【完結】聖女の仮面を被った悪魔の女に断罪を~愛するあなたが婚約を破棄すると言うのなら、私は悪役令嬢になりましょう~

あろえ

文字の大きさ
18 / 48

第18話:誕生日パーティー1

しおりを挟む
 連日の緊急会議やメイド業務で慌ただしく過ごすこと、一週間。完璧にメイドとして溶け込んでいる私は、王城で情報収集に励んでいた。

 国王様に関する新しい情報はなく、随分と意識が戻っていないらしい。代わりにレオン殿下が書類に目を通して国王代理を務めているため、多忙の日々を過ごしている。

 同じ王城にいても姿を見ないので、部屋にこもったまま作業しているのだろう。あまり無理をしていないといいのだけれど。

 一方、厳しい王妃教育を受けるグレースは、部屋の模様替えが終わった影響か、最近は妙に機嫌が良い。相変わらず我が儘な一面はあり、ウォルトン家のメイドが振り回される姿を見るが、こっちにとっては好都合だ。

 彼女たちが不信感を持つほど、裏切りにくくなる。こればかりはうまくいくことを祈るしかなかった。

 可能ならば、メイド姿のまま彼女たちと接触して、どういう状況なのか探りたい。しかし、レオン殿下の誕生日パーティーの準備があり、とてもそんな暇はなかった。

 グレースを断罪するその日まで、メイドとして潜入していると隠し通さなければならない。今はまだ我慢の時であり、正念場でもあった。

 その影響もあって、最近の私は妙にピリピリしている。表情でシャルロットだと気づかれないように口角を上げる意識をしているが、親友のソフィアには異変に気づかれているだろう。

 今もソフィアと一緒に誕生日パーティーで使う備品を洗い場で洗っているのだが、苦笑いを浮かべられていた。

「メイドで潜入しているとバレてないんだし、もっと気を抜いたら? 部屋の中くらいは普通に話してもいいと思うんだよね」

「どこで話を聞かれているかわからないわ。極力、シャルロットの痕跡は残したくないの。周囲が確認できる状況じゃない限り、絶対にシャルとして接して」

「気持ちはわかるけど、気を張りすぎるのも良くないよ。素直に話せる時間は少ないと思うし、少しくらいはボクを頼ってよね」

 ソフィアは気遣ってくれるが、正直なところ、すでに色々と甘えさせてもらっている。慣れないメイドの仕事はフォローしてくれるし、近くにいてくれるだけでも気が休まる。

 前回のウォルトン家のメイドを誘き寄せるのだって、ソフィアがいてくれなかったら、ルイスの協力は得られなかった。結局、私は助けられっぱなしだ。

「十分に頼ってるつもりよ。ドレスの件だって、ソフィ以外には相談できなかったわ」

 ウォルトン家を出し抜くためのパーティードレスをドレス屋に依頼したのだが、私には女の子らしい衣装をお願いするセンスはない。だから、代わりにソフィアにデザインをお願いしたのだ。

 絶対に私が着そうにない、派手で大人っぽいドレスをデザインして、と。

 他にもローズレイ家のシャルロットとしても動きたいところではあるものの、ドレスを発注するので精一杯だった。必要以上に行動すれば、墓穴を掘ってしまうため、最低限の行動に抑えている。

