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第27話:シャルロットとレオン殿下6
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ロジリーがローズレイ家に所縁のある人だと知り、私はどういう気持ちになっていいのかわからなくなっていた。
「どうして教えてくれなかったんですか?」
「教えたら、何か変わりましたか?」
……ちょっと親近感が湧く。などという、子供じみた答えしか思い浮かばない。言われてみれば、何も変わらないかもしれないが、隠すことでもないと思う。
むしろ、ローズレイ家に関りが深いなら、もっと応援してくれてもよかったのに。
そんな私の気持ちを察したのか、珍しくロジリーが微笑みかけてくれた。
「シャルロット様は、もう少しローズレイ家について学ぶべきですね。お父様の仕事される姿しか見ておらず、厳格なローズレイ家としての生き方しか身についていないのでしょう」
「私にとっては、見てきた光景がすべてです。今頃言われても困ります」
「こちらも扱いに困りますよ。シャルロット様の感情と事情が把握できただけに、罪悪感を覚えてきました。はぁ~、まさか今まで嫌味を言っていなかったとは」
「私よりも落ち込むのはやめてもらってもいいですか? とても複雑な気持ちになりますので」
頭を抱え込むロジリーを責める気にはならないし、誰が良いとか悪いとか、そういう問題でもないだろう。ローズレイ家らしい態度を取る私は誤解されやすいから、厳しすぎるロジリーの気持ちがわからないでもなかった。
他人に厳しく接するメイド長の彼女もまた、私と同様に誤解されやすいから。
八年もの長い間、互いにすれ違い続けてきただけだ。正確にいえば、一方的に理解されただけであり、私はまだわかっていない部分も多いが。
「だいたいのことは把握できました。性格がお母様譲りなのだとしたら、今が素ですね? 普段の強気な態度は、あくまでローズレイ家として生きているから、という認識でよろしいですか?」
「……内緒にしておいてください。お父様に態度や口調は強制されましたが、ずっとそのままでいるのは不可能です。私だって普通の女の子に戻ることくらいはありますよ」
「はぁ~、どうりでレオン殿下が文句を言わないはずです。裏ではこんな感じだったんですね」
はい、そうです。裏ではこんな形で甘えていました、とはさすがに言えませんよ。そこは聞かないでください。
「いま、私は褒められてますか? 怒られてますか?」
「どちらもです。とにかく、今後はもう少しフランクに接してください。ローズレイ家の威厳よりも、色々な方の誤解を解くことを優先させる必要がありますから」
優しくされているのか、怒られているのかわからない。でも、わざわざアドバイスをくれるあたり、面倒見がいい人なのは間違いない。
もし彼女が厳しいだけの人だったら、王城でメイド長なんてやらせてもらえないから。
ただ、あくまでレオン殿下の婚約者になれることが前提の話であって……。
「気持ちはありがたいですが、私にはもう、元に戻る資格がありません」
言葉にするのは億劫だったので、レオン殿下の手紙をチラッと見せた。
レオン殿下が体を許してしまった以上、グレースしか婚約者になれない。この事実だけが私をここまで落ち込ませていた。
「今でもシャルロット様がレオン殿下を愛しているのなら、信じてあげてください。誰かを裏切るような方ではありません」
「王位継承者は体を許した人しか婚約できない、という決まりがあります。なので、私にはもう……痛ッ」
あまりにも弱音を吐きすぎたのか、ロジリーにコツンッと頭を叩かれた。
「さすがにローズレイ家出身とあり、根は真面目ですね。そのような法律の問題は何とでもなるでしょう。極端な話、二人だけで失踪すればいいのです」
「簡単に言わないでください。ティエール王国に住む人たちはどうなるんですか」
「例えばの話です。例外を認める形で法律を変更するなど、婚約者になる方法はいくらでもあります。今もなお、レオン殿下がグレース様に手を出さないのは、似たようなことを考えられているからでしょう」
そう言われてみれば、レオン殿下が媚薬に抗う理由がわからなかった。
