男にそんな権限が?
「国王陛下は?」
この国の一大事に姿を見ないのはおかしい。
しかし見渡せど国王陛下の姿は確認出来なかった。
「陛下は療養中です」
「療養中?王太子様は?」
姉の言葉に首を捻る。
それならば王太子が代理で出席せねばならぬ筈。
「療養に王太子も付き添っておられるのだ」
宰相の言葉にキナ臭い噂が真実味を帯びる。
国王陛下は毒を盛られ王太子共々北の宮殿に幽閉されていると。
「そんな事よりアントネット、行って貰えぬか?」
そんな事?
国王陛下の事がそんな事とは...
元々姉は後妻で王室に入った。
先妻が産んだ王太子を廃し、自らの息子達に跡を継がせ様と画策しているとの噂もあったが、こちらも真実の様だ。
「分かりました。ロワンドに会いましょう」
「そうか行ってくれるか!」
私の言葉に歓喜する王族達、ここまで追い詰められていたのか。
「お願いがあります」
「言ってみよ、何でも叶えてあげましょう」
喜色満面の笑顔で姉は言った。
「ヌークを同行させて頂きたいのです」
「ヌークを?」
私の言葉に宰相のルークが顔を曇らせる。
意外な言葉だった様だ。
「しかしヌークは...」
言葉を濁すルーク、分かっている。
奴も私と同じ状態の筈だ。
勇者の加護を失い、みすぼらしい姿になっている事だろう。
「マリアに真実を告げるつもりか?」
姉が身を乗り出し尋ねる。
マリア、私の娘。
勇者ロワンドの子として育てられた王国随一の魔術の使い手。
今は聖国に寝返り圧倒的な魔力で王国を追い詰めていた。
「それも選択肢に」
「成る程」
姉や宰相、王族達は顔を合わせて笑う。
マリアの秘密、それはロワンドでは無くヌークの娘である事。
「宜しい、ヌークの同行を許可します」
「ありがとうございます」
よし、これで後腐れ無く死ねる。
悪夢の人生にようやく別れを告げる事が出来る。
数日後私はヌークと馬車に揺られていた。
加護を失い弛んだ体型のヌーク。
艶やかだった金髪は艶を失い、登頂部は完全に禿げ上がっていた。
何より変わったのは、
「へへへ、俺はヌーク様だへへへ」
両手足を失い。上半身だけ騎士団長の軍服に身を包んだヌーク。
下半身は剥き出しで椅子に括りつけられている。
糞尿は椅子に備え付けられた樽に落ちる仕掛けになっていた。
体を揺すりながら訳の分からない事をずっと言っている。
発狂したヌーク、もう正気に戻らないだろう。
[勇者の部下]と言う加護を失い、強さも無くしたヌークは部下から凄惨なリンチを受けた。
それはヌークのした事への報復。
部下の妻を寝取り、酷いの物になると部下の娘達まで毒牙にかけていた。
宰相の兄を後ろ楯に使いやりたい放題だったヌーク。
聖国と戦争になるとヌークの部下達は一斉に騎士団を離れ亡命した。
剣姫のカリーナを頼ったのだ。
これにより主力の王立騎士団は事実上壊滅した。
そして亡命前に彼等はヌークに意趣返しを行った。
両手足を切り裂き性器を引きちぎり止血を行う。
最後はヌークの全身に樹液を塗りたくり、亀虫が数万匹入った麻袋を被して行ったのだ。
栄えある王立騎士団のやる事では無いと王族は憤慨していたが手緩いと思う。
何故殺さなかったのだ?
