悪役令嬢としての役割、立派に努めて見せましょう〜目指すは断罪からの亡命の新しいルート開発です〜

水月華

文字の大きさ
21 / 112
第1章

21.平和な時間は終わりが見えてきました


 テスト前から期間中はとても平和だった。

 何せ皆自分のことで精一杯で、コレットやレティシアにどうこうしようなんて輩が現れなかったのである。

 ジュスタンすらも、3年生で最後のテストということで静かだったから、快適だった。

 もう、毎日テストしててくれないかな、なんて考えるほどである。

 レティシアも勉強をしながら、今度はバレないようにコレットを観察していた。コレットも勉強に集中出来ているようで何よりだ。
 
 ちなみにレティシアの勉強内容は、学園のことでは無い。

 ロチルド商会とこの間話していた、家のことである。

 レティシアのアドバイス通り加工品から攻めることにしたらしく、時折試作品の確認を頼まれる。

 味だけはルネやジョゼフに頼んで確認してもらっているが、その他出来る範囲で良いものになるように頑張っている。

 今度、いよいよ領主に話を持っていくらしい。
 前回の手ごたえの無さで、向こうはあまり期待して無かったらしく、今回は会うことすら中々辿り着けなかったらしい。

 試行錯誤する商会の皆を見ていると、レティシアも頑張ろうと思えて、今ももっと良い案は無いかと考えている真っ最中だ。

 商売のことは詳しく無いので、その基礎など学ぶことが多い。お陰でやりたいことが多く、大変充実していた。

 勿論、テストに向けての勉強をしていない訳ではないが、比重としては少ない。

 復習だけで、ある程度問題ないのだ。ただ流石に学園でその勉強をしていては、どんな噂が立つか分かったものではないので、今は復習をしている。

 けれどいかんせん熱量が違うので、集中力が続かない。

 一区切りついた事もあり、レティシアは亡命計画について考えていた。

(このテストが終われば、わたくし達は3年生になりますわ……。今のところ、1番避けたい処刑フラグは回避出来たと思いますし、順調と思って良さそうですね)

 思うとジルベールルートは展開が早い。

 けれど内容はとても濃い内容なので、イーリスの祝福では不満は無かった。

 一応、進級するまで安心は出来ないが、イーリスの祝福のイベントを鑑みれば問題ないだろう。

 何せ、ジルベールと婚約破棄をしていないし、コレットの暗殺計画も立てていない。

 これでは処刑しようがない。

(それにしても、コレット様は今は誰と好感度が一番高いのでしょうか? 噂のことを考えると、マルセル様が可能性が高いですわ。けれどあれ以来一緒にはいないようですし、真相は分かりませんわ。……そう言えばジルベール殿下も、記憶が戻る前と同じ距離感に戻りましたわね。良かった、これで余計なことを考えなくて済みます)

 公衆の面前で拒絶して以来、何かと接触を図ってきていたジルベールも、レティシアに絡んでこなくなった。

 あれだけ拒絶すれば、流石に愛想を尽かしたのだろう。

 よく考えれば、定期的にあったお茶会も呼ばれなくなっている。前以上に希薄な関係になれているのではないだろうか。
 
(という事は、私の計画は順調に進んでいるという事でしょうか。まだまだ油断できませんが、ここまで順調に行くなんて。もしかして転生ボーナス的なもの? イーリス様がわたくしにお恵みをしているのでしょうか)
 
 実際はレティシアの真意を知るために、接触を避けて静観しているという事なのだが、当の本人は何も気がついていない。

 順調どころか、真逆に進んでいることなど想像だにしていないのだ。


 ◇◇◇


 ずっと続いて欲しいと思っていた、平和な時間はあっという間に過ぎていく。

 テスト期間が終わり、その結果が発表された。
 順位が掲載されている掲示板には、多くの生徒が集まっていた。今までの努力の結果を早く知りたいと、我先にと首を伸ばしている。