「あの派手なドレス、本当に頼んだんだ……」

「言わないでよ。人生で一度きりの買い物なの」

「まあ、シャルロットの黒髪には合っていると思うよ」

「複雑な気分になるからやめて。それより、アリバイ工作はお願いね」

「わかってる。ボクとしては、シャルロットに演技力があることを願うばかりかな」

 裏の事情を理解してくれるロジリーがいるとはいえ、何もしなければ、メイドのシャルはパーティーの裏方に回されてしまう。

 誕生日パーティーにソフィアも呼ばれていることもあり、彼女がメイドの仕事をしているうちに、仮病でシャルが寝込む必要があった。

 どのタイミングで行動しようかな……と考えていると、ちょうど洗い場に先輩メイドが一人でやってくる。

 大興奮の彼女の姿を見れば、何があったのか大体の想像がつく。

「ねえ、聞いた? シャルロット様が王城での着付けを希望したらしいんだけど、すっごい派手なドレスが運ばれてきたらしいよ」

 予想通りの展開になったので、私は話の流れに乗っかる。

「意外ですね。シックなドレスで済ませるとばかり思っていました」

 まさか彼女も、派手なドレスを頼んだ本人とデザインした人物に向かって話しているとは思わないだろう。

「ソフィアさんは、シャルロット様と仲が良いんでしょ? 何か聞いてる?」

「えっ、う、ううん。ボクは久しぶりに会うからわからないけど、心境の変化でもあったんじゃないカナー。シャルロットは、たまにそういうとこあるし」

 ソフィアの演技力に問題があると、私は強く言いたい。キョロキョロと目が泳ぐ姿は怪しく、眉をクイクイッと上下に動かして謎のサインを送ってくるのは、本当にやめてほしい。

 このまま長引かせる方が危険だと判断した私は、急遽予定を変更する。日常会話はやめて、予め立てておいた作戦に移行するため、ソフィアに体を預けるように倒れ込んだ。

「ど、どうしたの、シャルさん。まさか……うわっ、すごい熱!」

 すごい棒読みのソフィアは、私のおでこに手を乗せ、すぐに高熱だと判断した。

 当然、あくまで仮病なので、ザ・平熱である。よって、今からおでこは誰にも触らせてはならない。

「すいません。少しめまいがしてしまって……」

「こんなに熱が出ていたら、仕事なんてできないよ。これはもう、寮のベッドで休むしかないね!」

 今までの努力が水の泡になる気がするので、できる限りソフィアには話してもらいたくない。

「大丈夫? 王城のメイドは大変だし、慣れるまでは体調を崩す子も多いの。無理はしない方がいいよ」

 しかし、とても優しくて純粋な先輩メイドは騙されている。彼女の健気な姿には、感謝の思いでいっぱいだ。

「まだ仕事が残っております。王城のベッドに馴染めず、寝不足なのが原因ですし、気にしないでください」

 ソフィアの肩を借りて立ち上がった後、少し息を荒くし、ボーッとした様子を見せる。

 これだけ優しい人なら、風邪だとアピールするだけでは、世話を焼こうと様子を見に来る可能性が高い。でも、寝不足だと伝えておけば、起こさないようにそっとしておこうと考えるだろう。