この男にされた、いや王国にされた私の怨みを考えたら甘過ぎる。
涎を垂らすヌークを見ながら悔恨の過去を思い出す。
ヌークとの婚約は親が決めた物。
貴族の娘である宿命と諦めた。
しかし成長に伴いヌークは派手な女遊びを始める。
そんな愚痴を従妹のカリーナに吐き出す日々。
ある日勇者が神託された。
やって来たのはまだ12歳のロワンド。
王国は勇者を囲い込むため貴族に婚約者を募った。
条件は純潔である事。
まだ経験の無かった私は真っ先に手を挙げた。
特にロワンドに惹かれた訳では無い。
ただ彼の姿に穏やかな人生を夢見たのだ。
(カリーナは悔しがりながらも祝福してくれた)
そんなロワンドを私は裏切った。
でも言い訳をさせて欲しい。
純潔を失ったのはヌークに乱暴された事だ。
処女を失った事を知った実家は事実を隠蔽しロワンドに抱かれる様命じた。
拒めばよかった....他の人に、カリーナに婚約を譲れば良かったのだ。
しかし言い出せないまま2ヶ月後ロワンドと1夜を共にした。
12歳のロワンドに私が処女か否か等分かる筈も無い。
無事に逢瀬は終わり、ロワンドは魔王討伐に旅立ち事実は闇に葬れた筈だった。
ここで予想外の事が起きた。
私の妊娠、相手はヌーク。
悪夢は終わらなかった....
事実をロワンドに告げようと何度も手紙を書いた。
しかし手紙はロワンドに届く事は無かった。
私の実家が握りつぶしていたのだ。
「事実を知ってロワンドが魔王討伐に失敗したらどうするつもりだ?」
周りからそう言われ勇気を失った。
数ヵ月後早産と言う事にしてマリアは産まれた。
ロワンドは魔王討伐で不在。
立ち会ったのはヌーク、家族の許可無くては立ち会えぬ筈。
ここで愚かな私はやっと気がついた。
仕組まれていた。
思い返してみればロワンドの婚約に実家は反対しなかった。
ヌークが私を襲った時も、ヌークは罪に問われ無かった。
その後私の人生は実家の便利な道具だった。
国王陛下の後妻に姉がなれる様に裏工作に駆り出され大勢の権力者に抱かれた。
何度も妊娠をし、堕ろした。
捨て鉢になった私は酒に薬物に逃げた。
本来ならば体に負担が掛かる筈が加護のお陰で変化は無かった。
死にたいと思いながらロワンドの妻を演じる日々。
やがてロワンドが魔王討伐を果たした。
莫大な褒賞金が家に入る様になりやっと王族の娼婦の様な生活は終わった。
そんな私をヌークは飽きもせずに抱いた。
もうどうでも良い。
マリアは私を嫌い寮に逃げた。
完全に私の心は壊れていた。
そんなある日ロワンドと久し振りに顔を会わせた。
ロワンドは背曩を背負い鎧に身を固めていた。
入り婿のロワンドは旅の準備すら1人だったのだ。
「お出掛けですか?」
気まずさを抑えて聞いた。
「うん魔竜討伐に」
「ええ?」
魔竜討伐に1人で?
これには驚いた。
厄災の魔竜討伐に1人等死にに行く様な物では無いか!
「お辞め下さい、もしもの事が有りましたら」
さすがに止めた。
愛情からでは無い。ロワンドが死んでしまったら私は王族の娼婦に戻るのが怖かったのだ。
「大丈夫だよ、ありがとうアントネット」
心からの優しい笑みでロワンドは私を見つめた。
その時やっと気づいた。
ロワンドを裏切り続けて来た人生に。
操り人形の人生に。
...本当はロワンドを愛していた事に。
「お帰りになる日をお教え下さい」
「アントネット?」
「準備をしてお待ちしております」
決意は固まった。
この人を助けよう。
解放して差し上げよう。
カリーナが居れば大丈夫だ。
未だにロワンドを愛している彼女ならきっと救ってくれる。
「分かった、手紙を書くよ」
嬉しそうなロワンドに私は口づけをした。
「アントネット...」
「さようなら」
「うん、行ってきます!」
笑顔でロワンドは旅立だった。
後は知っての通りだ。
手紙でロワンドの帰宅する日を知り、朝からヌークを呼び出しひたすら抱かれた。
「これは...?」
裸で抱き合う私達にロワンドは崩れ落ちた。
「何見てるんだ?」
ヌークが勝ち誇った顔でロワンドを見る。
私は必死で作り笑顔を浮かべ無言でヌークの唇に吸い付く。
話す事が出来ない。
話したら私まで泣き崩れそうだ。
ロワンドが無言で扉を閉めて出ていくのをただ見送った。
(ごめんなさい!)
