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第3話:メイドのシャル1
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婚約破棄された二日後、私はワイワイと賑わう街を一人で歩いていた。
この国は治安が良いとはいえ、公爵家の令嬢が単独行動するなんて、普通はあり得ない。しかし、メイドに変装した私に迷いはなかった。
まずはメイドとして雇ってもらわないと、話が進まないわ。根回しはできないけれど、うまくいくことを願うしかないわね。
王城で働いていたローズレイ家のメイドが解雇されたのは、昨日のこと。すでにウォルトン家のメイドが数名雇用されたのは間違いない。
でも、一般で緊急募集することに大きな意味がある。街の住人に異常事態を知らせるためだ。
「王城でクビを切られたメイド、ローズレイ家らしいぜ」
「マジかよ。じゃあ、シャルロット様が婚約破棄された噂は本当なのか?」
「まだ詳しいことはわからないが、慌ただしいよな。騎士の連中もピリピリしてるみたいだぜ」
こんなことを本人の近くで言えるのは、私が完璧な変装をしているからである。
トレードマークだった長い黒髪を短くして、胸はサラシを強く巻いてサイズを落とした。険しかった表情は口角を上げ、垂れ目メイクで印象を変えれば、誰もローズレイ家の人間だとは思わないだろう。
念のため、髪の毛はシャンプーで洗わず、水で汚れを落とす程度にしておいた。髪の毛が傷んでしまうが、髪質で身分が高いと怪しまれては元も子もない。
顔馴染みが多いとはいえ、王城では誰が敵か味方かわからないのだ。胸にパッドを入れたり、眼鏡をかけたりと、ありきたりな変装で誤魔化そうとすれば、気づかれる恐れがある。
たった二日で街に正確な情報が広がっているのなら、なおさらのこと。
安心できることがあるとすれば、ローズレイ家の評判だけだ。
「レオン殿下は何を考えているんだ? 国を発展させるためには、シャルロット様と婚約するべきだろう」
「きな臭い話だよな。なんでも、新しい婚約者はウォルトン家のグレース様らしいぞ」
「ウォルトン家か……。昔はよかったらしいが、最近では良い話を聞かないな」
隣国と平和協定を結んだこの時代において、自国の悪徳領主を裁くローズレイ家は、民衆から多大なる信頼を得ている。
相手が誰であろうと厳格に対処し、法の下で平等に扱う。身分がある国にとって、それは簡単なようで難しい。が、ローズレイ家は続けてきた。
当然、時代によっては恨まれたこともあったらしい。だからこそ、三大貴族は互いに支え合ってきたのだ。
他国と戦争があった時は、魔導士の家系であるウォルトン家が活躍し、国を守る。
流行り病が発生した時は、薬師の家系であるベルダン家が活躍し、国を立て直す。
自国で問題が起きた時は、法の番人であるローズレイ家が活躍し、国力を高める。
そうしてこの国は、時代に合わせて発展してきた。三大貴族と王家は固い絆で結ばれ、平和な国を作り上げてきたのだ。
しかし、それももう終わり。ウォルトン家の暴走など言語道断であり、この国を裏切ったと考えて間違いない。すでに他国と裏で繋がるスパイだと考えるべきだろう。
隣国と結んだ平和協定も、今となっては怪しいものね。そのあたりの調査はお父様に任せて、私は自国に目を向けるとしましょうか。
街の声に耳を傾けながら歩き進め、王城にたどり着くと、騎士に事情を説明した。メイドの雇用は面接を行うということなので、部屋へ案内される。
部屋の中には、すでに数人ほど希望者が待っていて、椅子に腰をかけていた。名前までは知らないが、顔はなんとなく見たことがある。
子爵家や男爵家の令嬢でしょうね。王城でしっかりと礼儀作法を学び、淑女と成長すれば、明るい未来が待っている。メイドとして働く限り、色々な男性からもアプローチされると思うわ。
しかし、考えが甘い。緊急でメイドを雇用する際に必要とされるのは、礼儀作法だ。研修する期間がない分、即戦力が求められる。
メイドにとって必要なこと、それは慎ましい態度を取り続けること。たとえ貴族であったとしても、王城で働く限りは、身の周りを世話するメイドでなければならない。
だから私は、椅子が用意されていても座らない。お腹の前で手を重ね、試験が始まるのを待ち続けた。
同じく面接を受ける彼女たちに変な目を向けられているが、これは遊びではない。メイドという少ない椅子を勝ち取るための面接試験だ。
しばらく時間が経ち、コンコンッと部屋がノックされる。入ってきた人物を見て、面接希望者たちは立ち上がるが、反射的に立った状態では、自分の体は椅子の前のまま。その時点で彼女たちは、座って待っていたことを表していた。
そして、そんな些細なところに目がいってしまうのが、面接官であるメイド長、ロジリー・ウルハルト。
とてもマナーにうるさく、眼鏡越しに見る鋭い目は、とても怖い。面接の参加者たちがゴクリッと唾を飲む音が聞こえてくるほどであり、早くも震え上がらせていた。
「今回の試験はとても簡単よ。私に向かって、一礼するだけでいいわ。メイドとして相応しいか、それで見抜いてあげる」