体を許した相手なのだし、媚薬を使われているのなら、自暴自棄になってもおかしくない。
グレースを受け入れた方が楽になるはずなのに、どうして苦しい思いを耐え抜き、こんな手紙を私に渡しただろうか。
国王様のため? 王族としての誇り? 私への配慮? うーん、どれも合っているようで違う気がする。何かが変なことはわかるのに、その先が見えてこない。
でも、なんとなくはわかる。きっと己の意思で体を許したわけではなくて、とても後悔しているんだって。だから、グレースを拒み続け、私に手紙を書いた。
それなら……やっぱり助けたい。王家に忠義を尽くす家臣たちではなく、わざわざ私に助けを求めてくれたんだから。
「レオン殿下と結ばれる可能性があるのなら、もう少し頑張ってみようかな」
「当たり前ではないですか。私たちと八年間も対立していたのに、これくらいのことで諦めてもらっては困ります」
言い合いしていた名残があるのか、とても不器用なエールをロジリーが送ってくれた。でも、不思議と優しく背中を押してくれている気がする。
まだ諦めるのは早いかもしれない。
「色々と話を聞いてくれてありがとう、ロジリー。私一人だったら、ずっと落ち込んでた気がするの」
目を見て感謝の言葉を告げると、顔を赤くしたロジリーがそっぽを向いた。
「勘違いしないでください。シャルロット様のために話したわけではありません。レオン殿下のためです」
素直になれと言っていたのは、どこの誰だったのかな。まあいいか。ロジリーとは軽く言い合っている方が落ち着く気がする。
「そういうことにしておくわ。ロジリーも無理しないようにね」
「余計なお世話です。シャルロット様が退いたとしても、私たちだけでも反撃は致しますので」
立ち上がったロジリーが机の引き出しに入っていた紙を私に見せてくれた。そこには、グレースが王妃に相応しくない理由と、次期王妃反対の多くの署名が書かれている。
「愚かな貴族が王妃の座に就こうとするなど、笑止千万。ローズレイ家だけを敵と見ているうちは、恐るるに足りません」
この日ほど、とても頼もしい仲間ができて嬉しいと思ったことはなかった。
私のためではなく、レオン殿下のためなのかもしれないが、今はこの希望にあやかろう。まだ婚約者に戻れないと決まったわけではないのだから。
「どうして教えてくれなかったんですか?」
「教えたら、何か変わりましたか?」
……ちょっと親近感が湧く。などという、子供じみた答えしか思い浮かばない。言われてみれば、何も変わらないかもしれないが、隠すことでもないと思う。
むしろ、ローズレイ家に関りが深いなら、もっと応援してくれてもよかったのに。
そんな私の気持ちを察したのか、珍しくロジリーが微笑みかけてくれた。
「シャルロット様は、もう少しローズレイ家について学ぶべきですね。お父様の仕事される姿しか見ておらず、厳格なローズレイ家としての生き方しか身についていないのでしょう」
「私にとっては、見てきた光景がすべてです。今頃言われても困ります」
「こちらも扱いに困りますよ。シャルロット様の感情と事情が把握できただけに、罪悪感を覚えてきました。はぁ~、まさか今まで嫌味を言っていなかったとは」
「私よりも落ち込むのはやめてもらってもいいですか? とても複雑な気持ちになりますので」
頭を抱え込むロジリーを責める気にはならないし、誰が良いとか悪いとか、そういう問題でもないだろう。ローズレイ家らしい態度を取る私は誤解されやすいから、厳しすぎるロジリーの気持ちがわからないでもなかった。
他人に厳しく接するメイド長の彼女もまた、私と同様に誤解されやすいから。
八年もの長い間、互いにすれ違い続けてきただけだ。正確にいえば、一方的に理解されただけであり、私はまだわかっていない部分も多いが。
「だいたいのことは把握できました。性格がお母様譲りなのだとしたら、今が素ですね? 普段の強気な態度は、あくまでローズレイ家として生きているから、という認識でよろしいですか?」
「……内緒にしておいてください。お父様に態度や口調は強制されましたが、ずっとそのままでいるのは不可能です。私だって普通の女の子に戻ることくらいはありますよ」
「はぁ~、どうりでレオン殿下が文句を言わないはずです。裏ではこんな感じだったんですね」