 レティシアのいるところは、少し遠い。近くに行こうとすれば、モーゼのように人波が割れてしまう。それを避けたくて、敢えて少し遠い場所にいる

 それでも自分の順位を確認するのに、苦労はなかった。

 何故なら1位・2位は変わる事なく、ジルベールとレティシアだったからだ。

 そして3位はコレット。元々成績の良い彼女だが、今回は今までで一番よい順位だ。特待生を維持しているだけある、努力家だ。

(コレット様、本当に頑張ってらっしゃったもの。当然の結果ですわね。あ、そうだ。オデット様、あんなに大口叩いていたんですもの。今回順位は上がっているのかしら?)

 教えてもらう人がいるからと豪語していたオデットは、もしかしたら上位にいるかもしれない。万が一、いや億が一くらいだろうけれど。

 人の隙間を見極めて、上から順繰りに名前を見ていく。側近候補のドミニクとマルセルの名前を途中で発見しつつ、最後まで確認してもオデットの名前はなかった。

 掲示板には、上位50名の名前が載る。その50位は学年の人数の大体半分ほど。

 即ち、オデットは半分より下の成績ということを表している。

(やっぱりね……。正直、そうだと思っていましたわ。彼女、どう見ても勉強苦手ですし)

 とはいえブローニュ伯爵家の醜聞を考えたら、いい加減何かしら対処した方が良いくらいではないかと呆れ気味に思っていると、そのオデットがやってきた。

「あ、レティシアさまぁ、探しましたわぁ」
「ごきげんよう」

 一度掲示板にちらりと視線を送る。その表情が凶悪に歪んだのをみて、レティシアは嫌な予感がした。

「それにしても、相変わらずレティシア様はご立派ですわねぇ。今回も2位ですかぁ」
「ありがとうございます。けれど殿下には及びませんわ」
「でも、おかしいと思いません?」
「何がでしょうか?」
「だってぇ。3位が平民ですよぉ? しかも色々噂があるあの!」

 その言葉から、急にオデットの声が大きくなる。意図して周りに聞かせるようだ。

 そして掲示板を見にきていた、コレットに吸い寄せられるように皆の視線が集中する。

 ニヤリと笑いながら、オデットは続けた。

「あの平民、高貴な方と恐れ多くも噂になっていましたし、きっとこの順位だって何か裏があると思いませんかぁ?」

(てっきり、わたくしに対して嫌味を言いにきたのかと思ったら……コイツ、まだコレット様にちょっかいかけようとしてるのか。反省の色ないな)

 似たようなことで、レティシアが怒ったことを忘れているのだろうか。

 逆鱗に触れたレティシアにあんなに怯えていたくせに。そしてそれをレティシアに言うなんて、どんな強心臓なのだ。

 とりあえず反省していないのなら、また脅せばいいかとレティシアは考えた。

「まあ、それはおかしいですわね」
「そうでしょう⁉︎」

 それに同意を示したレティシアに、オデットは歓喜の声を上げる。高くなった声が耳障りだ。

 周りも聞いていたのか、ザワッとした空気が広がりコレットに冷たい視線が突き刺さる。

 この学園の人たちって馬鹿なのかな、とレティシアは思いながら続けた。

「まさか、公平に厳しい学園長がそんなこと、許すはずがありませんもの」
「ええ、そんなこと許しては……え?」

 オデットは、レティシアの話を聞いているようで聞いていない。最初は嬉しそうにしていたが、遅れてレティシアの反応が思ったものではないと気がついたらしい。

 またきょとんとした顔をしている。

(周りの生徒もオデット様も……わたくしの今までの言動を省みれば、想像つくでしょうに。なぜ学ばないのでしょう。不思議でなりませんわ)