そう心で叫びながら。
「今日はここらで泊まりましょう」
馬車を操っていた馭者の言葉で我に返る。
「ご苦労様」
私は馭者に酒を渡した。
この男はタリスカー公爵の人間、酒に目が無いのは知っている。
「こりゃどうも」
嬉しそうにコルクを開け直接飲み干す。
物資が乏しい王国だ、久し振りの酒に我慢が出来なかったのだろう。
半分程飲むと馭者は崩れ落ちた。
「後は宜しく」
睡眠薬の入った酒瓶が足元に転がる。
馭者の懐に遺書と数枚の金貨、ハンブルグ聖国に託した手紙を入れる。
この男は信用出来る。
そう思って馭者に指名したが手紙をハンブルグ聖国に届けてくれるか分からない。
だがこれしか方法が無いのだ。
「お待たせ」
馬車に戻りヌークと再び2人になる。
「アハハハ....」
ヌークは相変わらず涎を垂らしながら笑っていた。
懐から小瓶を取り出しヌークの口に流しこむ。
「ンー!!」
ヌークの体が跳ねる。
吐き出さない様に口を押さえる。
手足の無いヌーク、暴れようにも体をくねらせるしか出来ない。
1分も経たない内に動かなくなった。
「すごいわね」
ヌークから手を離す。
涙を流し、だらしなく舌を出して息絶えたヌーク。
小瓶は王国から渡された物、交渉が決裂したらロワンドに飲ませろと命ぜられた毒薬。
「とことん腐ってるわね」
小瓶を投げ棄て短刀を取り出す。
宝玉が散りばめられた短刀、ロワンドと結婚した時に身につけていた物。
[夫の危機にはこの短刀で戦え、家名を汚した時はこの短刀で自裁せよ]
バンサロン王国、結婚式の伝統。
首筋に当てた刃を曳き下ろす。
血飛沫が馬車の中を染めた。
「....ロワンド....マリア」
2人の名前を呟きながら安らぎを感じ、意識が消失した。
戦力、戦術、戦略、全てに勝るハンブルグ聖国にバンサロン王国は圧され敗北はもはや時間の問題となっていた。
そんなある日、私アントネットは王妃で姉のマリアンヌに王宮へ呼ばれた。
「お呼びでしょうか?」
王の間で膝まづき頭を下げる。
外に出たのは1ヶ月ぶりだろうか?
こんな姿を本当は誰にも見せたく無かったのだが...
「...誰?」
姉は私の顔を見て呟く。
周りの王族や近習達もざわついている。
分かってる、こんな醜く変わり果てた姿を見てアントネットと誰も思わないのだろう。
「アントネットに御座います」
優雅に立ち上がり腰を降ろそうとするが倍以上に太った身体に足腰が支えきれない。
無様に転がりスカートが捲れ上がった。
「失礼いたしました」
慌てた振りでスカートを戻す。
周りの連中は顔をしかめている。
その中には姉の命令で昔身体を許した奴等の姿もいた。
姉は私の目を見つめる。
「アントネットで間違いありませんね、誰か椅子を!」
ようやく分かったみたいだ。
1ヶ月前に会った時より更に醜くなってしまったから仕方ない。
「それでご用件は?」
用意された椅子に座り要件を尋ねる。
覚悟はしていたがこの姿を晒し続けるのは辛すぎる。
「う、うむアントネット、ロワンドに和議と停戦の仲介を」
「仲介と言いますと?」
「貴女はロワンドと妻であろう」
私の言葉に姉の隣に控えていた宰相のルークが答える。
こいつも私が以前身体を許した男。
ヌークの兄で姉の愛人。
「元妻で御座います」
ロワンドとの婚姻はハンブルグ聖教会から取り消されている。
私の不義によって...
「それでも13年夫婦であったのだ、元と言えど妻の頼みならばロワンドも」
何と愚かな...
この期に及んでまだ私を利用するつもりか。
教会から『勇者の妻』と言う名の加護を取り消され。
以前よりの絶望から繰り返した不摂生に本来の醜い肉体と成り果てた私をロワンドの前に晒せと?
