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イケメン神主の忠告
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私は社務所での作業を再開する。
お守りの袋に、それぞれ中身を入れていってプラスチックの透明な袋に詰める仕事だ。
袋を綴じる和紐が変わった結び方だったり、色がカラフルだったりでとても可愛い。
少し難しい結び方なので、時間がかかるのだけが難点だけど。
とにかく丁寧に、というのを心がけて内職をしていると、ふと、影が差した。
今度こそ参拝の人だろうかと思って顔を上げる。
そこには思いがけない人が私を見下ろしていた。
白衣に浅黄色の袴。
つやつやとした短いめの黒髪。
涼やかな目許。
この村に初めて来た日、出会った神主さん。
「……」
私は驚いたあまりに、ポカンと彼を見上げて硬直してしまった。
また、夢を見ているのかと思ったからだ。
彼は静かに私を見下ろしている。
「……本当に贄の神事に出るつもりか」
あの日聞いた、バリトンが静かに私に問いを向けた。
なんだか混乱してしまって、何を聞かれたのか分からなくなる。
あの日と違って、私は今はもうこの神社には蓮川さん以外に神主さんはいないことを知っている。
だとしたら、彼は部外者の筈なのだけど。
何者なのですか、とずっと訊きたいと思っていたのに。
いざとなったら、訊けなかった。
あまりにも彼が堂々としているせいもあったけれど。
「あの……先日は、助けていただいてありがとうございました」
咄嗟に出てきた言葉は、とにかく一番に伝えようと思っていたことだ。
でも、問いかけの答えにはなっていない。
それに少し、彼が眉を寄せる。
「そんなことは……。いや、うん。それはいいのだが。お前は贄の神事に、出るつもりなのか」
あらためてそう訊かれて、私は少し戸惑う。
なぜ彼がそんなことを気にするのだろうか。
そもそも、神事に出るとかいうことを知っているのは松里さんから聞いたのだろうか。
やっぱり、あの時、話していたのはこの人なのだろうか。
疑問はたくさん浮かんだが、機嫌を悪くした様子の方が気になってしまう。
「それは、その……仕事ですし」
当たり障りないように答えると、今度はあからさまにイケメン神主さんは表情を曇らせた。
「──やめておけ」
「どうしてですか……?」
「どうしてもだ」
あ、なんだかちょっと、上から目線だ。
実際に見下ろされているのもあって、私は小さくなる。
「理由もなく、この仕事は嫌ですとは言えないです……」
「俺が許す」
「……はい?」
思いもかけないことを言われて、私は返事に困った。
俺が許すって、あなたは私の雇い主ではないですよね……。
ああでも、このツンとした感じには覚えがある。
何かに似ている。
考えながら、私は俯いてしまった。
「あの……私、このお仕事、やっと見つけたお仕事で。大切に勤めたいと思ってるんです。だから、関係のない方にやめろって言われても、困ります。それに雇ってもらえたのは私の祖母の信用があってのことなので。それを裏切るなんてできま」
せん、と顔を上げようとした。
そこで、私はさっきまで目の前に居た彼の姿が見えなくなっていることに気づいた。
……すごく頑張って主張してたんだけど聞いてなかったとか酷くないですか。
「えっ、ちょっ……どこに行ったんですか!」
あわてて受付窓から身を乗り出すようにして、辺りを見回す。
けれど、白衣に浅黄の袴をつけた神主姿はどこにも見つけられなかった。
「……!?」
代わりのように、風で転がってきた段ボール箱に向かって走っていく、汐の後ろ姿が見えた。
いつの間に戻ってきたんだろう。
あ、あれって蓮川さんが纏めておいたゴミだ。
紐がほどけちゃって転がってきたんだな。
汐はすごい勢いで走る。
猫って本当にああいうものが好きだよね。
本能のままに空き箱に疾走していった汐は、ずざ、と中に駆け込む。
やや小さい段ボール箱は、汐が入ると手足がはみ出していた。
汐は興奮のままに、段ボール箱をまとった姿で暴れまわっている。
あまりにも激しいはしゃぎっぷりに、私は呆然と見入ってしまった。
というか段ボールから手足の生えた猫、かなり面白い。
「……」
い、いや、それより神主さんはどこに?