 ただ、思った以上に先輩メイドが心配してくれていて、不安そうな表情を向けてくる。

「本当に大丈夫? 私、おばあちゃんの介護を手伝った経験があるの。どれくらいの熱が出たら危ないかわかるから、ちょっと触るね」

 まさかウォルトン家の手先!? と思えるほどピンポイントに嘘を見破ろうとする彼女が、私のおでこに手を近づけた、その時だ。

「あなたたち、何してるの?」

 先輩メイドの手を防ごうとした瞬間、ロジリーが止めに入ってくれたので、無事に難が去った。

 あまりロジリーには頼りたくないし、彼女がどれほどの情報を持っているのかわからない。でも、メイド長のロジリーが風邪だと認めてくれると、話がスムーズに進む。

「シャルさんが体調不良みたいなんです。先ほど倒れてしまって」

「そう。少し確認させてもらうわね」

 ロジリーにおでこを触られてた瞬間、彼女の目が細くなった。思わず、私が目を逸らしてしまうのも、仕方がないことだろう。

 ザ・平熱。異常なしなのだから。

「今日一日ゆっくり休みなさい。レオン殿下の誕生日に多くの方が来客されるの。メイドとして、風邪をうつすことは許されないわ」

 セーフ……。仮病の意図まで理解してくれて、的確な休日をくれた。

 言いかえれば、レオン殿下の誕生日パーティーに出席するのだから、早く準備をしなさい、ということでもある。そうじゃないと、このタイミングで出てきてくれないと思う。

「わかりました。大変申し訳ありませんが、本日は休養させていただきます」

「そうね。同室のソフィアさんに風邪をうつすわけにもいかないし、私の部屋を使いなさい」

 ロジリーの提案を受けて、私は一瞬理解ができなかった。

「……えっ?」
「……えっ?」
「……えっ?」

 どうやらソフィアたちも同じだったみたいだ。優しすぎるロジリーが、逆に違和感を発生させている。

「今は人手不足なの。風邪が長引かれたり、他の人にうつされたりしたら困るわ。ほら、早くついてきなさい」

 ロジリーにガシッと腕をつかまれた私は、そのまま王城の中へと吸い込まれていく。説教されそうで怖い、と謎の不安に襲われながら。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

十二回の死を繰り返した悪役令嬢、破滅回避は諦めました。世界のバグである司書と手を組み、女神の狂ったシナリオをぶっ壊します

黒崎隼人
ファンタジー
十二回の死を繰り返した公爵令嬢オフィーリア。十三回目の人生で彼女が選んだのは、破滅の回避ではなく、世界の破壊だった。 「この世界は、女神の描いた三文芝居に過ぎない」 ループする度に歪む日常、完璧な仮面の下に狂気を隠した婚約者や聖女。全てが残酷な神の「物語」の駒でしかないとしたら? これは、筋書きを押し付けられた悪役令嬢が、同じく運命に抗う謎の司書と「共犯者」となり、狂った世界のシステムに反逆する物語。断罪の先に待つのは救済か、それとも完全な無か。真実が世界を壊すダークミステリーファンタジー、開幕。

捨てられた悪役はきっと幸せになる

ariya
恋愛
ヴィヴィア・ゴーヴァン公爵夫人は少女小説に登場する悪役だった。 強欲で傲慢で嫌われ者、夫に捨てられて惨めな最期を迎えた悪役。 その悪役に転生していたことに気づいたヴィヴィアは、夫がヒロインと結ばれたら潔く退場することを考えていた。 それまでお世話になった為、貴族夫人としての仕事の一部だけでもがんばろう。 「ヴィヴィア、あなたを愛してます」 ヒロインに惹かれつつあるはずの夫・クリスは愛をヴィヴィアに捧げると言ってきて。 そもそもクリスがヴィヴィアを娶ったのは、王位継承を狙っている疑惑から逃れる為の契約結婚だったはずでは? 愛などなかったと思っていた夫婦生活に変化が訪れる。 ※この作品は、人によっては元鞘話にみえて地雷の方がいるかもしれません。また、ヒーローがヤンデレ寄りですので苦手な方はご注意ください。 ※表紙はAIです。

存在感のない聖女が姿を消した後 [完]

風龍佳乃
恋愛
聖女であるディアターナは 永く仕えた国を捨てた。 何故って? それは新たに現れた聖女が ヒロインだったから。 ディアターナは いつの日からか新聖女と比べられ 人々の心が離れていった事を悟った。 もう私の役目は終わったわ… 神託を受けたディアターナは 手紙を残して消えた。 残された国は天災に見舞われ てしまった。 しかし聖女は戻る事はなかった。 ディアターナは西帝国にて 初代聖女のコリーアンナに出会い 運命を切り開いて 自分自身の幸せをみつけるのだった。