「いざとなれば肌の1つも触れさせてやれば良い、ロワンドも喜ぶであろう」
下衆な姉の言葉に王族達から笑い声が洩れる。
こんな醜くい身体に利用価値等無い事は分かっているだろうに。
もっとも結婚してからロワンドと1回しか肌を合わした事が無い。
「ロワンドの傍らにはカリーナが居ます、喜びはしませんわ」
笑みを浮かべつつ笑い声を上げた貴族を睨みつける。
[カリーナ]最強の剣姫にして私の従妹。
代々の武功を誇る伯爵サルバトーレ家の令嬢。
その美しい容姿はバンサロン王国の紅薔薇と称えられた。
そんなカリーナに私など本来は及びもしなかった。
実家が私を着飾らせ、美しき令嬢と祭り上げたのだ。
自らの政争の道具とするために。
カリーナがロワンドを心から愛しているのを王国内で知らぬ者はいない。
そんな彼女がロワンドと共に亡命したのだ。
憎しみの目で見られるだけの事だ。
「それでも妻であったなら...」
宰相のルークがまだ何か言おうとしている。
この男にそんな権限が?
「国王陛下は?」
この国の一大事に姿を見ないのはおかしい。
しかし見渡せど国王陛下の姿は確認出来なかった。
「陛下は療養中です」
「療養中?王太子様は?」
姉の言葉に首を捻る。
それならば王太子が代理で出席せねばならぬ筈。
「療養に王太子も付き添っておられるのだ」
宰相の言葉にキナ臭い噂が真実味を帯びる。
国王陛下は毒を盛られ王太子共々北の宮殿に幽閉されていると。
「そんな事よりアントネット、行って貰えぬか?」
そんな事?
国王陛下の事がそんな事とは...
元々姉は後妻で王室に入った。
先妻が産んだ王太子を廃し、自らの息子達に跡を継がせ様と画策しているとの噂もあったが、こちらも真実の様だ。
「分かりました。ロワンドに会いましょう」
「そうか行ってくれるか!」
私の言葉に歓喜する王族達、ここまで追い詰められていたのか。
「お願いがあります」
「言ってみよ、何でも叶えてあげましょう」
喜色満面の笑顔で姉は言った。
「ヌークを同行させて頂きたいのです」
「ヌークを?」
私の言葉に宰相のルークが顔を曇らせる。
意外な言葉だった様だ。
「しかしヌークは...」
言葉を濁すルーク、分かっている。
奴も私と同じ状態の筈だ。
勇者の加護を失い、みすぼらしい姿になっている事だろう。
「マリアに真実を告げるつもりか?」
姉が身を乗り出し尋ねる。
マリア、私の娘。
勇者ロワンドの子として育てられた王国随一の魔術の使い手。
今は聖国に寝返り圧倒的な魔力で王国を追い詰めていた。
「それも選択肢に」
「成る程」
姉や宰相、王族達は顔を合わせて笑う。
マリアの秘密、それはロワンドでは無くヌークの娘である事。
「宜しい、ヌークの同行を許可します」
「ありがとうございます」
よし、これで後腐れ無く死ねる。
悪夢の人生にようやく別れを告げる事が出来る。
数日後私はヌークと馬車に揺られていた。
加護を失い弛んだ体型のヌーク。
艶やかだった金髪は艶を失い、登頂部は完全に禿げ上がっていた。
何より変わったのは、
「へへへ、俺はヌーク様だへへへ」
両手足を失い。上半身だけ騎士団長の軍服に身を包んだヌーク。
下半身は剥き出しで椅子に括りつけられている。
糞尿は椅子に備え付けられた樽に落ちる仕掛けになっていた。
体を揺すりながら訳の分からない事をずっと言っている。
発狂したヌーク、もう正気に戻らないだろう。
[勇者の部下]と言う加護を失い、強さも無くしたヌークは部下から凄惨なリンチを受けた。
それはヌークのした事への報復。
部下の妻を寝取り、酷いの物になると部下の娘達まで毒牙にかけていた。
宰相の兄を後ろ楯に使いやりたい放題だったヌーク。
聖国と戦争になるとヌークの部下達は一斉に騎士団を離れ亡命した。
剣姫のカリーナを頼ったのだ。
これにより主力の王立騎士団は事実上壊滅した。
そして亡命前に彼等はヌークに意趣返しを行った。
両手足を切り裂き性器を引きちぎり止血を行う。
最後はヌークの全身に樹液を塗りたくり、亀虫が数万匹入った麻袋を被して行ったのだ。
栄えある王立騎士団のやる事では無いと王族は憤慨していたが手緩いと思う。
何故殺さなかったのだ?