「オデット様、それが事実であればこれは大問題ですわ。すぐにでも学園長に報告して、調査して頂かないといけませんわ」
「え、それは……」

 レティシアの提案に、僅かにオデットの顔色が悪くなる。

 ここに来て、ようやく不味いと思ったのだろう。あまりにも遅い。
 
「さあ、わたくしにそう言うのであれば、もう証拠があるのでしょう? 今すぐ行きましょう。こういったことはすぐに行動しないと、誤魔化されてしまいますもの」
「い、今ですか?」
「もちろんですわ。ああでも、それが虚偽であったなら……それも学園長はお怒りになるでしょうねぇ……。学園の威信に関わりますもの」

 最後のところは、オデットにだけ聞こえるように言う。

 その言葉がトドメになったのか、オデットは慌てたように言った。

「わ、私、この後用事がありますの。残念ですがご一緒できませんわ」
「あら、そうなのですか? 残念ですわ」
「ほほほ。では失礼しますわ」

 あまりにも分かりやすい行動に、レティシアは笑いを堪える。

 周りも途中からぼそぼそ会話をする2人に興味を失ったらしく、また各々掲示板を眺めたり、喜んだり、悔しがったりとしている。

(全く、こんなところで騒ぎを起こさないで欲しいですわ。オデット様もここまでわたくしが色々言っているのに、堪えていないようですし。まさに暖簾に腕押しですわ。……それにしても、直接お話ししたこともない学園長の名前を、わたくしは一体何度出しているのかしら。流石にそろそろ苦情がきてもおかしくない気がしてきました)

 虎の威を借る狐状態である。

 それでも、厄介な生徒達を黙らせるにはこれが効いてしまうのだから仕方ない。

 それほど学園長の恐ろしさは、皆が知っていることなのである。

 いや、知っているならそもそも問題を起こすなと、レティシアは声を大にして言いたい。

(まあ、今は良いですわ。そのお陰で害がなくなるのですし、許していただきましょう。……あら。なんだか、また視線を感じますわ)

 顔を上げると見つけられなかった前回とは違い、すんなり見つけることができた。

 視線の先には先ほど冤罪をかけられていたコレットが、こちらを見つめていたのである。

 何を思っているのか、その表情からはレティシアは読み取れない。何かを見通す様でもあり、何かを探る様でもあった。

 レティシアはそのコレットの表情を読み取ろうとも、分かろうとも思わない。

 何故なら、2人の関係はヒロインと悪役令嬢だから。そう言い聞かせて。

 なんのアクションも起こしてこないのを見て、スイと視線をずらしてその場からレティシアは去った。

「あ、今のは睨んだ方が良かった……。しまった……」

 少ししてから、悪役令嬢の動きをしていなかったのでは? と気がついたが、今更戻れないので諦めた。

 大丈夫だろう。最近の生徒達の様子は、どう足掻いてもレティシアは悪く見られているのだから。

 それよりも気を引き締めて、これからに備えようとレティシアは拳を握るのだった。
感想 1

あなたにおすすめの小説

転生ガチャで悪役令嬢になりました

みおな
恋愛
 前世で死んだと思ったら、乙女ゲームの中に転生してました。 なんていうのが、一般的だと思うのだけど。  気がついたら、神様の前に立っていました。 神様が言うには、転生先はガチャで決めるらしいです。  初めて聞きました、そんなこと。 で、なんで何度回しても、悪役令嬢としかでないんですか?

悪役令嬢の心変わり

ナナスケ
恋愛
不慮の事故によって20代で命を落としてしまった雨月 夕は乙女ゲーム[聖女の涙]の悪役令嬢に転生してしまっていた。 7歳の誕生日10日前に前世の記憶を取り戻した夕は悪役令嬢、ダリア・クロウリーとして最悪の結末 処刑エンドを回避すべく手始めに婚約者の第2王子との婚約を破棄。 そして、処刑エンドに繋がりそうなルートを回避すべく奮闘する勘違いラブロマンス! カッコイイ系主人公が男社会と自分に仇なす者たちを斬るっ!

悪役令嬢でも素材はいいんだから楽しく生きなきゃ損だよね!