厳格な教育を受けるローズレイ家でも頭が上がらないほどマナーに厳しいロジリーは、裏でこう呼ばれている。地獄のメイド長・閻魔様、と。
この国は治安が良いとはいえ、公爵家の令嬢が単独行動するなんて、普通はあり得ない。しかし、メイドに変装した私に迷いはなかった。
まずはメイドとして雇ってもらわないと、話が進まないわ。根回しはできないけれど、うまくいくことを願うしかないわね。
王城で働いていたローズレイ家のメイドが解雇されたのは、昨日のこと。すでにウォルトン家のメイドが数名雇用されたのは間違いない。
でも、一般で緊急募集することに大きな意味がある。街の住人に異常事態を知らせるためだ。
「王城でクビを切られたメイド、ローズレイ家らしいぜ」
「マジかよ。じゃあ、シャルロット様が婚約破棄された噂は本当なのか?」
「まだ詳しいことはわからないが、慌ただしいよな。騎士の連中もピリピリしてるみたいだぜ」
こんなことを本人の近くで言えるのは、私が完璧な変装をしているからである。
トレードマークだった長い黒髪を短くして、胸はサラシを強く巻いてサイズを落とした。険しかった表情は口角を上げ、垂れ目メイクで印象を変えれば、誰もローズレイ家の人間だとは思わないだろう。
念のため、髪の毛はシャンプーで洗わず、水で汚れを落とす程度にしておいた。髪の毛が傷んでしまうが、髪質で身分が高いと怪しまれては元も子もない。
顔馴染みが多いとはいえ、王城では誰が敵か味方かわからないのだ。胸にパッドを入れたり、眼鏡をかけたりと、ありきたりな変装で誤魔化そうとすれば、気づかれる恐れがある。
たった二日で街に正確な情報が広がっているのなら、なおさらのこと。
安心できることがあるとすれば、ローズレイ家の評判だけだ。
「レオン殿下は何を考えているんだ? 国を発展させるためには、シャルロット様と婚約するべきだろう」
「きな臭い話だよな。なんでも、新しい婚約者はウォルトン家のグレース様らしいぞ」
「ウォルトン家か……。昔はよかったらしいが、最近では良い話を聞かないな」
隣国と平和協定を結んだこの時代において、自国の悪徳領主を裁くローズレイ家は、民衆から多大なる信頼を得ている。
相手が誰であろうと厳格に対処し、法の下で平等に扱う。身分がある国にとって、それは簡単なようで難しい。が、ローズレイ家は続けてきた。
当然、時代によっては恨まれたこともあったらしい。だからこそ、三大貴族は互いに支え合ってきたのだ。
他国と戦争があった時は、魔導士の家系であるウォルトン家が活躍し、国を守る。
流行り病が発生した時は、薬師の家系であるベルダン家が活躍し、国を立て直す。
自国で問題が起きた時は、法の番人であるローズレイ家が活躍し、国力を高める。
そうしてこの国は、時代に合わせて発展してきた。三大貴族と王家は固い絆で結ばれ、平和な国を作り上げてきたのだ。
しかし、それももう終わり。ウォルトン家の暴走など言語道断であり、この国を裏切ったと考えて間違いない。すでに他国と裏で繋がるスパイだと考えるべきだろう。
隣国と結んだ平和協定も、今となっては怪しいものね。そのあたりの調査はお父様に任せて、私は自国に目を向けるとしましょうか。
街の声に耳を傾けながら歩き進め、王城にたどり着くと、騎士に事情を説明した。メイドの雇用は面接を行うということなので、部屋へ案内される。
部屋の中には、すでに数人ほど希望者が待っていて、椅子に腰をかけていた。名前までは知らないが、顔はなんとなく見たことがある。
子爵家や男爵家の令嬢でしょうね。王城でしっかりと礼儀作法を学び、淑女と成長すれば、明るい未来が待っている。メイドとして働く限り、色々な男性からもアプローチされると思うわ。
しかし、考えが甘い。緊急でメイドを雇用する際に必要とされるのは、礼儀作法だ。研修する期間がない分、即戦力が求められる。
メイドにとって必要なこと、それは慎ましい態度を取り続けること。たとえ貴族であったとしても、王城で働く限りは、身の周りを世話するメイドでなければならない。
だから私は、椅子が用意されていても座らない。お腹の前で手を重ね、試験が始まるのを待ち続けた。
同じく面接を受ける彼女たちに変な目を向けられているが、これは遊びではない。メイドという少ない椅子を勝ち取るための面接試験だ。
しばらく時間が経ち、コンコンッと部屋がノックされる。入ってきた人物を見て、面接希望者たちは立ち上がるが、反射的に立った状態では、自分の体は椅子の前のまま。その時点で彼女たちは、座って待っていたことを表していた。
そして、そんな些細なところに目がいってしまうのが、面接官であるメイド長、ロジリー・ウルハルト。
とてもマナーにうるさく、眼鏡越しに見る鋭い目は、とても怖い。面接の参加者たちがゴクリッと唾を飲む音が聞こえてくるほどであり、早くも震え上がらせていた。
「今回の試験はとても簡単よ。私に向かって、一礼するだけでいいわ。メイドとして相応しいか、それで見抜いてあげる」
厳格な教育を受けるローズレイ家でも頭が上がらないほどマナーに厳しいロジリーは、裏でこう呼ばれている。地獄のメイド長・閻魔様、と。
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