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第二部
第78話:黒田、はしゃぎすぎる
騎士団遠征の朝は早く、日が昇ると同時に各班に分かれて動き始めた。
まずは周辺の環境調査である。
学園で気候や環境を学ぶ機会があるけれど、実際に目で見て確認することは重要だ。そういった経験が脳に刷り込まれて、記憶に刻まれるのだから。
ただ、オタクの私は例外になる。
「見て。シュロトルス・ハイビスカスよ。アースウルフが食べると体内で毒に変換されるけれど、人が触っても何も問題はないの」
「クロエ様、よくご存知ですね」
誰よりも目を輝かせる私は、大はしゃぎしている自覚があった。
アルヴィが聞き上手なのか、とても親身になって聞いてくれる。それだけで幸せな気持ちになり、もっと教えたくてたまらなくなってしまう。
何より、推しとの遠足に浮かれていた。
治療師の役目をルビアが代わってくれて、本当によかったわ。幸せすぎると略奪スイッチを踏まないか心配になるけれど、言い出しっぺはルビアだもの。
難しいことを考えるより、今を楽しむべきよ。略奪されそうになったら、潔く捧げるくらいの気持ちで、一生分楽しみましょう。
完全に吹っ切れた私は、それはもう、大いに楽しんでいる。推しを独占しているという高揚感が背中を押し、朝はアルヴィとの時間を大切にすると決めていた。
「見て、アルヴィ。このヨモギみたいな葉は、ネストローレ・ワサビよ。クセのある肉と一緒に食べると、おいしく食べられると辞典に書いてあったわ」
「とても有用な野草ですね。ぜひ採取しておきましょう」
どうしてもイノシシの肉が口に合わないアルヴィは、とても真剣だった。
愚痴を言うことはなくても、予想以上に苦しい思いをして食べていたのかもしれない。よって、黒田の好感度が上がったのは間違いないだろう。
なお、イノシシの肉を食べるように勧めているのも黒田なので、これでプラスマイナスゼロにしてほしい。
さりげなくジグリッド王子が野草の採取を手伝い始める頃、アルヴィが遠くの方を指で差す。
「あの花はルビア様が好きそうですね」
確認してみると、そこには綺麗な花を咲かせるピンク色のタンポポがあった。
よくわかったわね、アルヴィ……。本人に確認したわけじゃないけれど、ルビアが喜ぶことは間違いなしよ。
だって、あの花の花言葉は『略奪愛』なのだから。
「気を付けて。あれはプランドダンデライオンよ。決して近づいてはいけないわ」
「どうしてですか? とても綺麗な花だと思いますが」
「そういう問題ではないの。ここは離れた方がいいわ」
真剣な表情で訴え、ここは危険地帯だと認識して、他の場所の調査に向かうのだった。
***
昼ごはんを食べ終えると、大はしゃぎの黒田がさらに元気になってしまった。
近くの川に水を汲みに行くという重労働でさえ、足が軽くなるほどに。
「あっちに川があるわ! グレン、早く来ないと護衛対象とはぐれるわよ!」
タタタッと駆け出す私は、完全にキャラが崩壊しているだろう。若かりし頃の黒田が現れ、もう楽しくて楽しくて仕方がない。
「ジグリッド、あれはどっちだ?」
「クロエ嬢だ」
「そうか。やっぱり見分けがつかん」
なんだかんだで走って付いてくるグレンを見て、高揚感が止まらない。
犬属性を持ったグレンがついてきてくれる。これが、これが……ドッグランで走る飼い主の気持ち!
きっとルビアが調教してくれたおかげね。普段はルビアとどんなことをしているのかしら。
「ねえ、グレン。いつもルビアと――」
急に立ち止まって振り向いた、その時だった。予想以上にグレンの足が速く、ドンッとぶつかり、転ばないように抱き締められてしまったのは。
「きゅ、急に止まるな。あ、危ないだろう」
「ご、ごめんなさい。少しはしゃぎすぎてしまったわ」
危ない……。前回のお姫様抱っこで推し成分過剰失神の経験をしていなかったら、死んでいたかもしれないわ。どんな理由があろうとも、推しに抱き締められるなんて即死案件だもの。
本当によかったわ、推し成分に抗体ができていて。
ただ、どうしても抱き締められたまま見つめられると、その至近距離にやられしまうわけであって……。
「もう離れてもいいんじゃないか、グレン」
ムスッとしたジグリッド王子に止められてしまう。互いにサッと離れるのは、恥ずかしいだけだ。
ちょっぴり顔が赤いグレンを見れば、さすがに私も彼の気持ちに気づいてしまう。
しっかりとルビアルートに入っている、と。
まだ双子の区別がつかないくらいだし、ルビアだと誤解したのよ。だって、剣術大会の決勝の後、二人は抱き合って慰めるシーンがあるから。その時のことがフラッシュバックして、照れているに違いないわ。
「……先に水を汲むぞ」
これだけ照れているのなら、私の推理は間違いない。ルビアの頑張りが実り、二人の恋は開花したと考えるべきだ。
私の知らないところで頑張ったのね、ルビア。こんなところで妹の成長を感じるなんて、不思議な気持ちになるけれど、嬉しいわ。
順調に逆ハールートに入っていることを認識して、うんうんっと頷いていると、珍しく挙動不審な動きをするジグリッド王子に顔を向けられた。
「クロエ嬢、今夜は何があるか知っているか?」
「今夜……? 何もなかったんじゃないかしら。見張りも休みだったはずよね」
「それはそうなんだが、今日は月蝕が見られるみたいだ」
そういえば、学園の屋上でアルヴィとごはんを食べている時、似たようなことを言ってたわね。騎士団遠征と月蝕の時期が重なるって。
原作だと何も描写がなかったから、大したイベントは起きないと――。