この男にされた、いや王国にされた私の怨みを考えたら甘過ぎる。
涎を垂らすヌークを見ながら悔恨の過去を思い出す。
ヌークとの婚約は親が決めた物。
貴族の娘である宿命と諦めた。
しかし成長に伴いヌークは派手な女遊びを始める。
そんな愚痴を従妹のカリーナに吐き出す日々。
ある日勇者が神託された。
やって来たのはまだ12歳のロワンド。
王国は勇者を囲い込むため貴族に婚約者を募った。
条件は純潔である事。
まだ経験の無かった私は真っ先に手を挙げた。
特にロワンドに惹かれた訳では無い。
ただ彼の姿に穏やかな人生を夢見たのだ。
(カリーナは悔しがりながらも祝福してくれた)
そんなロワンドを私は裏切った。
でも言い訳をさせて欲しい。
純潔を失ったのはヌークに乱暴された事だ。
処女を失った事を知った実家は事実を隠蔽しロワンドに抱かれる様命じた。
拒めばよかった....他の人に、カリーナに婚約を譲れば良かったのだ。
しかし言い出せないまま2ヶ月後ロワンドと1夜を共にした。
12歳のロワンドに私が処女か否か等分かる筈も無い。
無事に逢瀬は終わり、ロワンドは魔王討伐に旅立ち事実は闇に葬れた筈だった。
ここで予想外の事が起きた。
私の妊娠、相手はヌーク。
悪夢は終わらなかった....
事実をロワンドに告げようと何度も手紙を書いた。
しかし手紙はロワンドに届く事は無かった。
私の実家が握りつぶしていたのだ。
「事実を知ってロワンドが魔王討伐に失敗したらどうするつもりだ?」
周りからそう言われ勇気を失った。
数ヵ月後早産と言う事にしてマリアは産まれた。
ロワンドは魔王討伐で不在。
立ち会ったのはヌーク、家族の許可無くては立ち会えぬ筈。
ここで愚かな私はやっと気がついた。
仕組まれていた。
思い返してみればロワンドの婚約に実家は反対しなかった。
ヌークが私を襲った時も、ヌークは罪に問われ無かった。
その後私の人生は実家の便利な道具だった。
国王陛下の後妻に姉がなれる様に裏工作に駆り出され大勢の権力者に抱かれた。
何度も妊娠をし、堕ろした。
捨て鉢になった私は酒に薬物に逃げた。
本来ならば体に負担が掛かる筈が加護のお陰で変化は無かった。
死にたいと思いながらロワンドの妻を演じる日々。
やがてロワンドが魔王討伐を果たした。
莫大な褒賞金が家に入る様になりやっと王族の娼婦の様な生活は終わった。
そんな私をヌークは飽きもせずに抱いた。
もうどうでも良い。
マリアは私を嫌い寮に逃げた。
完全に私の心は壊れていた。
そんなある日ロワンドと久し振りに顔を会わせた。
ロワンドは背曩を背負い鎧に身を固めていた。
入り婿のロワンドは旅の準備すら1人だったのだ。
「お出掛けですか?」
気まずさを抑えて聞いた。
「うん魔竜討伐に」
「ええ?」
魔竜討伐に1人で?
これには驚いた。
厄災の魔竜討伐に1人等死にに行く様な物では無いか!
