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猫の神様の正体
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「やまのかみ……?」
聞き慣れない言葉に私は繰り返して、周りにいる獣たちを見回した。
神様……この動物たちが?
たしかに、普通の動物とは違うのはわかった。
だって普通なら、こんな狭い場所でいろんな動物同士がいて、おとなしくしているなんてできないだろう。
天敵同士だっているかもしれない。
よくよく見れば、部屋の外にも鹿やクマがいるのが見えた。
おそらくは、大きすぎて室内に入りきらなかったのだろう。
……というか、クマ!?
クマはちょっと別の意味でパニックになりそう。
そう思ったのだけど、山の神さまたちは、一様にどこかすまなさそうに俯いている。
暗闇の中では、怖かったけど。
明かりのもとで見ると、彼らに害意がないことは感じ取れた。
よかった、敵意はないんだ……。
そう思うと、一気に気が抜けてしまう。
私はその場に、くったりと倒れ伏した。
そうして込み上げたものに、ぐっと唇を噛む。
「さ……里ちゃん!?どうしたの」
「ご、ごめんなさい……安心したら、一気に何か色々……」
──怖かった。
本当に怖かったのだけど、もう大丈夫なんだ。
私の様子を見て、松里さんがひどくしょげたように言う。
「ごめんなさいね……ちょっと、怖がらせすぎたわ」
「ううん、もう平気です。……人型になれるってことは、松里さんも本当は何かの動物で、山の神様なんですか」
「そうよ。アタシは狐」
松里さんはそう言うと、汐の方を見る。
汐はつんと顔を背けたまま、私たちの方を見ようともしていなかった。
そのままするりと、私の背後の闇の中に隠れてしまう。
撫でてください、と言わされたことがかなりこたえているようだった。
完全に拗ねている。
ただし存在アピールとして私の背中に鼻先をちょんとつけている様子が、なんだか可愛い。
うん、ちゃんとそこにいるんだね。
「もう、感じ悪いわねえ。生気の交感はアタシたちには必要なものなのに。いつまでもグズグズして言わない方が悪いんでしょ」
松里さんは汐の態度におかんむりだ。
だが、汐は完全無視の態度を貫く。
松里さんは呆れたようにため息をついて、肩をすくめた。
「ま、今日のところは帰るわ。説明は今度にしましょ。里ちゃん、家まで送るから……」
「俺が送る」
そこではじめて汐が松里さんに口を開いた。
松里さんは驚いたように瞬きしてから、ふうん、と呟く。
それからにんまりと笑う様子は、いかにも狐っぽい。
「そ。じゃあ任せるわね。送りオオカミにならないように……あ、猫だっけ」
余計なことを言うもんだから、背後で汐が毛を逆立てる。
な、仲良くしようよ……、二人とも。
私はちょっと苦笑いして出ていく山の神様たちを見送った。
ハムスターの神様が、ちょろりと駆け寄ってきて、ちっちゃな手で私の膝の上を叩く。
おやすみなさいの挨拶らしい。
可愛いなあ。
それらを見送って、部屋に残ったのは私と汐だけになった。
少し、シンとしてしまった空気に、少しだけ戸惑う。
何を話せばいいんだろう。
「あ……あの……。懐中電灯は持ってるから。一人で帰れます」
言って振り返ろうとすると、背後の黒い影がゆらりと揺れた。
蠟燭の炎に、揺れる闇色。
「祭事の夜は、神気がざわつく。おとなしく、ついてこい」
落ち着いた低音。
そして私の背後には、いつのまにか黒猫ではない人の姿があった。
思わず、これ以上にないくらい瞳を見開く。
白衣に浅黄の袴。
つやつやの黒髪。
端正な面差し。
「……」
私はポカンと口を開けて、その人に見入っていた。
……謎の、神主さん?
え……汐は?
聞き慣れない言葉に私は繰り返して、周りにいる獣たちを見回した。
神様……この動物たちが?
たしかに、普通の動物とは違うのはわかった。
だって普通なら、こんな狭い場所でいろんな動物同士がいて、おとなしくしているなんてできないだろう。
天敵同士だっているかもしれない。
よくよく見れば、部屋の外にも鹿やクマがいるのが見えた。
おそらくは、大きすぎて室内に入りきらなかったのだろう。
……というか、クマ!?
クマはちょっと別の意味でパニックになりそう。
そう思ったのだけど、山の神さまたちは、一様にどこかすまなさそうに俯いている。
暗闇の中では、怖かったけど。
明かりのもとで見ると、彼らに害意がないことは感じ取れた。
よかった、敵意はないんだ……。
そう思うと、一気に気が抜けてしまう。
私はその場に、くったりと倒れ伏した。
そうして込み上げたものに、ぐっと唇を噛む。
「さ……里ちゃん!?どうしたの」
「ご、ごめんなさい……安心したら、一気に何か色々……」
──怖かった。
本当に怖かったのだけど、もう大丈夫なんだ。
私の様子を見て、松里さんがひどくしょげたように言う。
「ごめんなさいね……ちょっと、怖がらせすぎたわ」
「ううん、もう平気です。……人型になれるってことは、松里さんも本当は何かの動物で、山の神様なんですか」
「そうよ。アタシは狐」
松里さんはそう言うと、汐の方を見る。
汐はつんと顔を背けたまま、私たちの方を見ようともしていなかった。
そのままするりと、私の背後の闇の中に隠れてしまう。
撫でてください、と言わされたことがかなりこたえているようだった。
完全に拗ねている。
ただし存在アピールとして私の背中に鼻先をちょんとつけている様子が、なんだか可愛い。
うん、ちゃんとそこにいるんだね。
「もう、感じ悪いわねえ。生気の交感はアタシたちには必要なものなのに。いつまでもグズグズして言わない方が悪いんでしょ」
松里さんは汐の態度におかんむりだ。
だが、汐は完全無視の態度を貫く。
松里さんは呆れたようにため息をついて、肩をすくめた。
「ま、今日のところは帰るわ。説明は今度にしましょ。里ちゃん、家まで送るから……」
「俺が送る」
そこではじめて汐が松里さんに口を開いた。
松里さんは驚いたように瞬きしてから、ふうん、と呟く。
それからにんまりと笑う様子は、いかにも狐っぽい。
「そ。じゃあ任せるわね。送りオオカミにならないように……あ、猫だっけ」
余計なことを言うもんだから、背後で汐が毛を逆立てる。
な、仲良くしようよ……、二人とも。
私はちょっと苦笑いして出ていく山の神様たちを見送った。
ハムスターの神様が、ちょろりと駆け寄ってきて、ちっちゃな手で私の膝の上を叩く。
おやすみなさいの挨拶らしい。
可愛いなあ。
それらを見送って、部屋に残ったのは私と汐だけになった。
少し、シンとしてしまった空気に、少しだけ戸惑う。
何を話せばいいんだろう。
「あ……あの……。懐中電灯は持ってるから。一人で帰れます」
言って振り返ろうとすると、背後の黒い影がゆらりと揺れた。
蠟燭の炎に、揺れる闇色。
「祭事の夜は、神気がざわつく。おとなしく、ついてこい」
落ち着いた低音。
そして私の背後には、いつのまにか黒猫ではない人の姿があった。
思わず、これ以上にないくらい瞳を見開く。
白衣に浅黄の袴。
つやつやの黒髪。
端正な面差し。
「……」
私はポカンと口を開けて、その人に見入っていた。
……謎の、神主さん?
え……汐は?
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