「もしよければ、一緒に見ないか?」
………。どうしてだろうか。大したイベントが発生してしまった。
まずは周辺の環境調査である。
学園で気候や環境を学ぶ機会があるけれど、実際に目で見て確認することは重要だ。そういった経験が脳に刷り込まれて、記憶に刻まれるのだから。
ただ、オタクの私は例外になる。
「見て。シュロトルス・ハイビスカスよ。アースウルフが食べると体内で毒に変換されるけれど、人が触っても何も問題はないの」
「クロエ様、よくご存知ですね」
誰よりも目を輝かせる私は、大はしゃぎしている自覚があった。
アルヴィが聞き上手なのか、とても親身になって聞いてくれる。それだけで幸せな気持ちになり、もっと教えたくてたまらなくなってしまう。
何より、推しとの遠足に浮かれていた。
治療師の役目をルビアが代わってくれて、本当によかったわ。幸せすぎると略奪スイッチを踏まないか心配になるけれど、言い出しっぺはルビアだもの。
難しいことを考えるより、今を楽しむべきよ。略奪されそうになったら、潔く捧げるくらいの気持ちで、一生分楽しみましょう。
完全に吹っ切れた私は、それはもう、大いに楽しんでいる。推しを独占しているという高揚感が背中を押し、朝はアルヴィとの時間を大切にすると決めていた。
「見て、アルヴィ。このヨモギみたいな葉は、ネストローレ・ワサビよ。クセのある肉と一緒に食べると、おいしく食べられると辞典に書いてあったわ」
「とても有用な野草ですね。ぜひ採取しておきましょう」
どうしてもイノシシの肉が口に合わないアルヴィは、とても真剣だった。
愚痴を言うことはなくても、予想以上に苦しい思いをして食べていたのかもしれない。よって、黒田の好感度が上がったのは間違いないだろう。
なお、イノシシの肉を食べるように勧めているのも黒田なので、これでプラスマイナスゼロにしてほしい。
さりげなくジグリッド王子が野草の採取を手伝い始める頃、アルヴィが遠くの方を指で差す。
「あの花はルビア様が好きそうですね」
確認してみると、そこには綺麗な花を咲かせるピンク色のタンポポがあった。
よくわかったわね、アルヴィ……。本人に確認したわけじゃないけれど、ルビアが喜ぶことは間違いなしよ。
だって、あの花の花言葉は『略奪愛』なのだから。
「気を付けて。あれはプランドダンデライオンよ。決して近づいてはいけないわ」
「どうしてですか? とても綺麗な花だと思いますが」
「そういう問題ではないの。ここは離れた方がいいわ」
真剣な表情で訴え、ここは危険地帯だと認識して、他の場所の調査に向かうのだった。
***
昼ごはんを食べ終えると、大はしゃぎの黒田がさらに元気になってしまった。
近くの川に水を汲みに行くという重労働でさえ、足が軽くなるほどに。
「あっちに川があるわ! グレン、早く来ないと護衛対象とはぐれるわよ!」
タタタッと駆け出す私は、完全にキャラが崩壊しているだろう。若かりし頃の黒田が現れ、もう楽しくて楽しくて仕方がない。
「ジグリッド、あれはどっちだ?」
「クロエ嬢だ」
「そうか。やっぱり見分けがつかん」
なんだかんだで走って付いてくるグレンを見て、高揚感が止まらない。
犬属性を持ったグレンがついてきてくれる。これが、これが……ドッグランで走る飼い主の気持ち!
きっとルビアが調教してくれたおかげね。普段はルビアとどんなことをしているのかしら。
「ねえ、グレン。いつもルビアと――」
急に立ち止まって振り向いた、その時だった。予想以上にグレンの足が速く、ドンッとぶつかり、転ばないように抱き締められてしまったのは。
「きゅ、急に止まるな。あ、危ないだろう」
「ご、ごめんなさい。少しはしゃぎすぎてしまったわ」
危ない……。前回のお姫様抱っこで推し成分過剰失神の経験をしていなかったら、死んでいたかもしれないわ。どんな理由があろうとも、推しに抱き締められるなんて即死案件だもの。
本当によかったわ、推し成分に抗体ができていて。
ただ、どうしても抱き締められたまま見つめられると、その至近距離にやられしまうわけであって……。
「もう離れてもいいんじゃないか、グレン」
ムスッとしたジグリッド王子に止められてしまう。互いにサッと離れるのは、恥ずかしいだけだ。
ちょっぴり顔が赤いグレンを見れば、さすがに私も彼の気持ちに気づいてしまう。
しっかりとルビアルートに入っている、と。
まだ双子の区別がつかないくらいだし、ルビアだと誤解したのよ。だって、剣術大会の決勝の後、二人は抱き合って慰めるシーンがあるから。その時のことがフラッシュバックして、照れているに違いないわ。
「……先に水を汲むぞ」
これだけ照れているのなら、私の推理は間違いない。ルビアの頑張りが実り、二人の恋は開花したと考えるべきだ。
私の知らないところで頑張ったのね、ルビア。こんなところで妹の成長を感じるなんて、不思議な気持ちになるけれど、嬉しいわ。
順調に逆ハールートに入っていることを認識して、うんうんっと頷いていると、珍しく挙動不審な動きをするジグリッド王子に顔を向けられた。
「クロエ嬢、今夜は何があるか知っているか?」
「今夜……? 何もなかったんじゃないかしら。見張りも休みだったはずよね」
「それはそうなんだが、今日は月蝕が見られるみたいだ」
そういえば、学園の屋上でアルヴィとごはんを食べている時、似たようなことを言ってたわね。騎士団遠征と月蝕の時期が重なるって。
原作だと何も描写がなかったから、大したイベントは起きないと――。
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