はい、そうです。裏ではこんな形で甘えていました、とはさすがに言えませんよ。そこは聞かないでください。
「いま、私は褒められてますか? 怒られてますか?」
「どちらもです。とにかく、今後はもう少しフランクに接してください。ローズレイ家の威厳よりも、色々な方の誤解を解くことを優先させる必要がありますから」
優しくされているのか、怒られているのかわからない。でも、わざわざアドバイスをくれるあたり、面倒見がいい人なのは間違いない。
もし彼女が厳しいだけの人だったら、王城でメイド長なんてやらせてもらえないから。
ただ、あくまでレオン殿下の婚約者になれることが前提の話であって……。
「気持ちはありがたいですが、私にはもう、元に戻る資格がありません」
言葉にするのは億劫だったので、レオン殿下の手紙をチラッと見せた。
レオン殿下が体を許してしまった以上、グレースしか婚約者になれない。この事実だけが私をここまで落ち込ませていた。
「今でもシャルロット様がレオン殿下を愛しているのなら、信じてあげてください。誰かを裏切るような方ではありません」
「王位継承者は体を許した人しか婚約できない、という決まりがあります。なので、私にはもう……痛ッ」
あまりにも弱音を吐きすぎたのか、ロジリーにコツンッと頭を叩かれた。
「さすがにローズレイ家出身とあり、根は真面目ですね。そのような法律の問題は何とでもなるでしょう。極端な話、二人だけで失踪すればいいのです」
「簡単に言わないでください。ティエール王国に住む人たちはどうなるんですか」
「例えばの話です。例外を認める形で法律を変更するなど、婚約者になる方法はいくらでもあります。今もなお、レオン殿下がグレース様に手を出さないのは、似たようなことを考えられているからでしょう」
そう言われてみれば、レオン殿下が媚薬に抗う理由がわからなかった。
体を許した相手なのだし、媚薬を使われているのなら、自暴自棄になってもおかしくない。
グレースを受け入れた方が楽になるはずなのに、どうして苦しい思いを耐え抜き、こんな手紙を私に渡しただろうか。
国王様のため? 王族としての誇り? 私への配慮? うーん、どれも合っているようで違う気がする。何かが変なことはわかるのに、その先が見えてこない。
でも、なんとなくはわかる。きっと己の意思で体を許したわけではなくて、とても後悔しているんだって。だから、グレースを拒み続け、私に手紙を書いた。
それなら……やっぱり助けたい。王家に忠義を尽くす家臣たちではなく、わざわざ私に助けを求めてくれたんだから。
「レオン殿下と結ばれる可能性があるのなら、もう少し頑張ってみようかな」
「当たり前ではないですか。私たちと八年間も対立していたのに、これくらいのことで諦めてもらっては困ります」
言い合いしていた名残があるのか、とても不器用なエールをロジリーが送ってくれた。でも、不思議と優しく背中を押してくれている気がする。
まだ諦めるのは早いかもしれない。
「色々と話を聞いてくれてありがとう、ロジリー。私一人だったら、ずっと落ち込んでた気がするの」
目を見て感謝の言葉を告げると、顔を赤くしたロジリーがそっぽを向いた。
「勘違いしないでください。シャルロット様のために話したわけではありません。レオン殿下のためです」
素直になれと言っていたのは、どこの誰だったのかな。まあいいか。ロジリーとは軽く言い合っている方が落ち着く気がする。
「そういうことにしておくわ。ロジリーも無理しないようにね」
「余計なお世話です。シャルロット様が退いたとしても、私たちだけでも反撃は致しますので」
立ち上がったロジリーが机の引き出しに入っていた紙を私に見せてくれた。そこには、グレースが王妃に相応しくない理由と、次期王妃反対の多くの署名が書かれている。
「愚かな貴族が王妃の座に就こうとするなど、笑止千万。ローズレイ家だけを敵と見ているうちは、恐るるに足りません」
この日ほど、とても頼もしい仲間ができて嬉しいと思ったことはなかった。
私のためではなく、レオン殿下のためなのかもしれないが、今はこの希望にあやかろう。まだ婚約者に戻れないと決まったわけではないのだから。
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