「お辞め下さい、もしもの事が有りましたら」
さすがに止めた。
愛情からでは無い。ロワンドが死んでしまったら私は王族の娼婦に戻るのが怖かったのだ。
「大丈夫だよ、ありがとうアントネット」
心からの優しい笑みでロワンドは私を見つめた。
その時やっと気づいた。
ロワンドを裏切り続けて来た人生に。
操り人形の人生に。
...本当はロワンドを愛していた事に。
「お帰りになる日をお教え下さい」
「アントネット?」
「準備をしてお待ちしております」
決意は固まった。
この人を助けよう。
解放して差し上げよう。
カリーナが居れば大丈夫だ。
未だにロワンドを愛している彼女ならきっと救ってくれる。
「分かった、手紙を書くよ」
嬉しそうなロワンドに私は口づけをした。
「アントネット...」
「さようなら」
「うん、行ってきます!」
笑顔でロワンドは旅立だった。
後は知っての通りだ。
手紙でロワンドの帰宅する日を知り、朝からヌークを呼び出しひたすら抱かれた。
「これは...?」
裸で抱き合う私達にロワンドは崩れ落ちた。
「何見てるんだ?」
ヌークが勝ち誇った顔でロワンドを見る。
私は必死で作り笑顔を浮かべ無言でヌークの唇に吸い付く。
話す事が出来ない。
話したら私まで泣き崩れそうだ。
ロワンドが無言で扉を閉めて出ていくのをただ見送った。
(ごめんなさい!)
そう心で叫びながら。
「今日はここらで泊まりましょう」
馬車を操っていた馭者の言葉で我に返る。
「ご苦労様」
私は馭者に酒を渡した。
この男はタリスカー公爵の人間、酒に目が無いのは知っている。
「こりゃどうも」
嬉しそうにコルクを開け直接飲み干す。
物資が乏しい王国だ、久し振りの酒に我慢が出来なかったのだろう。
半分程飲むと馭者は崩れ落ちた。
「後は宜しく」
睡眠薬の入った酒瓶が足元に転がる。
馭者の懐に遺書と数枚の金貨、ハンブルグ聖国に託した手紙を入れる。
この男は信用出来る。
そう思って馭者に指名したが手紙をハンブルグ聖国に届けてくれるか分からない。
だがこれしか方法が無いのだ。
「お待たせ」
馬車に戻りヌークと再び2人になる。
「アハハハ....」
ヌークは相変わらず涎を垂らしながら笑っていた。
懐から小瓶を取り出しヌークの口に流しこむ。
「ンー!!」
ヌークの体が跳ねる。
吐き出さない様に口を押さえる。
手足の無いヌーク、暴れようにも体をくねらせるしか出来ない。
1分も経たない内に動かなくなった。
「すごいわね」
ヌークから手を離す。
涙を流し、だらしなく舌を出して息絶えたヌーク。
小瓶は王国から渡された物、交渉が決裂したらロワンドに飲ませろと命ぜられた毒薬。
「とことん腐ってるわね」
小瓶を投げ棄て短刀を取り出す。
宝玉が散りばめられた短刀、ロワンドと結婚した時に身につけていた物。
[夫の危機にはこの短刀で戦え、家名を汚した時はこの短刀で自裁せよ]
バンサロン王国、結婚式の伝統。
首筋に当てた刃を曳き下ろす。
血飛沫が馬車の中を染めた。
「....ロワンド....マリア」
2人の名前を呟きながら安らぎを感じ、意識が消失した。
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魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。
だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。
……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。
これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。
魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。
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勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。
だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、
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そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。
俺が死んでから始まる物語
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パーティでお荷物扱いされていたポーター(荷物運び)のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもないことは自分でも解っていた。
だが、それでもセレスはパーティに残りたかったので土下座までしてリヒトに情けなくもしがみついた。
余りにしつこいセレスに頭に来たリヒトはつい剣の柄でセレスを殴った…そして、セレスは亡くなった。
そこからこの話は始まる。
セレスには誰にも言った事が無い『秘密』があり、その秘密のせいで、死ぬことは怖く無かった…死から始まるファンタジー此処に開幕
魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた
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「お前は我が家の恥だ」――。
名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。
絶望の中、彼が死の淵で思い出したのは、物理学者として生きた前世の記憶。そして覚醒したのは、魔法とは全く異なる、世界の理そのものを操る力――【概念置換(コンセプト・シフト)】。
運動エネルギーの法則【E = 1/2mv²】で、小石は音速の弾丸と化す。
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そして、相対性理論【E = mc²】は、神をも打ち砕く一撃となる。
これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。
「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」
知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。
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