しばらくして私は我に返り、周囲を探した。
けれど、まるで煙のように彼の姿はそこから消え失せていた。
……どういうことなのだろう。
やはり、夢でも見ていたのだろうか。
なにより、やめておけ、と言われたことが気になってしまう。
あれはどういう意味だったのだろう。
贄の神事というものには、何か悪い事でもあるのだろうか……。
私は抵抗する汐から段ボール箱を引き剥がしながら、ひどく陰鬱な気分になった。
お守りの袋に、それぞれ中身を入れていってプラスチックの透明な袋に詰める仕事だ。
袋を綴じる和紐が変わった結び方だったり、色がカラフルだったりでとても可愛い。
少し難しい結び方なので、時間がかかるのだけが難点だけど。
とにかく丁寧に、というのを心がけて内職をしていると、ふと、影が差した。
今度こそ参拝の人だろうかと思って顔を上げる。
そこには思いがけない人が私を見下ろしていた。
白衣に浅黄色の袴。
つやつやとした短いめの黒髪。
涼やかな目許。
この村に初めて来た日、出会った神主さん。
「……」
私は驚いたあまりに、ポカンと彼を見上げて硬直してしまった。
また、夢を見ているのかと思ったからだ。
彼は静かに私を見下ろしている。
「……本当に贄の神事に出るつもりか」
あの日聞いた、バリトンが静かに私に問いを向けた。
なんだか混乱してしまって、何を聞かれたのか分からなくなる。
あの日と違って、私は今はもうこの神社には蓮川さん以外に神主さんはいないことを知っている。
だとしたら、彼は部外者の筈なのだけど。
何者なのですか、とずっと訊きたいと思っていたのに。
いざとなったら、訊けなかった。
あまりにも彼が堂々としているせいもあったけれど。
「あの……先日は、助けていただいてありがとうございました」
咄嗟に出てきた言葉は、とにかく一番に伝えようと思っていたことだ。
でも、問いかけの答えにはなっていない。
それに少し、彼が眉を寄せる。
「そんなことは……。いや、うん。それはいいのだが。お前は贄の神事に、出るつもりなのか」
あらためてそう訊かれて、私は少し戸惑う。
なぜ彼がそんなことを気にするのだろうか。
そもそも、神事に出るとかいうことを知っているのは松里さんから聞いたのだろうか。
やっぱり、あの時、話していたのはこの人なのだろうか。
疑問はたくさん浮かんだが、機嫌を悪くした様子の方が気になってしまう。
「それは、その……仕事ですし」
当たり障りないように答えると、今度はあからさまにイケメン神主さんは表情を曇らせた。
「──やめておけ」
「どうしてですか……?」
「どうしてもだ」
あ、なんだかちょっと、上から目線だ。
実際に見下ろされているのもあって、私は小さくなる。
「理由もなく、この仕事は嫌ですとは言えないです……」
「俺が許す」
「……はい?」
思いもかけないことを言われて、私は返事に困った。
俺が許すって、あなたは私の雇い主ではないですよね……。
ああでも、このツンとした感じには覚えがある。
何かに似ている。
考えながら、私は俯いてしまった。
「あの……私、このお仕事、やっと見つけたお仕事で。大切に勤めたいと思ってるんです。だから、関係のない方にやめろって言われても、困ります。それに雇ってもらえたのは私の祖母の信用があってのことなので。それを裏切るなんてできま」
せん、と顔を上げようとした。
そこで、私はさっきまで目の前に居た彼の姿が見えなくなっていることに気づいた。
……すごく頑張って主張してたんだけど聞いてなかったとか酷くないですか。
「えっ、ちょっ……どこに行ったんですか!」
あわてて受付窓から身を乗り出すようにして、辺りを見回す。
けれど、白衣に浅黄の袴をつけた神主姿はどこにも見つけられなかった。
「……!?」
代わりのように、風で転がってきた段ボール箱に向かって走っていく、汐の後ろ姿が見えた。
いつの間に戻ってきたんだろう。
あ、あれって蓮川さんが纏めておいたゴミだ。
紐がほどけちゃって転がってきたんだな。
汐はすごい勢いで走る。
猫って本当にああいうものが好きだよね。
本能のままに空き箱に疾走していった汐は、ずざ、と中に駆け込む。
やや小さい段ボール箱は、汐が入ると手足がはみ出していた。
汐は興奮のままに、段ボール箱をまとった姿で暴れまわっている。
あまりにも激しいはしゃぎっぷりに、私は呆然と見入ってしまった。
というか段ボールから手足の生えた猫、かなり面白い。
「……」
い、いや、それより神主さんはどこに?
しばらくして私は我に返り、周囲を探した。
けれど、まるで煙のように彼の姿はそこから消え失せていた。
……どういうことなのだろう。
やはり、夢でも見ていたのだろうか。
なにより、やめておけ、と言われたことが気になってしまう。
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贄の神事というものには、何か悪い事でもあるのだろうか……。
私は抵抗する汐から段ボール箱を引き剥がしながら、ひどく陰鬱な気分になった。
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