好きな人に『その気持ちが迷惑だ』と言われたので、姿を消します【完結済み】

皇 翼
恋愛
「正直、貴女のその気持ちは迷惑なのですよ……この場だから言いますが、既に想い人が居るんです。諦めて頂けませんか?」 「っ――――!!」 「賢い貴女の事だ。地位も身分も財力も何もかもが貴女にとっては高嶺の花だと元々分かっていたのでしょう?そんな感情を持っているだけ時間が無駄だと思いませんか?」 クロエの気持ちなどお構いなしに、言葉は続けられる。既に想い人がいる。気持ちが迷惑。諦めろ。時間の無駄。彼は止まらず話し続ける。彼が口を開く度に、まるで弾丸のように心を抉っていった。 ****** ・執筆時間空けてしまった間に途中過程が気に食わなくなったので、設定などを少し変えて改稿しています。

運命に勝てない当て馬令嬢の幕引き。

ぽんぽこ狸
恋愛
 気高き公爵家令嬢オリヴィアの護衛騎士であるテオは、ある日、主に天啓を受けたと打ち明けられた。  その内容は運命の女神の聖女として召喚されたマイという少女と、オリヴィアの婚約者であるカルステンをめぐって死闘を繰り広げ命を失うというものだったらしい。  だからこそ、オリヴィアはもう何も望まない。テオは立場を失うオリヴィアの事は忘れて、自らの道を歩むようにと言われてしまう。  しかし、そんなことは出来るはずもなく、テオも将来の王妃をめぐる運命の争いの中に巻き込まれていくのだった。  五万文字いかない程度のお話です。さくっと終わりますので読者様の暇つぶしになればと思います。

王家を追放された落ちこぼれ聖女は、小さな村で鍛冶屋の妻候補になります

cotonoha garden
恋愛
「聖女失格です。王家にも国にも、あなたはもう必要ありません」——そう告げられた日、リーネは王女でいることさえ許されなくなりました。 聖女としても王女としても半人前。婚約者の王太子には冷たく切り捨てられ、居場所を失った彼女がたどり着いたのは、森と鉄の匂いが混ざる辺境の小さな村。 そこで出会ったのは、無骨で無口なくせに、さりげなく怪我の手当てをしてくれる鍛冶屋ユリウス。 村の事情から「書類上の仮妻」として迎えられたリーネは、鍛冶場の雑用や村人の看病をこなしながら、少しずつ「誰かに必要とされる感覚」を取り戻していきます。 かつては「落ちこぼれ聖女」とさげすまれた力が、今度は村の子どもたちの笑顔を守るために使われる。 そんな新しい日々の中で、ぶっきらぼうな鍛冶屋の優しさや、村人たちのさりげない気遣いが、冷え切っていたリーネの心をゆっくりと溶かしていきます。 やがて、国難を前に王都から使者が訪れ、「再び聖女として戻ってこい」と告げられたとき—— リーネが選ぶのは、きらびやかな王宮か、それとも鉄音の響く小さな家か。 理不尽な追放と婚約破棄から始まる物語は、 「大切にされなかった記憶」を持つ読者に寄り添いながら、 自分で選び取った居場所と、静かであたたかな愛へとたどり着く物語です。

〈完結〉【書籍化&コミカライズ・取り下げ予定】毒を飲めと言われたので飲みました。

ごろごろみかん。
恋愛
王妃シャリゼは、稀代の毒婦、と呼ばれている。 国中から批判された嫌われ者の王妃が、やっと処刑された。 悪は倒れ、国には平和が戻る……はずだった。

貴方が側妃を望んだのです

cyaru
恋愛
「君はそれでいいのか」王太子ハロルドは言った。 「えぇ。勿論ですわ」婚約者の公爵令嬢フランセアは答えた。 誠の愛に気がついたと言われたフランセアは微笑んで答えた。 ※2022年6月12日。一部書き足しました。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。  史実などに基づいたものではない事をご理解ください。 ※話の都合上、残酷な描写がありますがそれがざまぁなのかは受け取り方は人それぞれです。  表現的にどうかと思う回は冒頭に注意喚起を書き込むようにしますが有無は作者の判断です。 ※更新していくうえでタグは幾つか増えます。 ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

処理中です...