ペトラ
恋愛
   ぼんやりとした意識を覚醒させながら、自分の置かれた状況を考えます。ここは、この世界は、途中まで攻略した乙女ゲームの世界だと思います。たぶん。  戦乙女≪ヴァルキュリア≫を育成する学園での、勉強あり、恋あり、戦いありの恋愛シミュレーションゲーム「ヴァルキュリア デスティニー~恋の最前線~」通称バル恋。戦乙女を育成しているのに、なぜか共学で、男子生徒が目指すのは・・・なんでしたっけ。忘れてしまいました。とにかく、前世の自分が死ぬ直前まではまっていたゲームの世界のようです。  前世は彼氏いない歴イコール年齢の、ややぽっちゃり(自己診断)享年28歳歯科衛生士でした。  悪役令嬢でもナイスバディの美少女に生まれ変わったのだから、人生楽しもう!というお話。  他サイトに連載中の話の改訂版になります。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

生まれ変わりも楽じゃない ~生まれ変わっても私はわたし~

こひな
恋愛
市川みのり 31歳。 成り行きで、なぜかバリバリのキャリアウーマンをやっていた私。 彼氏なし・趣味は食べることと読書という仕事以外は引きこもり気味な私が、とばっちりで異世界転生。 貴族令嬢となり、四苦八苦しつつ異世界を生き抜くお話です。 ※いつも読んで頂きありがとうございます。誤字脱字のご指摘ありがとうございます。

悪役令嬢の生産ライフ

星宮歌
恋愛
コツコツとレベルを上げて、生産していくゲームが好きなしがない女子大生、田中雪は、その日、妹に頼まれて手に入れたゲームを片手に通り魔に刺される。 女神『はい、あなた、転生ね』 雪『へっ?』 これは、生産ゲームの世界に転生したかった雪が、別のゲーム世界に転生して、コツコツと生産するお話である。 雪『世界観が壊れる? 知ったこっちゃないわっ!』 無事に完結しました! 続編は『悪役令嬢の神様ライフ』です。 よければ、そちらもよろしくお願いしますm(_ _)m

人見知りと悪役令嬢がフェードアウトしたら

渡里あずま
恋愛
転生先は、乙女ゲーの「悪役」ポジション!? このまま、謀殺とか絶対に嫌なので、絶望中のルームメイト(魂)連れて、修道院へ遁走!! 前世(現代)の智慧で、快適生活目指します♡ 「この娘は、私が幸せにしなくちゃ!!」 ※※※ 現代の知識を持つ主人公と、異世界の幼女がルームシェア状態で生きていく話です。ざまぁなし。 今年、ダウンロード販売を考えているのでタイトル変更しました!(旧題:人見知りな私が、悪役令嬢? しかも気づかずフェードアウトしたら、今度は聖女と呼ばれています!)そして、第三章開始しました! ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

【完結】成り上がり令嬢暴走日記!

笹乃笹世
恋愛
 異世界転生キタコレー! と、テンションアゲアゲのリアーヌだったが、なんとその世界は乙女ゲームの舞台となった世界だった⁉︎  えっあの『ギフト』⁉︎  えっ物語のスタートは来年⁉︎  ……ってことはつまり、攻略対象たちと同じ学園ライフを送れる……⁉︎  これも全て、ある日突然、貴族になってくれた両親のおかげねっ!  ーー……でもあのゲームに『リアーヌ・ボスハウト』なんてキャラが出てた記憶ないから……きっとキャラデザも無いようなモブ令嬢なんだろうな……  これは、ある日突然、貴族の仲間入りを果たしてしまった元日本人が、大好きなゲームの世界で元日本人かつ庶民ムーブをぶちかまし、知らず知らずのうちに周りの人間も巻き込んで騒動を起こしていく物語であるーー  果たしてリアーヌはこの世界で幸せになれるのか?  周りの人間たちは無事でいられるのかーー⁉︎